BEAUTY / EXPERT

アートを身近に。巨匠マティスからインスパイアされたジャスミンの香り

ゲランが巨匠マティスの香りをジャスミンで描いた。どこまでもエレガントで自由な新しいフレグランスの魅力をエディターの視点で分析。アートと香りがもたらす贅沢でささやかな幸せについて考える。
マティスからインスパイアされたジャスミンの香りが発売

マティスの多幸感を香りに託して

ゲラン「ジャスミン ボヌール メゾン マティス エディション」(200ml ¥86,900)の蓋部分。

「生活の中で身近に“アート”を感じる。それだけで心が豊かになり、私たちは自由を得ることができる」。これは著名な某美術写真家を取材した際の言葉だ。多大なる富がなくとも視点の工夫や行動でいくらでも美術は手に届く場所にあり、「食」や「ファッション」と同じ距離感で楽しめば、より充実したライフスタイルが得られると彼女は言っていた。

香水に合わせてキャンドルも発売。フィグ アズール フレグランスキャンドル メゾン マティス エディション 200g ¥30,470/ゲランお客様窓口(0120-140-677)

フランスのラグジュアリーブランド、ゲランが今回提案する香水はまさにそれを体現している。現在、東京美術館開で開催中の「マティス展」。このタイミングでゲランがタッグを組んだのは、20世紀芸術を創り上げたひとりでもあるアンリ・マティスだ。今回、日本での発売を前にフランス、パリでこの香りの秘密を探りに行く機会を得た。

これらのアブソリュートを組み合わせ香りを調香していく。

まず訪れたのは、セーヌ川からほど近いパリ1区にあるラボ。ゲランの調香師、デルフィーヌ・ジェルクが私たちが“素肌に纏う”香りについて教えてくれた。「香水を纏った時、まずは『いい香りね』と人々に感じてもらわないといけない。その時に重要なのがトップノート。香水のアイデンティティを司るパートとも言えますね」。今回のマティスの香りはハイエンドライン「ラール エ ラ マティエール」の「ジャミン ボヌール」。官能的なジャスミンにポジティビティを加えた、多幸感溢れる香りに仕上がっている。デルフィーヌにほかのジャスミンの香りとどう違うかを尋ねるとこう答える。

香り作りについて語るデルフィーヌ。

「目指したのはジャスミンの再解釈。香ったことのないどこか違ったジャスミンです。アンニュイではなく明るいイメージ。どこか、アプリコットジャムのようなニュアンスのフルーティさを感じませんか?」。ジャスミンが持つ妖艶なイメージを打ち消す、どこか懐かしい甘やかさ。背後に感じる柔らかなローズやパウダリーなアイリス、クリーミーなアプリコットと溶け合っていく。「実はコケのシプレーやレザーのような香りも加えています」と、“隠し味”を教えてくれたデルフィーヌ。彼女の創り出すモダンな香りの創意工夫と美的センスに触れ、感動した。「幸せを描いたマティスのように、この真っ白な花を喜びで染め上げ、エレガントなジャスミンを創作しました」(デルフィーヌ)

ジャスミン ボヌール メゾン マティス エディション 200ml ¥86,900/ゲランお客様窓口(0120-140-677) マティスのデザイン無しのラール エ ラ マティエール ジャスミン ボヌール(50ml ¥34,650)も販売中。

多面的でカラフルな新しいジャスミン——大胆かつ豊かな色彩で描かれるマティスの世界を見事に表現した「ジャスミン ボヌール」の限定ボトルとボックスにはマティスの作品が反映されている。1950年に誕生した『The 1001 Nights』がモチーフだ。美術史家のアリス・ラマール・ブルゴワンはマティスを「色の魔術師と呼ばれ、その豊かなカラーバリエーションはまるで音楽のよう」と語る。切り絵を用いて描かれ、ランプや空飛ぶ絨毯などがモチーフとなった今作。イスラム美術から影響を受けたとされるエッセンスが自由に散りばめられている。また、ハートの縁取りが非常にポップだ。

ザ  ビーボトル メゾン マティス エディション 1,000ml ¥2,420,000/ゲランお客様窓口(0120-140-677)

さらに、世界14点限定で「ザ ビーボトル メゾン マティス エディション」も販売。このスペシャルエディションは1939年『La Musique』から着想を得たものだ。ただ転載するのではなく、約170年前から時代を超えて愛され続けている「ビーボトル」に絵画のディテールを沿わせるという大胆な試み。ゲランのアート・カルチャー・ヘリテージ ディレクター、アン・キャロライン・パラザンはこう説明してくれた。「ゲランとアートはユニークかつ離れがたい蜜月関係を楽しんできました。アートやデザインと密接な関係を強固にするために誕生した『ラール エ ラ マティエール』を2005年に発表しましたが、こうして2つのメゾン、ゲランとメゾン・マティスによる美しいコラボレーションが実現し、2023年はまさにマティスの年と言えるでしょう。香水とアートの世界をより身近なものにしたい、という私たちの願いの表れです」

「ジャスミン ボヌール メゾン マティス エディション」のモチーフはすべて筆で描かれた。

自分自身のエピソードを話すと、小学4年生の頃マティスに魅了され、中学生の頃は1908年の作品『Harmony in Red』を油絵で模写したことがある。身近なものや人をモチーフにしながらも大胆なカラーとシェイプで描かれる作品群を眺め、幼いながらも自分のまわりが色鮮やかに変化していく感覚を体験した。まさに、アートがもたらす想像力。そこに香りと職人の技が込められるとは、贅沢の極みである。

アートと香りを仕上げる「伝統」

「LA MAISON GUERLAIN」の店内。

シャンゼリゼ通りに位置するゲランの本店「LA MAISON GUERLAIN」にはゲランが蓄積してきた数々のヘリテージの中に、最新のビューティーがぎっしり。1階の奥にはデスクがあり、昔はそこで調香が行われていたのだとか。店内には1914年の貴重なボトルやナポレオン3世の紋章が刻印された「ビーボトル」などが配され、ゲランの歴史がひとつひとつから伝わってくるようだ。日本より一足早くフランスでローンチした「ジャスミン ボヌール」の存在意義が、より濃厚に感じ、アートから広がる香りと伝統に新しさが凝縮されている。

過去のアーカイブが勢ぞろいしている。

夜、香水の誕生を記念して、ポンピドゥー・センターのレストラン「Georges」でパーティが行われた。マティスの描く曲線と見事にリンクしたレストランのしつらえ。ピンクや赤、ブルーにライトアップされた会場には多くのセレブリティが集まり、その中には調香師ティエリー・ワッサーの姿も。彼に香りについて聞くとこう教えてくれた。「退屈にならないように——つまり、動きがあるようにこの香りを仕上げた。マティスが音楽や彫刻などから刺激を受けたように、私たちもさまざまなことからインスピレーションを受けて香りを作っている。香りは好奇心から始まるのです」

ゲランのミューズ、ナタリア・ヴォディアノヴァも来場。ほかには「エミリー、パリへ行く」出演で人気のフィリッピーヌ・ルロワ=ボーリューなど豪華セレブたちが集結。

眺めて、触れて、香って。あらゆる角度から好奇心を掻き立てたれるアートと香りと伝統のコラボレーション。誰もが触れたことのある「マティス」というある種のポップ・カルチャーをフックに新しいジャスミンの香りを楽しむ。“手に届く贅沢”は私たちの生活にささやかなラグジュアリーをあたえてくれる。後日見学で伺ったゲランの工場ではひとつひとつ、丁寧に製品をボトリングしパッケージしていくプロセスを見て感銘を受けた。工場のチーフはこう話す。「香りだけではなく、製品の美しさを感じてほしい。“香り”はそこで完成するのです」。手にとって、纏って幸せ。「ジャスミン ボヌール」は香水の持つパワーの根幹を思い出させてくれる、本質的な存在なのかもしれない。

「キーとなるジャスミンは南仏、インド、イタリアの3箇所から集め、アイリスやローズを合わせコントラストを加えました」(ティエリー・ワッサー) 。ジャスミン ボヌール メゾン マティス エディション 200ml ¥86,900/ゲランお客様窓口(0120-140-677) “マティスの香り”に集中したい場合は、ラール エ ラ マティエール ジャスミン ボヌール(50ml ¥34,650)を。

Editor: Toru Mitani