ボッテガ・ヴェネタのバッグの歴史
ラグジュアリーなレザーバッグの代表格として知られているボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)。実はその歴史は意外とまだ浅く、1966年にミケーレ・タッデイとレンツォ・ゼンジアーロ夫妻によって、イタリア・ヴェネト州のヴィンチェンツァで創設された。イタリア語の「ヴェネトの工房」を意味するブランド名にふさわしい技術力を目指し、熟練の職人たちを集めたのが始まりだ。
布を分厚いレザーに対応できるミシンがなかったため、薄くてやわらかなレザーを採用していた当時のメゾン。製品に強度を持たせるべく、一枚一枚を細く短冊切りにした後、手作業で斜めに編みこんだのが「イントレチャート」の誕生へとつながった。以来、「イントレチャート」はブランドを象徴する最も有名なシグネチャーとして、さまざまなレザーや素材を使ったカラフルなバリエーションを生み出し続けている。
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ブランドの名前が世界中に知れ渡るのに時間はかからず、1970年代にはニューヨークにショップをオープン。アンディ・ウォーホルなどの時代の寵児たちを魅了した。ある貴重な写真においては、ウォーホルがボッテガ・ヴェネタのローファーにキスをしている姿が残されている。さらに1985年に、彼はメゾンのために短編映画まで制作した。その頃から、メゾンのキャッチフレーズに「When your own initials are enough(自分のイニシャルだけで十分)」が加わり、主役はブランドではなくその持ち主であるという哲学が強調されることとなった。ちなみに、この伝説的な言葉はウォーホルの口から発せられたという説も。
また、1980年に公開された『アメリカン・ジゴロ』で、トレンチコートをまとったローレン・ハットンがボッテガ・ヴェネタのクラッチを脇に抱えた淑女の姿は、多くの人の記憶に残り続けていることだろう。同映画にオマージュを捧げ、2017年春夏コレクションのショーでそのバッグを復活させ、72歳となった本人もモデルとして出演した。
すでに世界的なラグジュアリーブランドとして認知されていたボッテガ・ヴェネタだが、さらに飛躍したきっかけとなったのは、2001年のグッチグループ(現在のケリング社)への参画だ。ドイツ人デザイナーのトーマス・マイヤーをクリエイティブ・ディレクターに迎え入れ、大革新を図ることに。2005年、初のプレタポルテコレクションを発表し、その後もフレグランス、ジュエリー、サングラス、インテリアなど、さまざまなカテゴリーを誕生させた。
マイヤーはブランドの核である“真のラグジュアリー”を追求し、2006年のショーが発表された後に『VOGUE』が彼の美学を「Stealth Wealth(隠れた豊かさ)」と表現した。1978年のアーカイブ「ノット・ボックス・クラッチ」を蘇らせ、さらに永遠のアイコンバッグ「カバ」を発表し、誰もが魅了されるブランドへと成長させた。
2018年、17年間にもわたりボッテガ・ヴェネタを率いてきたマイヤーはクリエイティブ・ディレクターを退任。同年6月、当時32歳のダニエル・リーが後任として抜擢され、引き続きロゴに頼ることなく、数多くのイットバッグを生み出すことに貢献した。リーがメゾンに参加してすぐ着手した「カセット」と「ジョディ」は、新しい洗練を求める女性たちの心を掴み、ストリートスナップの主役に躍り出た。
2021年秋、リーの退任が発表された後、新たなクリエイティブ・ディレクターに白羽の矢が立ったのが、マチュー・ブレイジー。数々の名門ブランドで経験と知識を積み、当時リーのチームでレディ・トゥ・ウェアのデザイン・ディレクターを務めていた実力派だ。メゾンでのデビューとなった2022-23秋冬コレクションは大きな反響を呼び、彼が手がけた「サーディン」や「クリッカー」もすでに羨望の眼差しを集めている。
さて、ここからが本題。ボッテガ・ヴェネタの名作ハンドバッグを最新コレクションから順に掘り下げていこう。
アンディアーモ
マチュー・ブレイジーによる2023年春夏コレクションのショーで、ファースルトルックに登場した「アンディアーモ」。ラムレザーのイントレチャートで仕立てたボディに、ノット(結び目)がモチーフになったブラス製の金具がモダンなムードを加味している。イタリア語の「さあ行こう」を意味するように、あらゆる場所に行くことを想定した実用的なトートバッグは、トップハンドル、ショルダー、クロスボディとして使用することが可能。
現在は、スモール、ミディアム、ラージの3つのサイズと、ダークブラウンのフォンデンテや淡いグリーンのトラバーチンなど、シックなアースカラーが揃う。ライフスタイルに溶け込む上質でシンプルなアイコンバッグは、自分の一部として臆せずに使いオンリーワンの風合いを楽しみたい。
サーディン
ボッテガ・ヴェネタのバッグの中で、ファッショニスタたちから今最も熱い視線が注がれているのが「サーディン」だ。ボディは「ジョディ」のように曲線を描きながら、彫刻のようなメタリックのハンドルが印象的。その名前からも想像できるように魚のサーディンを模し、伝統的なジュエリー製作の技法で作られている。
このバッグは、マチュー・ブレジーがボッテガ・ヴェネタでの華々しいデビューを飾った2022-23年秋冬コレクションのショーで発表された。アートのような存在を放つ「サーディン」は、ドレスアップはもちろん、カジュアルな日常シーンにも特別なニュアンスを与えてくれる。早くもケンダル・ジェンナーをはじめ、スタイルアイコンたちのお眼鏡にかなっているようだ。
クリッカー
「サーディン」を愛する人なら、「クリッカー」にも夢中にならずにはいられないはず。イントレチャートのレザーにパディングを施すことで丸みを帯び、端正で美しいイントレチャートがより豊かな表情に。ボディとハンドルを繋ぐのは、有機的なフォルムが美しいブラス製の留め具。普段の生活に寄り添うバッグであると同時に、アートに触れるときのような洗練も味わうことができる。
2023年リゾートコレクションでデビューした「クリッカー」は、ボッテガ・ヴェネタの人気のドロップイヤリングとも好相性。A4サイズの書類が楽々収納できるミディアムと、財布や携帯など最低限の荷物を持って出かけたい時にぴったりのスモールサイズが用意されている。
カリメロ
ブレイジーが手がけるボッテガ・ヴェネタでのファーストシーズンで、数々のイットバッグが躍り出た2022-23年秋冬コレクション。そのオープニングを飾ったのが、イントレーチャートの新たなアプローチを試みたバケットバッグ「カリメロ」だ。カジュアルでありながらとびきりモダンなスタイルは、彼の鮮烈なデビューを静かに物語るものだった。
一つひとつ手作業で編まれているため縫い目がなく、クラフツマンシップの結晶ともいうべきマスターピースだ。スタイルは主に3種類。代表的なのは、ショルダーバッグとして肩にかけるのはもちろん、リングをスライドさせれば長いロープとしてラフに持ち運べられるタイプ。その他にも、ハンドルを短くしたミニタイプや、2つのバケットを備えたダブルタイプなどが揃う。
ジョディ
「ジョディ」が作られた当初、実はその名前ではなかった。女優のジョディ・フォスターがボッテガ・ヴェネタのその大きなバッグでパパラッチから身を隠す姿を撮られ、メゾンはその写真を見て彼女のファーストネームを冠することにしたのだ。
2020年リゾートコレクションの一部として2020年初めに店頭に登場したこのバッグは、ボッテガ・ヴェネタのクラシックなアーカイブと多くの共通点を持つが、当時のクリエイティブ・ディレクターだったダニエル・リーは、ハンドルにノットをあしらってアレンジ。「ジョディ」にはミニ、スモール、ティーン、ラージといった豊富なサイズが揃い、ほぼすべてのデザインが、レザーのイントレチャート仕立て。テーラリングやデニムなどの定番に加えれば、即座にモダンな印象を叶えてくれる。
カセット
ダニエル・リーが初めて手がけたコレクションとして発表されたボッテガ・ヴェネタの2019年プレフォールコレクションで、新時代の幕開けを告げるバッグが登場した。その名も「カセット」。長方形のフォルムから名付けられたこのクロスボディは、メゾンの代名詞というべきイントレチャートをオーバーサイズに仕上げた、実にエポックメイキングなクリエイションだ。
さらに、翌シーズンの2019-20年秋冬コレクションでは、このバッグをふっくらと膨らませた「パデッド カセット」が登場。スタイリストやバイヤーなど目の肥えた業界人たちは、この新しい息吹が感じられるバッグに夢中になり、リーはチャンキーなゴールドのチェーンストラップを付けるなど、あらゆるバリエーションでリミックスした。
ポーチ
インスタグラムでは非公式のファンアカウント「@newbottega」(現在のフォロワーは100万越え)が設立され、評判上々となっていたダニエル・リーによるボッテガ・ヴェネタ。そんな中2020年春夏コレクションでデビューした「ポーチ」も、言わずもがなファッションを愛する女性たちのマストハブとして一斉を風靡した。
しなやかなカーフレザーを優しく折り畳んでギャザーを寄せた、まるで雲のようなフォルムが特徴。開口部が広く、その中に靴を入れた写真を「#MyHandbagAteMyShoes(私のハンドバックがシューズを食べちゃった!)とハッシュタグを付けて、投稿する人が続出するほどとなった。
このバッグは、ファッション史上、ミニマルなバッグが憧れの的となった稀有な瞬間として捉えられている。現在も毎シーズンさまざまなスタイルで展開されており、お気に入りの色やデザインを見つけるのも楽しい。
カバ
2001年のデビュー以来、トーマス・マイヤー時代のバッグは、定番にして名品の魅力を放ち続けている。「カバ」は、マイヤーがボッテガ・ヴェネタで初めて手がけたハンドバッグ。卓越した職人による製法とイントレチャートを存分に生かしたこのトートバッグは、真のラグジュアリーを提唱するメゾンのピュアな美学を存分に感じることができる。
サイドやボトムのカーブには縫製を使わず、絶妙なテンションで編まれたライニングまでも、ため息が出るほど美しい。他に装飾やロゴはないが、収納するための取り外し可能なポシェットが付属している。
この「カバ」はリーを経て、ブレイジーによってアップデートし続けているが、時代を経ても色褪せない質実剛健なデザインは健在。モチベーションを下支えしてくれるお仕事バッグにぴったり。
問い合わせ先/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966
https://www.bottegaveneta.com/
Photos: Courtesy of Brand, GoRunway.com Editors: Lilah Ramzi, Maki Saijo, Mayumi Numao
