「食べないダイエット」を後押しする薬がハリウッドで大ブーム
日本では内臓脂肪を減少させる薬「アライ」が発売開始されてダイエット界隈で話題になっているけれど、ハリウッドでは俄然、「食べない」系ダイエットが人気だ。なかでも、もともと2型糖尿病の治療薬として販売されていた「オゼンピック」がトレンドに。この注射薬は、インスリンの分泌を促すことによって血糖値の上昇を抑え、食後の満腹感が持続する結果、「空腹感を覚え食づらくなる」という、ダイエッターにしてみれば夢のような効果があるとされている。
シャロン・オズボーンはこの薬によって42 ポンドもの減量に成功したことを公言しているし、エイミー・シューマーやトリ・スペリングらも、「オゼンピック」を試したことがあると認めている。あまりの人気で去年8月にはアメリカで薬不足となり、本当に薬を求めている糖尿病患者が購入できなくなるという社会問題を引き起こしたほど。
こうした「食べない」系ダイエットの火付け役とも言えるのは、映画『ドリームガール』で役作りのためにジュース・クレンズを実践したビヨンセだ。
14日間で9キロ痩せたという「マスター・クレンズ」は、レモンやメイプルシロップにカイエンペッパーを入れた液体だけを14日間摂取する、というもの。聞くだけでもキツそうなダイエット法だけど、ビヨンセ自身も「もう二度とやりたくない」と弱音を吐くほど辛かったよう。
最近では16時間断食する、「インターミッテン・ファスティング」が主流。ジェニファー・アニストンも毎日16時間は固形食なしで過ごし、日曜日だけをチート・デーにしている。逆に夕食後に16時間断食を行なっているのが、コートニー・カーダシアン。19時過ぎから翌朝のワークアウトが終わるまでは、ブロススープと水と緑茶以外は摂らないようにしているという。この「インターミッテン・ファスティング」は、1日の中で食事を摂るのは8時間のみとすることで、内臓を休ませて老廃物をデトックスする効果があるといわれている。
それにしても、これらの絶食系ダイエットで気になるのは、栄養価と体力の問題。働く身としては、食べなくてもエネルギーが持つのかという点を、不安に感じる。前述の「オゼンピック」に関しては、すでに「オゼンピック・フェイス」という急激に痩せたことで目が落ち窪み、顔がげっそりすることが指摘されている。やはり何事もエクストリームは体に良くないし、容姿にも影響が出る、ということ。そうならないためにも、美容にも体にもヘルシーな、正しいダイエット法を学びたい。
日本でも流行中。16時間断食がもたらす効果とその危険性
内臓を休め、細胞のオートファジーを活性化させる効果があるという理由から注目されている16時間断食。前述の通り、減量を目的として取り組む人も多い。その効果について、分子栄養学カウンセラーのまごめじゅんさんに聞いてみた。
「一時的に体調が改善する人は多いと思います。しかし、それは単に、体にとって負担のある添加物や農薬などを含めた“悪いもの”を取り込む量が減るからなのです。一日の中で16時間も空腹が続くと、その間血糖値は下がり続けますよね。エネルギーに変換する材料が体の外から入ってこないとなると、筋肉を分解し、エネルギーに変えることで体は機能を維持します。脂肪よりもまず筋肉が分解されやすいというところに落とし穴が。筋肉量が落ちると代謝が落ちるため、16時間断食を続けることで、結果的には痩せにくい体になってしまうのです」減量を目指して取り組んだものの、長期的な目で見れば痩せにくい体質になってしまうというのはなんとも悲しい事態だ。
「多くの有名人が実践し、結果を出したと公言していることから興味を持つ人も多いと思いますが、欧米人と日本人では体格差があるためハリウッドセレブが成功した事例をそのまま我々が実践するということは難しいうえ、日本人はどちらかというと痩せているという点にも注意が必要です」とまごめさんは警鐘を鳴らす。
16時間ファスティングが向いている人、向いていない人
「もちろん、“絶対にNG”というわけではありません。16時間ファスティングが向いている人と向いていない人がいて、ほとんどの女性には積極的におすすめできないというのが正しい表現になると思います。16時間断食をしてうまくいくのは、筋肉がしっかりとあって適度な運動を定期的に行い、十分な睡眠と栄養をきちんととれている方です。これらをすべてクリアしている人は比較的少ないと思います。ただ、胃腸を休める目的で1週間程度、あくまで一時的に行うのであれば問題ありません」
では、肥満になりにくい健康的な体を保つためにはどうすればいいのだろうか。「そもそも太りやすくなる原因は、“代謝の低下”と“食事量の増加”です。代謝の低下に関しては、16時間断食をはじめとした食生活や運動不足などで起きてしまいます。食事量の増加に関しては、気合や我慢でどうにかなるものと思われるかもしれませんが、実はそうではありません。脳は、飢餓状態と栄養不足を区別することができないのです。必要な栄養素が不足すると、“もっと食べなさい”という信号を出して、私たちは食欲を感じるようになります。でも、何を食べればいいか、という具体的な指令がないので、結果的に過剰な食欲が生まれ、過食に繋がりやすくなります。無駄食いが続くのは、健康的ではないですよね」
さらに、無駄食いを防ぐための効率的な食べ方についても教えてくれた。「人間の体に必要なものとして論文で多く証明されているのは、タンパク質です。タンパク質を多く摂ると過食欲求が減るということは、“プロテインレバレッジ理論”でも指摘されています。まずは余計な過食を防ぐために、糖質過多な食事を見直し、タンパク質を意識的に摂るといいでしょう。ちなみにタンパク質にはそれぞれ個性があり、さまざまなタイプのものをバランスよくとることが大事になります。肉ばかり、魚ばかり、大豆ばかりとならないように、毎日4種類のタンパク質を摂ることを目指してもらえたらいいと思います」
無理なく手軽に。痩せ体質を叶える方法
日々のなかで極力手軽に、尚且つストレスなくヘルシーな体を手に入れる方法はないのだろうか。「余計な脂肪を燃焼しやすく、健康的な状態を保つために有効なのがMCTオイルです。MCTと呼ばれる中鎖脂肪酸は腹持ちがよく、脂肪ではなくエネルギーに変換されやすい脂質です。ココナッツオイルに多く含まれていますね。甘いココナッツ臭の少ない商品も多く出回っていますので、目玉焼きを焼くときの油として使用する、そのままお味噌汁に入れる、サラダにかけるなど多様な使い方ができますよ」
小さじ2杯程度のココナッツオイルをスープなどの飲み物に入れるだけで、過剰な食欲が抑えられるという。ただし、最初は取り入れ方にも少し注意が必要だ。「大さじ1杯以上を一気に飲むと、初めはお腹がゆるくなったりします。徐々にならしていくと不快感なく続けられると思うので、まずは少量から、日々の生活に取り入れてみてください」
夏を目前に、自信の持てるヘルシーな体を目指したいという人は、無理な食事制限を止め、正しい栄養アプローチを実践してみるのが近道になりそうだ。流行りのダイエット法に惑わされず、リバウンドのしにくい健康的なボディを目指して食生活を見直してみて。
話を聞いたのは……
まごめじゅん
臨床分子栄養医学研究会 指導認定カウンセラー。栄養療法によってアトピーや花粉症、摂食障害、貧血等さまざまな不調を克服した過去を持ち、それをきっかけに、分子レベルで栄養について解析する分子栄養学を学ぶ。栄養療法をベースにした心理的アプローチも得意とし、セミナー、勉強会、SNSなどを通して日々有益な情報を発信している。
Text:Moyuru Sakai、Misaki Kawatsu
