美の格言1:「『自分の心に正直であること』が健やかな肌を作る」
――まずは、スキンケアに興味を持ったきっかけを教えてください。
小さい頃からアトピーがひどくて、皮膚科で処方された保湿剤を塗ることがスキンケアの始まりでした。全身がかゆくて、本当にひどい時は、手でひっかくのでは物足りなくて、マジックテープの硬い方でかきむしるくらい。アトピコのスキンケアシャンプーを使ったりと、とにかく肌に優しいものを使っていましたね。
――そんなにひどかったのですね!今は完治されているようですが、どのようにして治ったのですか?
色々と食について学ぶうちに、乳製品を食べると明らかに肌がかゆくなることに気がつきました。さらに様子を見続けて、乳製品に加えてカフェイン、お酒、辛いもの、甘いもの、化学調味料をなるべくやめるようにしたら、ほぼ完全に治りました。20代半ばの頃ですね。それまでは、冷たいココアと一緒に、チョコチップが入ったチョコレートマフィンを食べるくらい、“チョコレートメドレー”を満喫する生活だったんです。今考えると、色々とストレスが溜まっていて、甘いものを食べないといられなかったのだと思います。
――どのようなストレスが溜まっていたのでしょう?
その時は、まだ自分が同性愛者であることを家族や友人に伝えられていませんでした。自分を否定していた辛さがストレスとなっていたのだと思います。カミングアウトして自分らしく生きられるようになったら、驚くほど解放されて元気に。人生もキラキラと輝き始めました。この経験からも、「自分の心に正直であることの大切さ」を痛感しています。
美の格言2:「外見が変われば心も変わる。メイクで多くの人をもっと輝かせる」
――ニューヨークの美大に通いながら、メイクアップ・アーティストのもとでアシスタントを経験。今も僧侶に加えてメイクアップアーティストとして活躍されています。初めてメイクに目覚めた時のことを教えてください。
小さい頃からお姫様ごっこをしていたりと、着飾るのが大好き。メイクに興味を持つのは自然なことでした。でも当時はまだ、「男性がメイクをするのはおかしいこと」という価値観が社会に蔓延していて、この気持ちがバレたらいけないと思っていました。だから高校生のときに、洗面所にあった母親のシャネルのアイシャドウを使った時も、鍵を閉めてこっそりやっていました。クリーム色のハイライトに、ブラウン、ピンク、パープルのシャドウが入っていて、今でもそれを試したときのドキドキを覚えています。
ーー自分にではなく、初めて人にメイクをしたときのエピソードも印象的です。
アメリカで暮らしていたとき、ルームメイトの女の子がいたのですが、当時、彼女は悩みがあって落ち込んでいたのです。それで私がアイライナーとマスカラでメイクをしてあげたらびっくりするくらい美しくなって。彼女もそのことをものすごく喜んでくれて、「私って可愛いじゃない」という彼女の心の声や自信が聞こえてくるようでした。人は、外見が変われば自信が持てるのだ……。メイクが上手くできれば多くの人をもっと輝かせられるかもしれない、応援できるかもしれないと思い、そこから真剣にメイクを勉強したくなりました。
美の格言3:「自分の癖や個性を隠すのではなく、そのまま突き抜ける!」
――SNSなどで西村さんのビジュアルを見るたびに、“ハイヒールをはいたお坊さん”ならではの美しさ、オンリーワンの美しさを感じます。
ありがとうございます。自分の癖や個性を隠すのではなく、やり通して突き抜ける。そうすると、他の人が真似できなくなる自分ならではの美しさが生まれるのではないかと考えます。
――具体的には、どのようなプロセスで自分の癖や個性を美へと変えていったのでしょう?
ヘアスタイル、肌、眉毛、まつ毛、爪の色、洋服の素材はどうしようかなど、一つ一つのパーツに対して、自分に似合うものや色を突き詰めていきました。そのためには先生やお手本が必要です。パーソナルカラーや骨格診断を受けたり、色々な人にメイクをしてもらったり、アドバイスをお願いしたりしました。例えば上手にメイクをしてもらったら、写真を撮ってお手本にして、何度も練習する。習字のお稽古などと似ているかもしれません。夕方から翌朝までずっとメイクの練習をしたこともありました。一度でもいいから何時間もかけて、丁寧にじっくりと自分の顔に向き合ってみることもおすすめです。同じメイクを毎日しているだけでは何も変化が起こりません。
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ニューヨークにいたとき、周りのモデルやタレントさんは、どうしたら自分が美しく見えるのかを本当に熱心に研究されていた。それぞれの個性を活かすヘアメイクやスタイリング方法を見つけると、その人に魔法がかかったような魅力が生まれていました。その姿勢や技術から多くを学び、自らの美しさに磨きをかけることに、より真剣に向き合うようになりました。
――著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』で紹介されていた、イケていない自分の写真だけを集めた「黒歴史アルバム」づくりのエピソードも面白かったです。
今見返しても本当に恥ずかしいです(笑)。でも、似合わないメイクや髪型、ファッションの自分を見つめると、自分に似合うものが見えてきます。似合うファッションが見つかると、見違えるほど美しくなれると思います。
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西村宏堂:
ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業。ニューヨークを拠点にメイクアップ・アーティストとして活動。2015年に浄土宗の僧侶となる。LGBTQ活動家として、ニューヨーク国連人口基金本部、イェール大学、ハーバード大学、増上寺などで講演。2021年にTIME誌の次世代リーダーに選ばれた。著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』は8ヶ国語で出版されている。
Text:Kyoko Takahashi Edit:Kyoko Muramatsu