パリ第9区、グラン・ブールヴァールに小松菜奈が姿を現した。2024年28歳となっ た彼女は、弱冠 12歳でモデルデビューを果たし、18歳のときに映画『渇き。』(2014)で本格的に俳優に挑戦。美貌と邪心を持ち合わせ女子高生役で大きなインパクトを残し、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。以来、常にスポットライトに照らされながらも、新たな表現への挑戦を続けてきた彼女の多面的な魅力をキャッチすべく、パリを舞台にインターナショナルなチームが揃った。
今回の撮影のテーマは「Super Chameleon(スーパーカメレオン)」。多様なアイデンティティを表現し自在に変幻する小松の姿を、カメラが追いかける。「モデルの仕事の最大の魅力は、自由に表現ができることです。どうしたら服が良く見えるかというのも大事ですがそれをどう生かして魅力的に見せられるか。普段なかなか着ることのできない服を着て、どんな表現ができるかを試す、服とセッションできる時間が好きです」と小松は話す。
一方で、役者としてカメラの前に立つ際には、衣装に助けられることも多い。『俳優の仕事では、役作りをする上でファッションはすごく大切なツール。演じる人物のキャラクターが外見に反映されるので、衣装合わせの時間は念入りにします。視覚はとても大事で、服に助けてもらえる部分も大きいので、ファッションはどんな場面でも重要だなと感じています。モデルのお仕事は12歳から続けているので、居心地のいいホーム感がある。自分ならではの表現を開拓できて、感覚的な表現が私をワクワクさせてくれる。それに対して俳優の仕事はずっと緊張感があるので、とにかく深呼吸。もちろん、やるからには妥協せず燃え尽きるまで集中して取り組みますが、コミュニケーションと相手を思いやる心、そして自分を閉ざさないことの大切さを感じます。私の性格上、モデルと俳優の両方があるからバランスが保てている気がしています」
2016年に就任したシャネルのアンバサダーの経験こそ、彼女の人生に大きな影響を与えていることは間違いない。これまでのキャリアの中で、最も記憶に刻まれている出来事の話になると、彼女は即座に「シャネルの2023-24年秋冬コレクションのヴィジュアルを飾らせていただいたことです」と答えた。
「まさか自分がヴィジュアルを飾れるなんて思いもしなかったので、言葉にならないほどの思いがあふれました。ショーの終わりにシャネルの前のアーティスティック・ディレクターがハグをしてくれがことが最大のハイライト。一緒に創りあげた仲間として受け入れてもらえたことが本当に嬉しかったですし、心がきれいな方だなと思いました。そして、彼女を筆頭にクリエイティチームの方々とも対話を重ね、一緒にクリエイトできたことが私の中で一番豊かで幸せな時間でした。頼もしい仲間たちが、情熱と緻密さ、お互いを思いやるリスペクト精神を分かち合っている。何よりも創る人たちが本当に仲が良くて、楽しそうにしているところに心打たれました。改めてファッションが大好きで良かったと思えましたし、きっとこの先もずっと、ファッションが私を救い、ワクワクさせてくれる存在であり続けるのだと思います」
この体験を経て感じたのは、自分の思いを共有することの大切さ。相手とコミュニケーションを取るには言葉は必須だが、その言葉を超えるのが心のつながりだ。
「今できないことはコツコツと学び、焦らずに乗り越えていこうと思っています。『もっとこうできたらいいのに』と思うことは数え切れないほどあるし、悔しい思いは尽きない。でも自分らしい表現を見せて、それ以上の心のつながりを感じられたときに、言葉を超えるものがあるのだと確信できて、それが自信につながりました。自分が楽しみ、周りも同じ気持ちでいてくれたらそれが一番。とにかく、経験できたことを噛み締めて、次のステージに進むべく努力を惜しまないことだと思っています。多くを求めず、まずは自分の周りにいる大切な人の存在を感じ、その人たちが幸せでいてくれることを願い、その時間や喜ぶを大切にしたいな、とシンプルに思います」
自身の性格を「自由。諦めない。思い立ったらすぐ行動する」と分析する。確かに、フットワークが軽く、心身ともに自由でありながら、やると決めたことはとことん突き詰めて決して諦めない性格だからこそ、多くのチャレンジができているのだろう。その中で彼女は、自身の個性を輝かせるためにあることを心がけている。
「人と比べないことです。比較したい部分はたくさんあるけれど、そうしたら自分ではなくなってしまう気がします。今はSNSなどからいろんな情報が目に入ってきますが、正しい内容もあればそうでないものもある。だから情報に振り回されずに、自分の感性を信じること。世の中には見えないことも多いですし、捉え方も人それぞれ。それは当然のことなので、人の意見に振り回されず、その時間を自分に費やして、自分の個性をどう生かすか、自分がどうなりたいかを考えたほうが、私は豊かだと思うんです」
こう語る小松だが、もちろん彼女にも体調や気分の浮き沈みはある。多忙な中でメンタルヘルスはどのように保っているのだろうか。
「天気のように、昨日と今日で自分の心はちょっと違う。ニキビ一つできただけでも、その日は家から出たくなくなるし、緊張からくるストレスだったり、女性の場合は生理やホルモンバランスが崩れてイライラするときだってある。でも、おいしいご飯を食べたら急に『気分は最高!』となったりもする。それは普通に起こり得ることで、生き物としての情緒は絶対にある。だから、私は自分自身を知ること分析することを大事にしていま す。『自分にはこういう部分があって、こういう性格なんだ』と思えると、自然といろんなことを受け入れられる自分がいる気がします。例えば、自分は話を聞いてほしいタイプなのか、聞きたいタイプなのかを考えたり。自分に合った好きな何かを見つけて試してみたり。自分の機嫌は、自分で取るというのも大事だと思っています」
座右の銘は「温故知新」。理想とする人物がガブリエル・シャネルという言葉からも、古い教えから新しい知識を学ぶという行為を、大切なモットーにしているのがよく分かる。
「ガブリエル・シャネルの生き方やモノの捉え方、貫く精神力など、彼女のことを知れば知るほど、私自身が『こうなりたい』と思っている理想の人に近かったんです。自分のキャリアを肯定してくれているような気がして、とてもうれしかった。みんなと同じ方向を向いて歩くのではなく、自分の道を自分で切り開いていく方が私らしいと思うし、心地よい。でも、自分自身がブレない軸を持たなくてはいけない。私が恵まれていたのは、私が間違っていたときに、周囲の人たちが教えてくれる環境があったこと。そのおかげで今の自分がある。そういう方たちに出会えたことにとても感謝しています」
今回の撮影のように、今後も世界を舞台にグローバルに活動の幅を広げていきたいのかを問うと、「もちろん、そういう機会をいただけるのならば、どんどん挑戦をしたいです」と前置きをしながらも、仕事に優劣がないことを明確にした。
「どの仕事も『目の前の仕事』という視点で考えるようにしています。ただ、どんな仕事であっても急にはできないので、少しずつ積み重ねて、できることを増やすなど準備はするように心がけています」
最近はスカーフやバンダナを頭に巻くスタイルが私的ブームだという彼女は、日々何に幸せを感じているのだろうか? その答えは軽快で、彼女らしいものだった。「いっぱいあります! 家族や友人との時間はもちろんですが、それ以外だと買い物やコーディネートしている時間は本当に楽しくて幸せ!」。ファッションに愛されているだけでなく、心からファッションを愛する人なのだ。
Talent: Nana Komatsu Videographer: Errol Rainey Styled by Patti Wilson Hair: Soichi Inagaki Makeup: Uda Manicure: Beatrice Eni Tailor: Charline Gentleman Set Design: Sophear at Art + Commerce Creative Partner to Joshua: Izabela Clarke Production: Marie Godeau and Leeloo Turmeau at AP Studio Stylins Assitants: Nathan Watson and Hector Guzman Text: Rieko Shibazaki