オフィスや電車でも喫えたタバコの“今”
アルコールとカフェインは「ほどほどならOK」と教えてくれた2人のドクターが「百害あって一利なし」とキッパリ否定したのがタバコだ。昭和から平成中期にはオフィスや飛行機という閉じた空間ですら喫煙できたことを思うと、現在の有害認定には隔世の感がある。
「タバコの害のほとんどがニコチンとタールからもたらされます。肺がんをイメージする方が多いのですが、有害物質に晒され続ける膀胱や、煙が触れる食道、咽頭のがんのリスクが上昇。喫煙による発がんは、20~30年経って出てくることが多いのも怖いところです。もちろん、美容面にも悪影響を及ぼします。血管を収縮させるので酸素や栄養が届きにくくなりますし、毒性の強い活性酸素が生じて細胞が破壊されます。それが肌に影響して、シワやシミ、クマ、くすみや色素沈着などにつながりますね」(肝臓専門医・浅部伸一先生)
しかも、タバコは依存性が高く、一日40本吸っていたレディー・ガガは、禁煙した際に「とても大変な経験だった。禁煙をするのは辛くてとても残酷なもの」と告白したほど。時に禁煙相談も受ける家庭医療専門医の三島千明先生は、こう教えてくれた。「医学的には禁煙するのがベストですが、仕事でも家庭でも忙しくストレスがピークに達している方もいらっしゃいます。ニコチンは多幸感や満足感のもととなるドーパミンを出すのですが、その一時的なポジティブさがどうしても必要なときもあるのでしょう。むやみに禁煙を勧めるとそれが新たなストレスになりうるので、その方のライフスタイルに合わせてできることを一緒に考えるようにしています」
“電子”と“加熱式”はまったく別もの
ならば代わりに……と電子タバコや加熱式タバコを手にする人が増えているが、その影響については未知数だそう。三島先生はこう続ける。「香料のリキッドを加熱する電子タバコ(ニコチンを含まないもの)は、 有害成分が少ないのは確かですが、電子タバコでも肺に炎症が出ることがあり、長期的なリスクは未知です。電子タバコをきっかけに紙巻きや加熱式に移行するリスクもあります」
「電子タバコ」と「加熱式タバコ」は全くの別もので、加熱式はニコチンを含み、同じ加熱式でも高温加熱と低温加熱でリスクが変わる可能性があり、電子式でもニコチンを含むものもある。自分はどのタイプを使っているか確認することが大切だ。また、「海外では禁煙の際にCBDに置き換えるケースも。日本ではまだ使用されていませんが、舌下や経皮での吸収、サプリでの摂取などはうちのクリニックでも始めています。感受性が人によってかなり違うので量の調整は必要ですが、睡眠トラブルやPMS、更年期症状の軽減に役立っています。いずれ、日本でも禁煙治療で蒸気CBDを取り入れるところが出てくるかもしれません」(三島先生)。
話を聞いたのは……
SHINICHI ASABE
浅部伸一。肝臓専門医。日本とアメリカで肝炎免疫研究を手掛け、消化器内科で診療を担当。現在は講演や執筆を通じての啓発活動にも従事。自身もお酒好きで、QOLを損ねない付き合い方を書籍や記事で発信。『酒好き医師が教える最高の飲み方』など監修書籍多数。
CHIAKI MISHIMA
三島千明。みいクリニック代々木院長。家庭医療専門医。プライマリケアに取り組み、“かかりつけ医”として未病の不調でも相談しやすいと人気に。肌トラブルから不眠、女性特有の悩みまで、漢方やCBDなど多くの選択肢を取り入れQOLを上げる治療を実践。
Text: SATOKO TAKAMIZAWA Editor: Toru Mitani
※『VOGUE JAPAN』2024年6月号「ワインとタバコとコーヒーは“美しさ”と共存できるのか?」転載記事。
