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バレンシアガから「一度きりのドレス」が登場。ストリートの視点で瞑想するメゾンのレガシー【2024-25年 秋冬クチュール】

瞑想ガイドとともに幕開けた、バレンシアガ(BALENCIAGA)の第53回クチュールコレクションのショー。クリエイティブ・ディレクターのデムナは、自己の探求を通してメゾンの原点であるオートクチュールのレガシーを再解釈する。

「今日のセッションでは、より幸せな人生への道筋を学びます」──ジョルジュ・サンク大通り10番地のサロンで行われたバレンシアガ(BALENCIAGA)のオートクチュールのショーは、瞑想のサウンドトラックが流れ、まるで神聖なアシュラムのような雰囲気が漂っていた。瞑想のガイド音声と白い陽光は、オリンピック準備で混乱する外の喧騒を紛らわすかのようにゲストにリラックスを促すものだったが、クリエイティブ・ディレクターのデムナ自身を解放をする導きかのようにも思えた。

デムナにとって4度目のオートクチュールコレクションは、彼のアヴァンギャルドな美学が最も色濃く表れたものだった。コクーン型のシルエットやつば広のヘッドウェアなどメゾンの黎明期のオートクチュールを彷彿とさせる要素を取り入れながら、重厚なTシャツ、ワイドデニム、スウェットパーカー、テクニカルなアウターウェアなど、彼が継続的に取り組んでいるシルエットを採用。ショーノートによると「ストリートウェア、ゴス、スケーター、メタルヘッド」などのサブカルチャーを参考にしたとある。

一見すると、デムナによるプレタポルテのシグネチャーを再解釈したようにしか見えないかもしれないが、どれもが完全にオリジナルであり、サブカルチャーとオートクチュールという両極端の世界を息を吸って吐くように往来していることを証明するものだ。

たとえば、ヘビーメタルバンドのマーチ風Tシャツは、裁断、縫製、ストーンウォッシュ、フェード加工まですべて手作業で仕上げられ、アトリエの卓越したノウハウが宿る。熟練のトロンプ・ルイユの画家が陰影をつける技法で何層にも重ねて描き、乾くのを待って細部を加えていくため、完成まで約70時間を要するという。

アップサイクルのビニール袋やアルミホイルといった意外な素材で作られたピースも印象的だ。また、2020年以降、毛皮製品を生産しないというバレンシアガの取り組みは、クリエイティブな発想に拍車をかけている。

そのひとつが、ヘアスタイリストのゲイリー・ギルがウィッグ用の合成毛で成形してブルーに手染めしたコートで、この制作には2カ月半が費やされているという。また、フェイクミンクファーのパッチワークドレスは、伝統的な毛皮のパターンメイキングを用い、674本のストリップからヘリンボーンパターンに組み立てられている。

このコレクションの装飾主義を際立たせたのは、アーティストとのコラボレーションから生まれたヘッドピース。ノウハウによって制作されたハンドドレープや樹脂で固められたTシャツ、アーティストの大喜多祐美からインスパイアされた手刺繍の蝶のマスクが登場した。

極め付けは、フィナーレに登場した繭のようなドレス。ナイロン素材を47メートル使い、クチュールのアトリエチームが直接人の体に組み立て、一度しか着用されないという。製作に約30分、解体に30秒というこの儚いオブジェ的なピースは、瞑想状態から目覚めさせるほど強烈なインパクトを与え、ショーを締めくくった。

※バレンシアガ 2024-25年秋冬オートクチュールコレクションをすべて見る。

Photos: Courtesy of Balenciaga Text: Maki Saijo