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インド・ジャイプールで色石に出会う旅──ブルガリの色彩美を象徴するハイジュエリーが生まれるまで

ルビー、サファイア、ターコイズ。多彩な色石の組み合わせから生まれるブルガリ(BVLGARI)のハイジュエリーは、いつの時代も人々に驚きと多幸感を与えてくれる。その至高の輝きはどこから生まれてくるのか。宝石の街、インドのジャイプールでクリエイティブ ディレクター、ルチア・シルヴェストリのジェムバイイングに同行し、彼女の想像力の源について聞いた。

宝石をリスペクトし最大限の可能性を引き出したい

ルチア・シルヴェストリ/ブルガリ ジュエリー部門 クリエイティブ ディレクター。2013年、ブルガリ一族以外で初となるクリエイティブ ディレクターに抜擢。宝石の買い付けとデザインの両方を手がける。

色と熱気にあふれた街、インドのジャイプール。私たちはブルガリのジュエリー部門クリエイティブ ディレクター、ルチア・シルヴェストリのジェムバイイングに同行するため、昨年12月にこの街を訪れた。ルチアといえば、ブルガリの中核をなすクリエイションを牽引する中心人物だ。18歳でブルガリに入社。ジェムバイイングとジュエリーデザインを担うまでに、彼女はどのようなキャリアを積んだのだろうか。「私がブルガリに入社できたのは幸運な偶然によるものでした。当時、生物学を学んでいた私は、ブルガリが出産休暇中の社員の代替要員を募集しているのを知り応募したのです。幼いころから、私はジュエリーや宝石に魅せられてきました。宝石が織りなす魅惑の世界に触れた瞬間に『これこそ私が人生を賭けて取り組みたいことだ』と確信しました」と当時を振り返る。

ネックレス エメラルド×アメシスト×ターコイズ×ダイヤモンド×YG 参考商品/BVLGARI(ブルガリ ジャパン)

「ブルガリ兄弟は当初から、私が宝石に情熱を抱き、調和を見出していることに気づいていました。さまざまな色で遊び、新たな組み合わせを試してみるのは、私にとってはごく自然なことです。そうした姿を見て、兄弟は私を支え、導き、この仕事について教えようと決断してくれました。兄弟と一緒に味わったすべての体験、一つ一つの教えが、私にとっては宝物でした。兄弟のジュエリーに対する見識やアプローチを100%吸収し、ついに二人の信頼を得るに至ったのです」。

彼女がそこまで宝石に魅了される理由は何なのだろうか。「一つ一つが異なり、それぞれに独自の特性、形、色の濃さ、輝き、エネルギーを持っている。それが宝石です。 宝石には無限のファセットを持たせることができますが、これは人生に無数のファセット(側面)があることとも通じていますね。宝石には驚かされてばかりです。一つとして他の石と同じものはないのですから! これほど貴重な自然からの贈り物には、最大の敬意をもって丁重に扱うべきなのです。

個々の宝石について、その特性をリスペクトし、可能性を最大限に引き出すことが、私にとっての日々の使命です。日々、私をとり囲むものや経験することすべてが私の創造性を形づくり、趣味や情熱をさらに奥行き深く豊かなものにしてくれます。そこからヒントを得て、新しいアイデアや実験的な試み、私が直感的に発案した色の組み合わせを伝える、新たな方法をつくり出しています。これこそが常に進化を続ける、クリエイティブの道なのです」。

宝石を見ながら、その場でデッサンをしていく。アイデアは尽きることがなく、続々と新しいデザインが誕生する。

現在ではブルガリの顔といっても過言ではない彼女だが、ここに至るまでには数々の困難に遭遇したこともあったと語る。「ジュエリーの分野は女性と結びつけて考えられることも多いのですが、その実態はというと、ほかの多くのセクターと同様に、男性が圧倒的多数を占める分野です。そのような世界に女性が足を踏み入れようとするなら、経験を重ね、専門的なノウハウや技術的な知識を持つことが不可欠で、それに加えて何ものにも動じない固い決意が要求されます。

買い入れる宝石を探して、ミスター・ブルガリと出張に出かけたときのことは今でも覚えています。ある宝石の価格交渉をしていたのですが、私が女性だったために、売り手側の業者はミスター・ブルガリにしか話をしませんでした。そこでミスター・ブルガリが割って入り、私と話をするようにと告げました。『担当のエグゼクティブ・バイヤーは彼女で、買い付けにゴーサインを出すかどうか、決める権限を持っているのは彼女だけだ』と。バイヤー、ディレクターとして認められ、今のように一目置かれる存在になるまでには、かなりの時間を要しました」。

仕事の前には、お気に入りのラッシーショップに立ち寄るのがルーティンだ。

ソーシャルメディアでも若い女性たちからキャリアに関する相談をされることがあるというルチアは、女性がリーダーになるために不可欠な要素を『情熱、決意、犠牲』だと語る。

「どんな目標を達成するにせよ、情熱と決意、そして犠牲を払うことが鍵を握る要素だと私は信じています。情熱は、熱い心を持って自分の夢を追う原動力となります。決意はどれだけ困難なときでも決してあきらめず、強い気持ちと粘り強さを持ち、あくまで目標を追求していく上で必要です。そして犠牲も、決して避けることができない要素です。私も人生の一部を犠牲にすることを余儀なくされましたが、むしろそれはありがたいことだったと思う気持ちがあります。そのおかげで今の地位を得ることができ、犠牲を払うだけの価値はあったと感じているからです」。

ルチアのために特別に用意された宝石が並ぶ、ジェムサプライヤーのアトリエ。宝石の選定は、必ず自然光のある場所で行うというのが彼女のマイルール。

新しい分野にチャレンジしようとする女性たちにアドバイスするならと尋ねると「『自立し、高い見識を身につけ、自分の中にある価値を掘り起こして養い、信じて進むためにあらゆることをするように』と伝えますね。他の人から信頼を得られない場面もあるかもしれませんが、そんなときでも、目標を達成するために、先頭に立って戦うのは、あなた自身でなくてはなりません」

原石からカッティングされたものまで、多種多彩な宝石が並ぶ。買い付けにおいて、クオリティと同様にカッティングも重要なパートを占めるため、その細部にわたるまでサプライヤーたちと率直な意見を交換し合う。

ジャイプールでのジェムバイイングは、彼女のクリエイティビティが最も刺激される時間だ。色石を見ながら次々とデザイン画が生まれていく。「ジャイプールへの愛は、尽きることはありません。この地に立つたびに家に帰ってきたように感じ、素敵なエネルギーに満たされます。この街が『ピンク・シティー』と呼ばれるのは、(町を取り囲む城壁などに)ピンクが用いられているからですが、この色が真っ先に目に飛び込んできます。カオス、エネルギー、色彩の持つスピリットが一斉に押し寄せ、私の中に入り込んで、創造性を解き放つのです」。

ルチアの宝石選びの一つのこだわりともいえる、ハッピーで、かつ完璧なカッティングの宝石に出会うまで、ジェムサプライヤーたちとは緊張感のあるやりとりが続くこともある。それでも類いまれな審美眼と率直な人柄に彼らは絶大な信頼を寄せ、時間をかけて揺るぎない関係を築きあげてきた。「私は、たとえ仕事上の関係でも、人と人のつながりを築いていきたいと思うタイプです。人との共同作業は、単にビジネスに一緒に取り組んでいくだけではなく、ときにはプライベートの話も交えながら心を通わせて、誰もが肩の力を抜いていられる、調和と一体感のある雰囲気をつくり上げていくことが大切です。こうした要素が揃えば、健全な環境が生まれ、生産性もさらに向上しますからね」

「ピンク・シティー」と称される街の色のパワーに触れて、エネルギーチャージ。

Photos: Courtesy of Bvlgari Translation: Tomoko Nagasawa Editor: Kyoko Osawa