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ロンドンへ立ち戻ったグッチ。サバト・デ・サルノが描く、相反するものの調和【2025年 クルーズ速報】

5月13日(現地時間)、8年ぶりにロンドンでショーを開催したグッチ(GUCCI)。テート・モダンを舞台にサバト・デ・サルノが発表した2024-25年クルーズコレクションは、メゾンの原点と伝統、そして彼自身の体験を回想し再解釈する新たな物語を紡いだ。

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

『イブニング・スタンダード』の夕刊を広げると「バーバリーBURBERRY)以外、ロンドンでショーを開催するイギリスの大手ファッションハウスはもうない」という嘆きが目に入った。その悲しき実態に救いの手を差し伸べるかのように、グッチGUCCI)は昨夜、テムズ川沿いにあるテート・モダンで象徴的なクルーズショーを繰り広げた。会場の外ではモード界で名を挙げ始めているStray Kids(ストレイキッズ)のリノに黄色い声を上げる人であふれ、いかにも今のロンドンという感じだ。しかし、いざショーが行われた「タンク」展示室で着席するケイト・モスアレクサ・チャンら元祖ファッショニスタの姿を見ると、プルースト効果なのか、EU離脱前の夢あるロンドンのファッションシーンに引き戻されたかのような感覚に陥った。

グッチが最後にロンドンでショーを開催したのは2016年。EUからの離脱を問う国民投票が行われたあの運命の日の21日前のことだ。リリースでクリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノは、自身が個人的に感じたロンドンの忍耐強さとこれからに惹かれて、開催地にロンドンを選んだと述べている。「私はこの街から多くのものを得ました。この街は私を受け入れ、私の声に耳を傾けてくれました」。彼の想いはザ ・サヴォイでポーターとして働きながらブランド創設の志を抱いた10代のグッチオ・グッチと重なり、ショーの物語をさらに深みを持たせた。

本格的にメゾンのデ・サルノ期が始まった今、彼はグッチのインスピレーション源である街に戻り、その広がるクリエイティビティを披露した。果たしてロンドンは、再び彼を受け入れ、声に耳を傾けてくれたのだろうか。

二面性から生まれる、新たなグッチらしさ

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

オープニングの一幕で登場したモデルたちは、まるでロンドンに降り立って羽を伸ばすトスカーナの良家の子女。ミックスウォッシュデニムの上にマットブラウンのスエード生地がカジュアルさを醸し出す、隙なく仕立てられたダブルブレストジャケットなどのアウターを羽織り、首もとにはブラウスと同じ素材の柔らかなリボンが揺れる。

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

ランウェイに送り出されたシューズのほとんどは、ホースビットがあしらわれたラバーソールのバレリーナといった、ヒールのないフラットタイプ。メンズコレクションでお披露目された、「GUCCI」の刻印が静かに存在感を放つシュープロテクター付きのクリーパーシューズも打ち出され、デニム、ワークウェア風のコットンポプリンのポップオーバーシャツ、オーバサイズのデニム製ボンバージャケットと並んで、来月ミラノで発表予定の2025年春夏メンズコレクションへの期待が膨らむラインアップだ。かと思えばパテントレザーのショートコートとシアースカート、カラーコーデされた2個持ちバッグが主役を張るパステル調のウィメンズルックが続いた。

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

ディテールと装飾性のこだわりはデニムを飾る繊細なビーズ刺繍のフリンジや手刺繍されたカモミールの花で表現。花のモチーフは黒地のプリントや3Dレーザーカットを施したオーガンジーのスカートに姿を変え後半のルックに落とし込まれ、タータンチェック柄は手作業であしらわれたビーズやスタッズとして再解釈された。

グッチ 2024-25年クルーズコレクションより。

Photo: Courtesy of Gucci

フィナーレに差しかかると、デ・サルノがマーク・ロンソンと制作したミーナの人気楽曲『Ancora, ancora, ancora』のオリジナルリミックスの切ないバイオリンとブロンディの『ハート・オブ・グラス』をミックスした曲が流れ始めた。その選曲は1970年代初頭にイタリアで発表された「ブロンディ」バッグの復活を合図するとともに、さらなる広がりを見せるサバト・デ・サルノの世界を表していた。

※グッチ 2025年クルーズコレクションをすべて見る。

Text: Luke Leitch Adaptation: Anzu Kawano
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