FASHION / TREND & STORY

1997年のモードシーンで何があった?ガリエラ宮の企画展で辿る、数奇なシンクロニシティ【2023-24年秋冬トレンドまとめ】

パリのガリエラ宮モード美術館にて開催中の「1997 ファッション・ビッグバン」に見る、1997年と現代の数奇なシンクロニシティ。

モードの歴史を語る上で、忘れてはならない年号がいくつかある。マドモアゼル シャネルが帽子ブティックをオープンした1910年。クリスチャン・ディオールが初めてオートクチュール コレクションを発表した1947年。イヴ・サンローランによる「モンドリアン」ルックが発表された1965年、そしてクリストバル・バレンシアががメゾンをクローズした1968年。これらと並び、今後記憶に留めて置く必要があるのが、1997年だ。

1997年、世界では何が起こっていたのか。ジャンニ・ヴェルサーチがマイアミの別荘で射殺され、翌月にはダイアナ元妃の悲劇的な事故死が世界中を震撼させた年。日本では、安室奈美恵の名曲「CAN YOU CELEBRATE?」が200万枚以上のセールスを叩き出し、年間シングルチャートで1位に輝いたほか、「たまごっち」が日本中を席巻していた年だ。

この年、モードシーンではエポックメイキングなクリエイションが話題をさらった。コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)の伝説の「Body Meets Dress, Dress Meets Body」コレクション、通称“こぶドレス”や、アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)によるジバンシィ(GIVENCHY)ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)によるディオール(DIOR)のそれぞれデビューコレクション、そしてジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)の初のオートクチュールコレクション。これら全てが同じ年に起こったと考えると、いかにモード史において重要な一年であったか理解できるだろう。

コム デ ギャルソン 1997年春夏コレクションより。©GETTY

ジバンシィ 1997年春夏オートクチュール コレクションより。©GETTY

Daniel SIMON/Getty Images

ディオール 1997年春夏オートクチュール コレクションより。©GETTY

Daniel SIMON/Getty Images

ジャンポール・ゴルチエ 1997年春夏 オートクチュール コレクションより。©GETTY

Victor VIRGILE/Getty Images

これらの燦然と輝く金字塔を再訪し、キュレートしたのが、現在パリのガリエラ宮モード美術館にて開催中の「1997 ファッション・ビッグバン」。今シーズン2023-24年秋冬のパリ・ファッションウィーク期間中に開幕した本展の展示作品を見ると、1997年と現代、より限定的に言えば今シーズンのランウェイトレンドが密接に関わっていることに気づく。例えばメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)の1997年春夏コレクションで提唱された、脱構築的なパターンやディテールの影響は、今シーズンのルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)サカイ(SACAI)が打ち出した「未完成の美学」からも見て取れるだろう。

メゾン マルジェラ1997年春夏コレクションより。©GETTY

クロエ1997年春夏コレクションより。©GETTY

Fairchild Archive/Getty Images

より直接的なリファレンスでいえば、グッチ(GUCCI)の秋冬ランウェイでファーストルックで登場した「GGロゴ」のブラトップ。説明するまでもなく、トム・フォード期にあたるグッチの1997年春夏コレクションで登場し、物議を醸した「G-ストリング」のソング(Tバックの下着)へのオマージュだ。パコ・ラバンヌの1997年春夏コレクションを復刻した、ジュリアン・ドッセーナによるカスタムメイドのルックを選んだメーガン・ジー・スタリオンも、この潮流と無関係ではないだろう。

ジュリアン・ドッセーナによるパコ・ラバンヌのカスタムメイドの衣装を着用したメーガン・ジー・スタリオン。Photo courtesy of brand

Donato Sardella/Getty Images

これらの偶然を、単なるファッショントレンドと捉えるのは、安直すぎるように思う。社会情勢、テクノロジー、カルチャーなどで新たな時代への転換を迎えた1997年という年との数奇なシンクロニシティ。流転するファッションから、何を学び、次の世代へと遺していくのか。繋がれたバトンの行く先に刮目したい。

Text: Shunsuke Okabe