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河合優実が「すごく強い思いを持って演じる」理由【50 SHADES OF ME】

2019年から俳優としての活動を開始。社会現象的な話題を呼んだドラマ「不適切にもほどがある!」で演じたヒロイン役や、カンヌ国際映画祭で主演作が国際映画批評家連盟賞受賞という快挙を成し遂げたことも記憶に新しい。新作映画『あんのこと』(6月7日公開)では、社会の周縁でもがきながらも日々を重ねる主人公・杏を演じる。俳優として、確実にその存在感を増してきた河合優実の今を探る。

「性格の変化はコロナ禍がきっかけ」

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1 『あんのこと』は、実話をベースにした作品ですが、初めて脚本を読んだときの率直な感想は?
言葉にしにくいんですけど、すごく強い思いを持っていないと演じられない作品だと感じました。

2 今作で演じた杏という役柄のモデルが実在したという事実は、作品への向き合い方にどのように影響を与えましたか?
(モデルとなる方が)実在したということが、今まで取り組んできた役との大きな違いだったと思います。そして、その方にもう何かを尋ねることもできない、コミュニケーションを取ることができないなかで、私たちが作り物としての映画を作っていたので、演じる側の立場からできるだけその実在した方と杏という役を尊重しようとこころがけていました。

3 杏を含め、ご自身とかけ離れた役柄との距離は、どのように縮めていくのでしょうか?
自分が全く経験したことのないことに関しては何かしら資料なり材料を集めようとしますけど、そうじゃないところは自分と近い部分を増幅させていくみたいな感覚です。

4 具体的なプロセスとしては?
今作でも、杏が感動している瞬間ってたくさんあると思うんです。「初めての物に触れた瞬間」だったり、「人と繋がる」「自分を引っ張ってくれる人の存在に助けられる」みたいなときだったり。シーンごとに、人として共感できたり理解できる部分はたくさんあったので、そんな(杏の人としての)素直な反応みたいなところを共有することから始めました。

5 杏を演じるにあたり、河合さんがもっとも大切にされたことは?
「杏と杏のモデルになった実在の方を守りたい」という思いは、頭の中にずっとありました。そのために具体的に何をすべきかを、探りながら演じていたというか。今も取材を受けながら、答え合わせをしているような感覚です。

6 今作をどんな人に届けたいですか?
杏が抱える問題の渦中にいる人や、近しい環境にある人の多くは映画にアクセスできないんですよね。当事者には届かないかもしれない、じゃあ誰に観てもらいたいかと考えると、別作品をきっかけに私を知ってくださった方や、今作が含んでいるテーマとは関係のないところから興味を持ってくれた人が、作品を通じて、何かを考えたり話し合ってくれたらと、今は思っています。

7 以前出演された映画『PLAN 75』(2022)も今作も、現代社会の歪みのなかで周縁化された人々が描かれています。 両作品への出演を経て、河合さんの中で変化はありましたか?
(世の中には)いろんな作品がありますし、自分もいろんなジャンルのものが好きですが、映画にしてもドラマにしても舞台であっても、現代を舞台にした作品ならば、どんなテーマを描いたものであっても、絶対に今の社会が映ってきますよね。いわゆる“社会的なもの”とカテゴライズされる作品に意識的に出たいとは思っているわけではないですが、どういうジャンルにせよ、真剣に作品をつくっている方々とお仕事をご一緒すれば、やっぱりこの時代が映ってくる──そう強く思わされてはいます。真剣に仕事に取り組めば、そういう作品に当たる回数が多くなってくるなと思いますし、それは良いことだと感じています。

8 周縁化される人々に対して、この作品の観客や私たちができることは何だと思いますか?
(作品を通じて、ある社会問題について現状を知ることができたとはいえ)私が個人として今、弱い立場に置かれている人を支援するような仕事についてるかと言われたらそうではないですし、研究者でもない、社会学者でもない、ジャーナリストでもない。ただ、回りくどいやり方ではあるけど、俳優という仕事を通じて世界がよくなればいいと思って、日々生きていることは事実なので……。みんなが──少なくとも表現する仕事に就いている人は、そういうふうに関心を持っていないと、いい未来にみんなで辿り着けないなと、思います。

9 共演者の佐藤二朗さんの印象は?
タバコを吸うキャラクターだったのですが、吸う回数や、どのシーンで吸うかといったことをすごく考えながら演じられていたのが印象的でした。感覚的というか天才肌みたいなタイプの方だというイメージを勝手に抱いていたので、とても緻密に計算されるタイプの役者さんなんだ、と。

10 稲垣吾郎さんについては?
すごく言いたいことがあるんですけど、多分怒られるから言えない(笑)。

11 コロナ禍を描いた作品でもあります。河合さんはコロナ禍とどう向き合っていましたか?
ロックダウンの後半は結構、内に向かっていくというか、自分の体や心のことを考えて、日々いいモノを選んで食べたり、運動したり。丁寧に生活していて、それが心身にとってよかったなと。結構規則正しく生活していた記憶があります。

12 コロナ禍前後で大きく変わったことはありますか?
仕事を始めたのが19年だったので、自分が大人として過ごしている時間がほぼコロナ禍とその後なんです。学生時代は、友達と楽しく大勢でワイワイすることが好きなタイプで、今のほうが内向的な気がするんですけど、(性格の変化は)コロナがきっかけだったのかも、と思います。

13 杏は劇中で日記をつけていますが、河合さんは?
日記はつけてないんですけど、メモはよくとりますね。台本読んでいる時とか、何か作品に入る前にどういう心づもりで、何を大切にしていこうみたいな思いついたワードとかを書いたりします。

14 小さい子のおむつを替えるシーンがあります。おむつ替えの経験は?
ありました。妹がいてちっちゃい頃に替えていました。古い記憶ですけど。

15 子育てにおいて大事だと思うことは?
子を型にはめないこと。私自身もあまり制約を受けずに、好きな方向に行かせてもらえてきたので、自分が親になることがあれば、自我が芽生えたら、極力自分で選ぶということをさせたいなと思いますね。

「表現の道を志したのは、高校での3年間があったから」

16 今、一番関心のある社会問題は?
一番というのが難しいくらい、いろんなことが起き過ぎているなと思います。強いて選ぶならガザのことです。

17 今作のように、見えない存在や問題を可視化させた作品で、河合さんが心を揺さぶられた映画は?
ちょっと主旨が違いますが、最近すごかったのは『落下の解剖学』ですね。最初は誰かを裁いたり、どうやってこの事件が起こったのか、みたいなことから始まる作品のように見えたけれど、実は違う部分が明かされていく映画だったな、と思うので。

18 普段はどんなジャンルの作品がお好きですか?
普段はジャンルレスに、そのとき一番面白そうだと感じたものをチェックしているんですけど、最近はオリジナルな世界観のものが多かった気がします。『ボーはおそれている』とか『哀れなるものたち』とか。

19 河合さんに推しはいますか?
推しがいないんです。

20 撮影現場での待ち時間はどう過ごしますか?
台本を開き直しているか、何時間も空くようなときは本を読んでますね。

21 今現場で読んでいる本は?
『本当の翻訳の話をしよう』という、村上春樹さんと翻訳家の柴田元幸さんの対談本です。

22 本以外で、撮影現場に必ず持参するものは?
ノートとペンですかね。

23 表現者としてご自分に課しているルールがあれば教えてください。もしくは、お仕事で絶対にしないと決めてい ること、でも。
……ないかもしれないです。

24 俳優を目指したきっかけは?
小学生の頃からダンスをやっていて、高校でもダンス部で。ダンスでもバンドでも演劇でも、「何かを準備して披露する」という場がすごく多い高校だったので、みんなで作って、それに対するお客さんの反応が返ってくるという体験を3年間積み重ねるなかで、表現の道に行きたいと思うようになりました。

25 ミュージカルがお好きだそうですが、人生ベストミュージカルは?
ベストは『コーラスライン』。舞台に密着したドキュメンタリー映画があって、そっちを先に観たのですが、とっても大好きな作品です。サントラも歌えるくらい大好きです。

26 子ども時代の自分を一言で例えるなら?
なんだろうな……注意力散漫。

27 俳優でなければどんな仕事に就いていたと思いますか?
デザインや絵を描くことがとても好きだったので、美術方面の仕事に就いていたと思います。

28 苦手なことは?
片付け。

29 人生で怖いものは?
鳩。

30 好きな言葉は?
「大丈夫」

社会にもっと必要だと思うのは「関心。無関心は怖いです」

31 心や体をリセットするための習慣はありますか?
お風呂に長く入って汗をかく。

32 最近かけられてうれしかった言葉は?
今作の撮影期間中に毎日送り迎えをしてくれていたマネージャーさんが、試写の後に、「こういう映画だけど、私の中に一番残っているのは杏が頑張っている姿です」って言ってくれて、それがすごくうれしかったし、こうやって世にこの映画を出す時の心の支えにもなっています。

33 河合さんに大きな影響を与えた人は?
最近はグレタ・ガーウィグです。(監督作の)『バービー』はもちろん、その後のインタビュー動画などもいろいろ観ていたら、俳優としても監督としてもすごくお茶目だしパワフルなのに、クレバーというか。彼女本人に感動したり、勇気をもらうみたいなことが最近すごく多かったです。

34 今までにもらったベスト・アドバイスは?
難しいですね……。

35 人から少し驚かれる、独特なマイルールはありますか?
ご飯を炊いて、冷凍するとき、はかりにのせて100グラムずつにしないとラップに包めない。

36 お料理は好きですか?
結構自炊もしますし、料理は好きです。

37 最高の休日の過ごし方は?
サウナのち美味しいご飯。

38 普段、何をしているときに幸せを感じますか?
美味しいご飯を食べているとき(笑)。ご褒美レベルで言うとお寿司とか。好きな食べ物は餃子です。

39 河合さんにとっての成功とは?
幸せを知ったとき。「これが自分の幸せだ、今、自分の人生の幸せ地点に到達したな」って実感するときが来たらですかね。

40 知り合った方からイメージと違ったと驚かれる一面は?
意外と背が高いんですね、と言われることがあります。

41 気づくと増えてしまう偏愛アイテムは?
なんだかご飯の話ばっかりで申し訳ないですけど、炊き込みご飯のもとみたいなやつ(笑)。地方へ出かける度に買っちゃいます。

42 今、社会にもっと必要だと思うものは?
関心。無関心は怖いです。

43 ご自分の好きなところ、一つ教えてください。
結構真面目なところ。

44 タイムマシーンがあったら行きたいのはいつでどこ?
自分の赤ちゃんのときとかかな。家。

45 楽観主義者と現実主義者。強いて言えばどっち寄り?
楽観主義者ですね。

46 苦境や気持ちの落ち込みに対する対処法は?
人に話すかノートに書くかでアウトプットする。できないときは泣く。

47 これさえあればご機嫌、というマストハブアイテムは?
なんだろ。いい香りのものとかですかね。お香とか入浴剤とかキャンドルとか。

48 今の河合さんにとっての宝物は?
パッと思い浮かんだのは、妹2人でした。2人とも進路を決める時期で。頑張れって思います。

49 夢を貫くために大切だと思うものは?
自分が好きっていう気持ちを見失わないことですかね。夢に固執しすぎないで。

50 河合さんにとって、素晴らしい俳優とは?
個人としての素晴らしさと俳優としての素晴らしさは基本的には繋がっていると思うので、俳優としてという前に人として目の前のことに感動している人でありたいと思っています。対価をもらってプロとして俳優を続けていくのであれば、やっぱり作品を演じる上でも、そうでない一個人としても、ちゃんといろんなことを考え続けていきたいです。

薬物から更生し、自分の人生を始めようと誓うも、パンデミックに行く手を阻まれる主人公・杏を河合優実が演じ、佐藤二朗と稲垣吾郎が脇を固める映画『あんのこと』は6月7日公開。

問い合わせ先/エドストローム オフィス 03-6427-5901

Photos: Akihito Igarashi Stylist: Tatsuya Yoshida Hair & Makeup: Takae Kamikawa at mod's hair Text & Editor: Yaka Matsumoto