コーチ(COACH)2025年スプリングコレクションの会場は、ニューヨークのランドマークのひとつ、ハイラインパーク。9月9日(現地時間)、タクシーのクラクションが聞こえるような場所で、ショーは爽快な音楽とともにスタートした。
“ニューヨーク”は、コーチを手掛けるスチュアート・ヴィヴァースにとって大きなインスピレーション。毎シーズン、彼のこの街への愛は行き渡っているが、今回はお土産ショップで見かける「I Love NY」Tシャツがファーストルックを飾り、その後も繰り返し登場。その思いをよりストレートに表現しながら、アメリカ文化で見られるTシャツの寄せ書きを再現し、それぞれ違うメッセージを書いている。パッチワークのカーキパンツはアップサイクルされ、ネイビーとプレッピーなネイビーがコントラストを描いていた。
その後も、デニム、レザージャケットなど馴染みのあるアイテムを伝統にとらわれない手法でスタイリングを刷新。時には、端がほつれていたり、縫い目がぼろぼろだったりしているのは、長年愛着をもって使い続けるという意思表示を込めているかのようだ。
昨シーズンに引き続き、リボン使いも印象的。ピンクやブルーなどのパステルカラーのサテンのミニドレスは、スニーカーとソックス、キャップといった小物と組み合わせることで、カジュアルダウンされていた。キャスティングされたモデルたちは、ニューヨークのストリートを切り取ったかのようで、中には、カミラ・ハリス副大統領の継娘エラ・エムホフもいた。
ヴィヴァースは今シーズンのコンセプトについて「リアルで、実用的で、都会的な環境で、リアルな服を見せることでした。私たちは、これらの服を初めて発見する新しい世代の視点を念頭に置いて、これらの服を新たにデザインしたのです」と語る。
バッグはより実験的なシルエットへと進化。ボニー・カシンのアーカイブを着想源としたがま口財布、恐竜やテディベアのモチーフはオーバーサイズに姿を変え、全体のスタイリングにユニークなバランスを生んでいた。他にもチャームがじゃらっと付けられたり、ステッカーがたくさん貼られたりと、遊び心ある装飾が施され、身に付ける人それぞれが個性を表現できるような要素が盛り込まれていた。
フィナーレは、フロントロウに座っていた双子の子どもがヴィヴァースに駆けつけ、ハートウォーミングな空気に包まれた。時代を読み、今いる瞬間を見つめ続けるヴィヴァース。このコレクションは、完璧さよりも「個性」としてのラグジュアリーというアイデアの提案をしているように思えた。
Photos: Gorunway.com Text: Maki Saijo