「時々、モデルとしての自分と、本当の自分との間に距離があると感じることがあります。ただのマネキンになったみたいに」と語るのは、人気急上昇中の20歳のショーモデル、ベベ・パーネルだ。彼女はフィービー・ファイロのキャンペーンの仕事もこなしながら、オックスフォード大学で英文学を学ぶ2年生として、生活を両立させている。「でも、こんな撮影なら、ちょっと自分らしさを出すことができます」
彼女は今、テムズ川沿いのチズウィックにある、あたたかな暮らしの営みを感じさせる家の玄関ホールに立っている。市松模様のタイルが張られたその家屋が、新世代のモデル、ファッションに目覚めて間もない若者たちがいかにも今時の家族として登場する『VOGUE』の「フューチャー・ヴィンテージ」特集の撮影場所だ。
霜に覆われた外の庭では、写真家兼コントリビューティング・ファッション・エディターのヴェネチア・スコットが、20歳と18歳のモデルの兄妹、ウィリアム・コートとエレノア・ムーディに指示を出している。彼らが古びた木のベンチに座ってポーズをとるのに合わせ、シャッターを切るスコット。この物語の登場人物の多くと同様に、兄妹は個人的に気に入っているこだわりのヴィンテージアイテムと、春のランウェイで最も注目されたアイテムをミックスしたスタイルに身を包んでいる。
この世代は、自分たちが生まれる何十年も前に現れ、過ぎ去っていった時代のスタイルに強い憧れを抱いている。それはロマンティックなボーホーであったり、気骨あふれるパンクであったり、さまざまだ。今回の撮影に起用された若者たちは、情報化時代のまさに最前線で育ってきた。つまり、直接的には経験していないファッションの一大転換期も、キーボードを叩くだけで過去から抜き取り、なおかつ、はるかに速いスピードで拡散させることができるのだ。そして彼らのお下がりへの愛着も侮れない。
撮影現場には、30歳のアーティストのリリー・マクメナミーと、異父弟で20歳のモデル、エディ・アールという大のヴィンテージ好きがいる。何か物語のある服を持参するように言われた2人は、幸運にも母であるスーパーモデルのクリステン・マクメナミーが着たマックイーンのウエディングドレスを見つけ、持ち込んだのだ。
2人はイヴ・サンローランの黄金期の名品をオンラインで発掘するのにはまっているが、最高の品揃えを誇るアーカイブストアにも引けを取らない母親のワードローブも最大限に活用するのは当然だろう。「僕のワードローブのほとんどは、母がくれたもの」だとアールは言う。特に印象的なものは? との問いに「そうですね、前から後ろまでファスナーが伸びたリック オウエンスのレザーパンツをくれたことがあります。ドレスアップするパーティーに出る予定だったのですが、それに合った服を持っていなかったので、一式選んでもらえないかと母に頼んだんです」と答えた。
モデルのラックス・ギレスピーを、ヴィヴィアン・ウエストウッドやオールインのランウェイで目撃した方もいるだろう。ラックスにとって、大切なのは着こなし方からあふれ出す個性だ。「このジーンズはもともと父のものでした」──ここでいう「父」とは、スコットランドのロックバンド、プライマル・スクリームを率いる長髪のフロントマン、ボビー・ギレスピーのことだ。「父が当時新品で購入し、それを兄が受け継ぎ、今度は私が受け継ぎました。今ではすっかりボロボロですが、それがまたいいんです。そこにストーリーがあるから」
「母はすばらしいジャケットをたくさん持っているし、父はすごくいいデニムをたくさん持っています。この2つを組み合わせると、またいい感じなんですよね」そう語る17歳のネッド・シムズは、デザイナーの母ルエラ・バートリーと写真家の父デヴィッド・シムズの誰もがうらやむワードローブから、度々服を拝借していることを打ち明けた。それは彼の姉である20歳のスティービーも証明している通り、姉弟そろっての習慣でもある。
「私は母のワードローブから何でも勝手に借りています」と彼女は認める。「もう触るのもダメ、って言われているセーターもあるくらい。YSLのすてきなVネックセーターなのですが、以前に同じようなものをなくしてしまったから。でも、それ以外は返せば大丈夫なはず」
確かに、人から受け継いだアイテムは、コーデを左右する中心的なピースというよりも、特に大切にしたいと思えるような心打つ思い出の品となることが多い。「最近亡くなった父が愛用していたオメガの時計を持っています」と語るのは、サウスカロライナ州チャールストン出身の20歳のモデル、アディソン・ソーンスだ。「父はジェームズ・ボンドに夢中で、この時計は映画に何度も登場したモデルとまったく同じものです。時計を着けるたびに、すごく力が湧いてくる気がします」
「私たちの母は数年前に他界しましたが、ファッションに関しては、いつも一番のインスピレーションになる人でした」と話すのは、26歳の一卵性双生児、アレクサンドラとマリア・スパニドゥだ。グッチの印象的な2023年春夏コレクションのショーを観た人は、彼女たちを覚えているのではないだろうか。「母はハーレーダビッドソンのレザージャケットをよく着ていました。また、デザイナーズバッグにも投資していて、私たちも同じことをし始めたところです。母の持ち物をすべて保管しており、手放すことは決してありません。私たちにとって特に大切なアイテムは、プラダのバッグです。代表的なナイロン素材のクロスボディバッグで、どこに行くにも持ち歩いています」
スタイルが受け継がれるように、音楽の好みも世代を超えて受け継がれることがある。「僕たちは特に、70年代のパンクのような20世紀のオルタナティブミュージックに夢中です。ファッションへのアプローチはそこから来ています」と、コートは母親について語った。彼はパッチだらけのカーキ色のキャンバスジャケット、ヴィンテージの迷彩柄の戦闘服、オックスブラッドの靴にマリーゴールドイエローのシューレースを通した、くたびれたドクターマーチン「1461」、そして母親のワードローブを漁って手に入れたぼろぼろのザ・キュアーのTシャツを身に着けて、『VOGUE』の撮影現場に現れた。「母はいつも機転を利かせて、いろいろなものを再利用しています」と、俳優の卵である妹のムーディが付け加える。「だから、服は古着ばかりでした」
パーネルの場合も似たようなもので、目抜き通りで買い物を楽しんでいたこともあったが、10代の頃から親たちが全盛期だった頃のファッショナブルなスタイルに目覚め、ショッピングの仕方も変わったという。「私の両親は90年代にバーミンガムのパンクシーンにどっぷり浸かっていました。古着を買うのがこんなに楽しいものだと知ることができたのは、そんな両親のおかげです」と彼女は言う。「両親は、風変わりな店に行っては価値のある“本物”を探すのが楽しみだったんです」そんな彼女は、オックスフォードの掘り出し物探しの聖地として知られる歴史ある古着店「ユニコーン」と、グロスターグリーンで週3回開催されるマーケットといったヴィンテージショップなどが行きつけだ。
「見るからに店先にそのまま並んでいるような服を、着たいと思ったことはありません」とマクメナミーもうなずく。「まるで生まれたときからその服を着ていた、というくらい、自分になじんだ格好でいたいと思っています」
たとえおしゃれな両親からの影響がなくても、意味やオリジナリティのあるファッションを追求したいという思いが、新たな世代を古着へと導いている。ポーツマスで育った18歳のモデル、レイフ・クレイン=ロビンソンは、「ファッションの選択肢はいつも同じメインストリートのブランドに限られていて、とても退屈でした」とため息をつく。「そういうブランドの代わりに、チャリティショップを漁って、そこに行き着くまでの歴史が感じられそうな古いものを探し回るようになりました」ちなみに、一番大切な古着は?「『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』と書かれたタンクトップ。強烈でしょ」
ヴィンテージは今や、Z世代(あるいは、ヴィンテージをもじって「V世代」と呼ぶべきか)の核となる信念と化している。では、その未来はどのようなものになるだろう? 興味深いことに、メゾンは最近のランウェイで、どこかノスタルジックなものを好む人々に直接アピールしようと、古着ファンのワードローブにすんなり収まりそうなスタイルをリリースしたり、あるいはかつてのクリエイションの復刻版を出したりしている。モスキーノの起毛させたギンガムチェックのコート、アレッサンドロ・ミケーレがヴァレンティノで発表した愛らしいリボンや水玉模様、サンローランが2025年春夏コレクションでルル・ドゥ・ラ・ファレーズにオマージュを捧げた宝石のようにきらびやかなブロケード生地のブレザーなど、チャンスがあれば誰もが親のワードローブからくすねてしまいそうなアイテムはその好例だ。
そして、今回の主人公たちはどんな宝物を手に入れ、いつかそれを誰かに譲り渡そうと考えているのだろうか? 「このサンローランのブーツ」と、ファッションデザインを学ぶ18歳の学生ヴィンセント・ロッキンスは、磨き上げられた黒いレザーのヒールブーツ「ワイアット」を指差しながら言った。「ビスタービレッジのアウトレットで200ポンドだったから、本当にお得でした。買ってから毎日履いています。本当に愛しい存在。自分の足がもう大きくならないよう、祈るばかりです!」
「アーロン・エッシュのレザーパンツ」と即答したのはギレスピーだ。「これ以上ないおしゃれなロックンロールパンツ。ぴったりフィットして、裾はフレアで。決して古びないデザインです」
服を着ることに関して、どうやら彼らは十分楽しんでいるようだ。そしてたくさんの思い出深いピースが詰まったワードローブを、いつか彼らの子どもたちが漁ることになるだろう。
Styled by Venetia Scott Hair: Eamonn Hughes Makeup: Janeen Witherspoon Manicure: Adam Slee Set design: Sean Thomson Production: Image Partnership Models: Addison Soens, Bebe Parnell, Eddy Earl, Eleanor Moody, Ned and Stevie Sims, Lily McMenamy, Lux Gillespie, Maria and Alexandra Spanidou, Peng Chang, Rafe Crane-Robinson, Sanique Dill, Vincent Rockins and William Court Digital artwork: Hempstead May Caption Text: Mika Mukaiyama