CELEBRITY / VOICE

高橋文哉の演技論 ──「自分をゼロにするのではなく、役に寄せていく。その積み重ねで常に新しいものができる」

映画『ブルーピリオド』で藝大入学を目指す女性的な容姿のユカちゃんを演じ、好評を博した高橋文哉。先日、最終話が放送されたドラマ「伝説の頭 翔」では、暴走族の総長とそっくりなヘタレの男の子の二役を熱演。一方、主演映画『あの人が消えた』ではどこにでもいそうな配達員役に扮し、役柄の幅を見せつける。そんな話題作への出演が続く彼に、作品や役との向き合い方、共演の田中圭から学んだことを聞いた。
高橋文哉、映画『あの人が消えた』Fumiya Takahashi

『あの人が消えた』は、2023年放送の日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」を手がけた水野格が完全オリジナル脚本で挑んだ劇場長編作だ。いわくつきのマンション担当の配達員・丸子(高橋文哉)が住人・小宮(北香耶)を気にするあまり、挙動不審な島崎(染谷将太)の存在が脅威に。会社の先輩・荒川(田中圭)に協力を仰ぎ、独自捜査に乗り出すが……。

“役抜き”をしない理由

ニット ¥297,000 シャツ ¥182,600 パンツ ¥231,000 ベルト ¥86,900/すべてBOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)

──『ブルーピリオド』のユカちゃん、「伝説の頭 翔」の翔と達人の二役など、キャラクターの立った役が話題になりましたが、本作の丸子のように一見、普通の役どころだとより困難を感じますか?

今回の丸子は「難しいな」と思いながら、演じていたのを覚えています。もしかしたら、キャラが立っている役の方が演じやすいのかもしれません。翔やユカちゃんは、ビジュアルも内面もやらなくてはいけないことがたくさんあったので、その分、どこか安心できました。ただ、キャラが立っている役はあくまでも役で、立ちすぎると人間ではなくなり、キャラクターになってしまう。それもまた難しいです。ナチュラルな役はアプローチが少ないので、丸子役の役作りのためにしたことは、思い返してみると、ほとんど何もありません。現場での不安要素を払拭するために、ひたすら台本を読み込むだけです。台本から理解して、技術より気持ちを大事にする、テクニカルではないナチュラルなお芝居です。役を作るか、それとも役を生きるかの違いになってきます。

──丸子に共感したり、あるいは自分とはまったく違うと思うようなところはありましたか?

僕は今まで演じる役に共感したことがないんです。むしろ役の気持ちを理解できると脳に錯覚を起こさせるよう、自分から変えてしまいます。そうしないと演技が嘘になってしまうと思うんです。丸子のことは素直だなとは思いますが、それぐらいです。ヤンキーの役を演じていると、自分でも気づかないうちに足幅が広くなっていたりしますし、ユカちゃんの撮影時は少しでも肩を小さく見せようと内側に入れ続けていました。丸子は歩き方がペタペタしているので、撮影期間は普段からそうなっていました。

──そんなに役にどっぷり浸かってしまうと、次の作品までの間に役を抜くのが大変ではありませんか?

僕は自分を寄せていくタイプなので、“役抜き”というより、“役入れ”のイメージの方が強いです。役の入った自分をさらに次の役に寄せていきます。抜いて、一旦、自分をゼロにするのではなく、今ある自分に足していくという感覚です。役で学んだことにさらに次の役を積み重ねることで、常に新しいものができていく気がしています。役を抜くような気持ちはありません。抜けなかったら、それはもう僕。自分自身がどんどん変わってきていると思います。

──本作では、どんな自分の新たな面を得られたのでしょう?

丸子という役は特殊ではないけれど、ダサくあることを心がけました。モテないとか、おっちょこちょいとはまた違った、可愛げのない気味悪さ。ラーメンの食べ方、家にいるときの眼鏡の位置、服装なども監督の水野さんと話し合って、細かいところまでこだわりました。1人で携帯小説を見ながら、おにぎりを水で流し込んでニタニタ笑っているのは、ちょっと不気味じゃないですか(笑)。そういうところが出たらいいなと思っていました。

──作品選びはどのようにしているのですか?

「今の高橋文哉がこれをやるんだ」という意外性を大事にしています。「この作品をやります」と言ったときに、皆さんがどんな反応するのか、まず考えます。それから、シンプルに自分がやりたいと思えることも大事にしています。今回は決め手も何も、やらない理由が見つかりませんでした。僕も「ブラッシュアップライフ」は拝見していましたし、あの水野監督によるオリジナル脚本ですし、出演者の方々の名前を聞いて魅かれることしかありませんでした。

一体感を高めるためのコミュニケーション

©️2024「あの人が消えた」製作委員会

──田中圭さん演じる荒川と丸子の会話のテンポの良さが、とても面白いアクセントになっています。田中さんとは4年ぶりの共演になるそうですね。

僕は圭さんのことを本当に信頼させていただいているので、僕らならではの絶妙な距離感だと思います。監督を含めて3人で話したのですが、役者間では何の相談もしていないです。ある意味、お互いの空気感でやり切れた感じがします。圭さんはとても兄貴肌の方で、なんでも相談できる頼れる先輩。荒川と丸子の関係にすごく近いです。僕は「仮面ライダーゼロワン」でデビューして、その次にいただいた連ドラ「先生を消す方程式。」は圭さんが主演でした。「仮面ライダー」は自分が主演だったので、僕が初めて見た主演像が田中圭さんになります。当時は盗めるものは全部、盗まきゃという思いで現場に入っていたので、主演としての立ち居振る舞い、コミュニケーションのとり方、役への向き合い方など、実に多くのことを圭さんから学ばせていただきました。圭さんは「おはようございます」などの挨拶の声が大きいんです。そういうところも頑張って見習おうと思いましたし、今も心がけています。なので、数年ぶりの共演と言っても、レベルが違う緊張感があり、同時に安心感もありました。現場では自分が主演ということを一旦忘れて、「圭さんの胸をお借りします」という思いでいました。

──主演と助演では、どのような違いがありますか?

あるとは思いますが、具体的に何が違うのかと言われたら、自分でもピンとこないです。ただ主演のときは、意識して積極的にコミュニケーションをとるようにしているような気がします。僕は主演であれ、助演であれ、周りを立てられる俳優でいたいと思っています。助演のときは主役を立てる役者でありたいと思いますし、主演のときは周りのみんなを立てる俳優でありたい。今回は大先輩ばかりと共演したので、そういう感情はあまり湧かなかったです。主演として現場にいさせていただいているからには、責任感みたいなものは持つとはいえ、助演のときに責任感がないという意味ではないです。主演となると、肩の荷が少し重いぐらい。荷物が一個分くらい多いかなという感じです。

──主演作と一口に言っても、たくさんのゲストを迎えては見送るような本作では、意識することが違いますか?

ご一緒させていただく方々によっても、まったく違うと思います。コミュニケーションをとらなきゃと言いつつ、この作品ではそんなにコミュニケーションをとれませんでした。染谷(将太)さん、北(香那)さん、坂井(真紀)さん、袴田(吉彦)さんとのシーンはあっという間で、ゆっくり話す間もなく、終わってしまいました。その分、スタッフの方々とは密にコミュニケーションをとっていました。今作は、僕が演じる主人公の丸子が主軸になって、彼がいろんなところに行って、話を聞いてまわります。1日のうちに3、4人の共演者の方の家を訪問してまわり、話がどんどん移り変わっていく。そんな撮影の仕方だったので、主に出ている僕を中心に現場の空気が作られていくと思いました。なので、スタッフさんといろいろな話をして、一体感を大事にしました。現場のスタッフさんは、僕らが困ったときに助けを求められる存在でもあります。コミュニケーションをとることは、とても大事です。

「作品で自我を出す必要はない」

©️2024「あの人が消えた」製作委員会

──完成した作品を見た感想を教えてください。

面白かったです。僕が見ていないシーンも多くあり、画で繋がったらどうなるんだろうと思っていたので、話の過程や結末をわかっていても楽しめました。台本上ではクスッと笑えたのにすごいスピード感でそれどころじゃなかったなど、たくさんの発見がありました。いつものことですが、自分のシーンに関しては、つい「もっとできた気がする」と思ってしまいます。

──高橋さんが役者として、これだけは譲れないと思っていることはありますか?

ないです。譲れないものを持たないことぐらいです。数年前まで「こういう役だったら、それはない」などと考えていましたが、結局は自分で自分の首を絞めていることに気づいたんです。一瞬でも想像できることは、可能性として、普通に起こりえます。自分で役を狭めてはいけないと思います。自分自身に対してもそうです。僕はこういう役者だから、こういう立ち位置だから、こういう年齢だから……そういうことはなるべく考えないように仕事しています。求められていることを求められた分だけ、やりたいです。

──役に向き合い続けていると、オフの時間が欲しくなりませんか?

最近、やっと思い始めました。今は休みたいというより、そろそろインプットしたいと思うようになりました。友だちから「最近、忙しそうだね」と言われるのですが、そうではなくて、休みの日にあまり人と会わなくなったんです。僕は人と会うときは結構、前のめりに楽しみたいタイプなのですが、何年ぶりかに再会したときには、「この空気感、使えるな」とか考えてしまう自分がいる気がします。

──仕事をしていて、楽しいのはどんなときですか?

日々、楽しいです。作品を撮っているとき、宣伝活動をしているとき、バラエティ番組……発信することが嫌いではないのかもしれません。悪い意見を見聞きしても、全然へこみません。少し前までは「下手くそ」と言われているのを知ると、「頑張っているのにな」と悲しかったです。でも、その悲しい感情はなんの役にも立たない。よく母に「怒られているうちが花だよ」と言われていたけれど、それに近いのかなと思います。やはり家族や周りの人は、自分がどれだけの熱量で挑んでいるかを知っているから、どうしても、ちょっとぐらい良くなくても「よかったよ」「面白かったよ」と言ってくれるんです。きっと、その人は変なフィルターをかけずに見てくださっているのかなと。悪く言う人がいても、何も言わない人よりはマシ。僕のことを気にしてくれているんだと思えるようになりました。

──メンタルが強いですね。

いえ、年齢を重ねて大人になっただけです(笑)。

──今後、どのようにキャリアを積んでいきたいですか?

どんな役をやっても、顔は変わらないので、そこをどれだけ崩せるかだと思っています。不安が多いからこそ、体重を増やしたり減らしたりして、どうにか少しでも高橋文哉に見られないようにしているところもあります。あとは、あまり自我を強く持たないようにするくらいしかありません。ありがたいことにゴチ(バラエティ番組『ぐるぐるナインティナイン』内のコーナー「グルメチキンレース・ゴチになります!25」)やラジオ(火曜日のオールナイトニッポンX)など、役ではない僕を見ていただける場所はたくさんあるので、わざわざ作品で自我を出す必要はないと思うんです。このような取材やメディアに出るときには、ちゃんと自分自身はこういう人間なんだとアピールして、役との距離感を見せられたらなと思っています。

映画『あの人が消えた』
監督・脚本/水野 格
出演/高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、染谷将太/田中圭
9月20日より全国公開
https://ano-hito.com/

問い合わせ先/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966

Photos: Nobuko Baba Styling: Shinya Tokita Hair & Makeup: Toshiyasu Oki at CONTINUE Interview & Text: Aki Takayama