美の格言4:「トレンドを追いかけるのではなく、その裏にある時代のムードを自分なりに捉えて装う」
ーー松本さんのファッションセンスに憧れる女性も多いです。ファッションとメイクの関係はどのように捉えられていますか?
ありがとうございます。服を決めてからメイクを考えて、全体のバランスを取ることが多いですね。例えば、「今日はマニッシュな素材のトップスを着るから、メイクはツヤ感を加えてみよう」といった具合。ファッション、メイク、ヘア、といった要素がトータルで私たちの印象を作り出しているので、全体のバランスを重視しています。
ーー装うとは、「自分らしさ」や「他者にどう見られたいか」までを考慮する作業。自分と対話し、自分を見つめる作業でもある……とおっしゃっていたのも、心に残りました! 自分のスタイルとトレンドとのバランスはどのように取っていますか?
トレンドを全部取り入れるのではなく、自分のスタイルや年齢に合うものを選ぶようにします。「今年はくすみ系カラーのアイシャドウを楽しみたい。スモーキーな感じが強いと自分にフィットするな」とか、「昨年まではインテンスな口紅を塗って目元は曖昧でよかったけれど、今年は目元をムーディにしたい。でもアイシャドウを濃くすると目が疲れて見えてしまいがちだから、眉とアイラインを少し強くしてみよう」とか。
ーー自分に似合うものや年齢と、トレンドのバランスを取る。自分を客観視する作業でもありますね。
はい。細かいメイクよりも、“引きの目線”を持ち、自分を客観的に見つめることが大切だと思います。今振り返ると、私、20代30代の頃は人と違うものを着たり持つことにちょっとした喜びを感じていた気がするんです。「人と違う」と「自分が好き」は違うということが、年齢を重ねてやっと腑に落ちて来て、今は自分が好きなものを優先できます。周りのファッションやメイクを気にしたり比べることもなくなりました。
ーー 松本さんのメイクやファッションには、知性も感じます。その正体は…?
メイクアップ・アーティストの方々にお話を聞くと、みなさん、単に素敵な色やかわいい色にこだわるだけでなく、世界の情勢や時代の空気感を感じ取ってクリエイティブに取り組んでいます。戦争や災害が深刻化しているから、あまりキラキラしたメイクは合わないとか。メイクでもファッションも、その裏にある時代のムードを自分なりに捉えて装うということは意識していますね。
美の格言5:「ときめきを追求することで、不安を感じる時間は少なくなる」
ーー今日お話をさせていただき、穏やかな幸せオーラを感じました! 何か将来にぼんやりとした不安を感じてしまう読者にアドバイスをするとしたら?
日々、私もいろいろな不安があります。でも、手放せる不安は手放すように心がけています。産婦人科医の高尾美穂先生に取材した時、不安のうち、まず自分ではコントロールできないことから手放すというアドバイスをいただいたんです。例えば、明日の天気が不安だとしても、自分では変えることはできません。このような不安をまず手放す。逆に、この資料を作れなかったらどうしようというような自分が動けば解決できる不安は、手放すのではなく、行動することで解決する。この教えを大切にしています。
ーー今年の3月には、初めて絵本も執筆されます。
ストーリーは私が書き、大好きなグラフィックアーティストの牧かほりさんに絵を描いていただくことになりました。ストーリーを思いついたのは7、8年前で、1年半ほど前に、プロポーズをするような気持ちでドキドキしながら牧さんに声をかけたら、受けてくださったんです。絵本を製作した約1年半は、私にとって本当にワクワクの時間でした。お金の不安とかに対しては、確かにある程度、自分を支える何かを持っておくべきだとは思います。でもそれさえあれば、あとは不安と付き合うよりは、自分のときめきを探して、それに夢中になっていれば、不安を感じる時間は少なくなっていくのではないでしょうか。不安を解消したいからと何か頑張ったり人生を回すのではなく、ときめきを味わうために何か努力をして、気づいたら不安なんか考える時間がなかった、みたいな生き方がいいかなと思います。
4月2日(火曜日)まで、展覧会を実施中。詳しくは、https://book212.com をチェック。
松本千登世
美容エディター&ライター。航空会社の客室乗務員や出版社勤務などを経て現職に。雑誌やWEBなどで美容記事やインタビュー記事、エッセイの執筆を中心に活動。ファッションとリンクした美容観や、品のある語り口にファンが多い。著書に『顔は言葉でできている!』『結局、丁寧な暮らしが美人を創る。今日も「綺麗」を、ひとつ』(ともに講談社刊)など。
Text:Kyoko Takahashi Editor:Kyoko Muramatsu