気持ちの良い日差しが降り注ぐズーム画面の向こうに現れたヘイリー・ビーバーは、黒いタンクトップにデニム、そして黒フレームの眼鏡というリラックスした姿で、野外のデッキに座っていた。東京とコネクトされた先は、ロッキー山脈の中心に位置し、美しく雄大な自然との共存を大切にしているアメリカのアイダホ州だった。
モデル、ビジネスウーマン、インフルエンサーなど、さまざまな肩書きを持つヘイリー・ビーバーの生活はゴージャスで華やかに見えるが、一方で一挙一動をカメラに追い回される日々の苦悩ははかりしれない。心身の健康とバランスを保つために、「自然に囲まれながら、ゆったりとリラックスすることが不可欠」だと語る彼女が、田舎にいるのは当然のことだった。挨拶を交わすと、まず彼女の方から、モデルとして参加したヴォーグ ジャパンのカバー撮影について口を開いた。
「撮影は最高に楽しくて、とても有意義な時間を過ごすことができました。メイクのカナコも大好きだし、スタイリストのパティのようなレジェンドも参加して、ものすごくハッピーな撮影でした」。そして、モデル業の素晴らしさについて、こう続けた。「なんと言ってもストーリーテリングにあると思っています。さまざまな人たちと一緒に創造力を駆使し、ファッションを通してキャラクターや物語に命を吹き込むことができるのが、素敵だなと感じています」。
柔らかな笑顔を浮かべる彼女はサンローラン(SAINT LAURENT)とティファニー(TIFFANY & CO.)の顔として、広告キャンペーンに登場している。今回の撮影の衣装でも、普段の自身に近いスタイルを、「やっぱり表紙のサンローランのスタイリングです。個人的なテイストと合致しているので」と語った。同時に、まったく違うお気に入りも発見したようだ。
「撮影に登場したミュウミュウ(MIU MIU)の黒のバッグに一目ぼれをして、思わず私のスタイリストさんに『あのバッグが欲しい』と、連絡をしてしまいました。こうやって発売前の素敵なアイテムたちと出会い、脳内ショッピングをしている感覚になれるのも撮影の楽しみの一つですよね」
2022年の6月に立ち上げたビューティーブランド「ロード・スキン(rhode skin)」も1年が経過。順調に成長を遂げており、全米に続き、英国にも市場を拡大したばかり。「『rhode』を手がける上での醍醐味は、明確なヴィジョンを持ち、製品やイメージ、ブランディングなどを通じてそのヴィジョンが形になるのを見ることができる点です。私は『rhode』の創業者であり、クリエイティブ・ディレクターでもあるので、プロダクトに使用する原材料選びからパッケージのデザインまで、すべてのクリエイティブな側面に深く関わることができています。この仕事が本当に好きで、とても充実した日々を送っています」
そして、これから起業を考えている人たちに、こんなアドバイスをくれた。「私の最大のアドバイスは、『少ない方が豊かである(Lessis more)』という概念です。欲張りすぎず、一点にフォーカスしてシンプルに始めることがいいのではないでしょうか。『rhode』にも、私自身の簡単でシンプルなスキンケアルーティンが反映されています。何事も無駄をそぎ落とし、必要最低限という考えが大事だと、私は思うんです」
ちなみにそのシンプルなスキンケアルーティンについても教えてくれた。「現在『rhode』にはリップトリートメント、美容液、クリームの3つの製品しかありません。来年には4つ目の製品を発表しようと、いろいろと動いているところですが、とにかくできるだけ無駄をはぶいてシンプルにというのが私の哲学なんです。なので、私自身も朝は美容液と日焼け止め。夜も基本的に同じ美容液を使いますが、そこにひと手間、例えば私はトレチノインクリームが好きなのでそれをプラスする程度。本当にそのくらいなんです」
大の音楽好きでもあり、普段の生活に音楽は欠かせない。「オーストラリアのバンド、テーム・インパラが大好きだし、最近はシザ、それからダニエル・シーザーの新作アルバム『NEVER ENOUGH』と、ドン・トリヴァーの新作『LoveSick』にもハマってヘビロテしています。あとずっと変わらず好きで、必ず回帰するのがフランク・オーシャン」
幼いころの夢はプロのバレエダンサーになることだった。ところが、17歳のときに足を負傷。そのケガが原因で12年間続けてきたバレエに別れを告げることになる。しかし、変わらず続けているのが、健康的な体づくりだ。
「ワークアウトは嫌いじゃないんです。ピラティスと、ウェイトを使った普通のトレーニングのような筋力トレーニングをミックスしてやっています。ピラティスはダンサーとしての強さと体幹を維持するのに役立つ気がしてすごく好きです。これは完全に昔バレエをやっていた影響です」
一方で、おうち時間を満喫するために、イッキ見したくなるテレビドラマやショーも欠かさずチェックしているという。「つい最近観終えたのが、HBOシリーズの『Love & Death』というドラマ」。1970年〜80年代のテキサスを舞台にした、実話に基づいた犯罪ドラマで、エリザベス・オルセンが主演を務めている。
「ちょっと怖いところもあったけど、楽しみながらイッキ見してしまいました。それから映画館で『リトル・マーメイド』を観賞したばかり。主演のハリー・ベイリーの演技も歌声も最高でめちゃくちゃ楽しみました」
世界中の人たちが憧れ、お手本にしたがるファッションアイコンのヘイリーだが、自身がスタイリングにおいて大切にしているのは自分らしさ。「楽しいことが大好きだし、自分自身も楽しくあって、ときにアクティブだけどクラシックな部分もある。そしてたまにはやんちゃな面も出たりする。自分が着ているものを俯瞰したときに、そういう私の個性とさまざまな感情やエネルギーが一つになったスタイルこそ、私らしいスタイルだと思うんです。今注目しているのは、ミニスカートにローファーと靴下を合わせたような、甘いバイブスを感じられるスタイル。でも、やっぱりそこにビッグサイズのジャケットを投入するのが私流。スタイリングは快適さと着心地の良さを重視しています」
昨年の11月には夫のジャスティン・ビーバーと来日し、日本で26歳の誕生日を迎えた。「東京では必ずといっていいほどドン・キホーテに行き、いろんなお菓子を物色するのが大好き。東京は、世界中で最も好きな都市の一つ。チームラボは大好きな場所だし、前回は滞在中にミュージアムにも行きました。あとはセブンイレブンに行って、新しいお菓子やドリンクを試してみたり、レストランに行ったり……。ってほとんど食べ物の話ですが、本当にそんなことをしているだけであっという間に時間が過ぎてしまうんです」
そう言って笑うヘイリーだが、常に彼女の周りでは何かが起きているため、心から安心できる場所も少ないのだ。「私が一番充実していて満たされていると感じるのは、夫と愛犬と一緒にくつろいでいる時間です。たとえ自宅じゃなくても、平和で静かな時間が過ごせる場所があるのだとしたら、どこでもいいのかもしれない。プライバシーがしっかりと守られている空間で、静けさを感じていたいんです」
自分たちの時間を持ち、精神的にも肉体的にも健康でいるために、さまざまなことに「ノー」と言わなければいけないのが、挑戦であり、ときに辛かったりすると話す。それでも挑戦を続けるモチベーションはどこにあるのだろう。
「おそらく自分自身との戦いなんだと思っています。いつでも次のことを考え、今以上に良いこと、新しいことをやりたいと考えて行動してきました。同じ場所に踏みとどまっていたり、一カ所でぐるぐるするようなことをしたくないんです。でも、私の本当のモチベーションは、周囲の人たちからインスピレーションを受けて、自分自身が今よりもステップアップしたい、今以上の人間になりたいと思うときに、生まれているのだと思います」
今年で結婚生活5年目を迎え、キャリアも順調だ。「『rhode』も将来的にはメイクアイテムにも参入したいと思っていますし、いつか日本でも発売できたらなと思っています」。メディアに追いかけ回される毎日を生きるだけでも必死そうだが、10年後の未来のイメージをこう語る。「子どもがいて、多岐にわたって仕事ができていたらいいなと思います。もちろん『rhode』も今以上に発展し、より深く関わっていられたら十分幸せです」
Styling: Patti Wilson Hair: Shingo Shibata Makeup: Kanako Takase using Addiction Manicure: Eri Handa Visuals Director: Yukino Moore Senior Talent & Casting Manager: Gabrielle Seo Production: Felix Cadieu at Neighbors Styling Assistants: Ali Claire Marino, Arut Arustamyan and Sho Ishikura Tailor: Justin Bontha