コリン・キングは常に移動している。マンハッタンを拠点に活動するインテリアスタイリストは、北カリフォルニアからベルギーのヘント、メキシコまで、3週間にわたる怒涛の旅から戻ったばかりだった。その前月に引っ越したトライベッカのアパートメントに滞在したのは、たった4日間。だから、自宅でくつろぐ時間の一分一秒を大切にしようと決めている。「ここにいるときはなるべく、自分自身や仲間とつながりたいと思っています」と、キングは光あふれるロフトについて語りながら言った。「ここは、私の大切な部分を育む場所です」
カスタムメイドのダイニングテーブルは、目覚ましい発展を遂げているキングの仕事の拠点だ。最近ではここで、彼がアーティスティック・ディレクターを務めるベニ ラグスというラグブランドの新しいコレクションを考案し、デンマークのスタジオ「Menu」のためにさまざまなオブジェをデザインした。また、今年3月にRizzoli社から出版された初の写真集『Arranging Things』のために、過去に撮影した数千枚の画像を吟味していたのもここだ。外は都会の喧騒に包まれているが、室内はキングが細部まで精確な改装を手がけたおかげで、心地のよいささやき声しか聞こえない。
静かで、どこか物語のなかにいるような魅力を放つ雰囲気こそ、まさに、ウエストエルム、ザラホーム、アンソロポロジーといったブランドとのコラボレーションをはじめ、トップデザイナーたちから指名されるなど、キングが人気を博している理由だ。しかし彼にとってスタイリングは、生涯の仕事にすることを目指していたものではなかったようだ。
「ものには神秘的な力があるとずっと信じてきた」
「可能性どころか、現実的だと思えるようなキャリアでもありませんでした」とオハイオ州の田舎町で育ったキングは言う。バレエを習いはじめたことで、最初にクリエイティビティに触れた。結局、舞台に立つ夢は断念したが、形や空間を直感的に理解できるようになったのはバレエのおかげだという。その後、パーソナルトレーナーなど、さまざまな仕事を経験した後、アーティストのジャック・セグリックの勧めで初めてインテリアスタイリングの仕事をスタート。以来、オファーが絶えることはない。
「友人たちからは、目の肥えた引っ越し好きだと言われてます」と語るキングは、自宅でも過去のプロジェクトにまつわる思い出の品や、自分の生い立ちを想起させるものに囲まれている。例えば、キッチンのシェルフには、ニューヨークで話題のコンセプトストア、ローマン・アンド・ウィリアムス・ギルドのテーブルウエアが飾られている。一方、広大なリビングには、MDFGやデミッシュ・ダナントなどで購入したアイテムが。そして、棚や窓の下枠などの各所には、この家のモチーフアクセントとなっている岩が彫刻のようなオブジェとして存在する。そのどれもが、石を集めては叩き割っていた幼少期を思い起こさせるのだという。
「ずっと、ものには神秘的な力があると信じてきました。心はいつも、幼少期に過ごした農場にいる少年なんです」
試行錯誤の連続
キングのスタイルの最も根底にあるのは、試行錯誤の精神かもしれない。撮影現場でも彼は何度も構図を試し、「これだ、というのがわかるまで、これではない、を繰り返していく」。今回の改装の際も、そんなふうに進めていったそうだ。例えば、黒く汚れていた床を研磨したことで、美しいパイン材が隠れているのを発見できた。「それが今年最初に見つけたイースターエッグでしたね」と、驚きだった発見についてキングは冗談めかして言った。
壁と天井には漆喰を塗り、15色のペンキを試したうえでベージュの特注色に決め、ドアやエアコンカバー、ロッドなどを特注して取りつけた。以前のアパートメントから家具を移動させたときに初めて、新居にそれまで使っていた家具を置くとドールハウスのような大きさに見えると気づいたそうだ。そこで、広々としたリビングのために、デイベッドとソファをデザインした。
トライベッカに移した品々のなかには、トラバーチン製の一本脚のテーブルがある。ロックダウン中、ブルックリンのアパートに閉じこもっていた間に、卵の殻やハサミ、牛乳の入ったグラスなど、ありとあらゆるアイテムを詩的な静止画に仕立てて発表していったのだが、その成功によってキングは一夜にしてインスタグラムの「時の人」となった。現在も、そのテーブルは実験の場となっていて、最近はより希少価値の高いものを撮影することが多くなっているのだそう。
私たちが訪れたときは、新しいコレクションに交ざって、日本の器やガエ・アウレンティのランプなど、ユニークな品々が並んでいた。このテーブルについてキングは、「たくさんの思い出が詰まっています。これからもずっと一緒です」と言う。そうは言っても心のなかでは、ということだろう。来週は、ロサンゼルスで4つの撮影が予定されているのだから。
Photos: Rich Stapleton Styling: Colin King Text: Sam Cochran Translation : Miwako Ozawa Editor: Maki Hashida