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『インディ・ジョーンズ』シリーズの制作秘話vol.2 ──ショーン・コネリーやリヴァー・フェニックスの起用理由、フェドラハットとの出合いetc.

考古学者にして冒険家のインディ・ジョーンズの活躍を描くアドベンチャー・シリーズ最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が、いよいよ公開される。ハリソン・フォードがインディを演じるのはこれが最後となるが、その前に作られた3作目『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)と4作目『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)も壮大なスケールで、ドラマティックなエピソードが満載だ。
Read More>> 『インディ・ジョーンズ』シリーズの制作秘話vol.1 ──ハリソン・フォードのキャスティングからイースターエッグまで

インディ・ジョーンズの父親に“初代ジェームズ・ボンド”をキャスティング

Photo: Paramount Pictures/Getty Images

1938年、ナチス・ドイツ軍とキリストの聖杯争奪戦となるシリーズ第3弾『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)で、インディの父親にして聖杯研究の第一人者の考古学者ヘンリーを演じたのは、ショーン・コネリー。このキャスティングは、インディ・ジョーンズというキャラクターのインスピレーションが『007』シリーズのジェームズ・ボンドであり、特にスティーヴン・スピルバーグ監督がイメージしたのがコネリーの演じた初代ボンドだったからだ。

しかしながら、コネリーとハリソン・フォードは12歳しか年齢差がなく、コネリーは当初オファーを受けるべきか悩んだが、脚本を気に入って引き受けたという。コネリーは19世紀に実在した探検家・外交官のリチャード・フランシス・バートンをイメージし、脚本作成の段階からさまざまなアイデアを出した。フォードは、コネリーの協力によって内容に重厚さが増したと語っている。さらに父と息子のストーリーを充実させるために、スピルバーグは劇作家・脚本家のトム・ストッパードにリライトを依頼した。脚本家としてクレジットはされなかったが、ギャラとして12万ドル、のちにボーナスとして100万ドルが支払われた。

Photo: Murray Close/Getty Images

映画『007』へのオマージュは、キャスティングやセリフにも散りばめられている。インディに聖杯探索話を持ちかける大富豪のウォルター・ドノヴァン役のジュリアン・グローヴァー、ヒロインでオーストリア人の考古学者エルザ役のアリソン・ドゥーディ、第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』にも登場するインディの友人サラー役のジョン・リス・デイヴィスは、『007』シリーズの出演者だ。飛行機が不時着し、また別の戦闘機に追われる時にヘンリーがインディに「こんな経験は初めてだ」と言うが、これはコネリーが主演した『007 ロシアより愛をこめて』(1963)のボンドのセリフを引用している。

リヴァー・フェニックスの抜擢

Photo: Paramount/Everett Collection

『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の冒頭では、1912年、少年だったインディの冒険が描かれる。16世紀スペインの探検家が所有していた十字架盗掘を目撃し、博物館に収めるべきと考えたインディ少年は、ギャングの一団の隙をついて十字架を奪う。疾走する馬や列車を使ったアクション演技に挑戦し、鞭やフェドラハットといったトレードマークとの出会いを演じたのはリヴァー・フェニックスだ。

フォードが『モスキート・コースト』(1986)で親子を演じたフェニックスを推薦。当時、「活躍している若手の中で最も自分に似ている」というのが理由だ。撮影時のフェニックスは18歳だったが、ボーイスカウトのユニフォーム姿で12歳のインディを熱演した。また、フォードの顎にある傷跡をもとに、インディ少年が顎に傷を負うシーンも盛り込まれた。

Photo: Paramount/Everett Collection

その後、製作会社「ルーカスフィルム」のジョージ・ルーカスはインディの青春時代を描く若年層向けのTVシリーズ「インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険」をプロデュースしたが、フェニックスが続投を断ったため、ショーン・パトリック・フラナリーがインディを演じることになった。

トレードマークとなったフェドラハット

Photo: Murray Close/Getty Images

武器の鞭と並んでインディのトレードマークなのが、フェドラハット。フェルト製で、シルクのグログランリボンと、イニシャル「IJ」が金文字でプリントされた革のスウェットバンドの装飾が付いたシンプルなデザインだ。『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の撮影で使用された1点は、国立アメリカ歴史博物館に収蔵されている。

第1作から『最後の聖戦』までの3作の舞台は1930年代で、大人の男性なら誰もが外出時に帽子をかぶっていた時代。フェドラ帽は、特にハンフリー・ボガードなど当時のノワール映画の主役たちが劇中で着用していたことから、インディ愛用のアイテムとして決定。フォードがロンドンの名店で何十回と試した中から選ばれた一品をもとに、さらに10個作成された。

『最後の聖戦』では、若き日のインディとフェドラハットの出合いも描かれる。十字架を盗む盗賊集団のボスであるガースは、かぶっている帽子にちなんで仲間から「フェドラ」と呼ばれていた。インディ少年は攻防の末に十字架を持ち帰るが、最終的に奪い取られてしまう。その際にガースは「君の負けだ。だが、めげるなよ」と自分のフェドラをインディの頭にかぶせる。この帽子がインディ・ジョーンズを象徴するアイテムとなった瞬間だ。

ロケ地ヨルダンでは国王一家も協力

Photo: Paramount/Everett Collection

『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』で聖杯が収められている神殿の外観は、世界遺産であるヨルダン・ペトラ遺跡で撮影された。当時の国王フセイン一世は撮影に全面協力し、特にアメリカ生まれのヌール王妃は自分の子どもたちを伴ってスピルバーグを毎日撮影現場まで車で送迎した。ラストに登場する4頭の馬は、国王所有の馬だという。1985年にユネスコの世界遺産に登録されたものの、知られざる存在だったペトラ遺跡は、映画公開後に劇的に観光客の数が増えた。

ちなみに、本作のヴィランである大富豪ドノヴァンが偽の聖杯の水を飲んで一気に老化して骸骨になるシーンは、ハリウッド史上初の完全デジタル合成撮影だとされている。演じるジュリアン・グローヴァーは、老化の特殊メイクをほどこして数段階に分けて撮影し、骸骨の人形を撮影した映像とデジタル技術で融合させ、1テイクとしてフィルムに戻した。

著名監督たちは第4作の脚本を任されるも、次々と降板

2008年、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』のプレミアが行われたカンヌ国際映画祭にて。ジョージ・ルーカス、ハリソン・フォード、スティーブン・スピルバーグが揃って出席した。

Photo: Pascal Le Segretain/Getty Images

1980年代に作られた3部作で完結したものの、紆余曲折を経て前作から19年ぶりの続編となったのが『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』だ。2000年に一堂に会する機会を得たスピルバーグ、ルーカス、製作のフランク・マーシャルと妻のキャスリン・ケネディは「再びインディ・ジョーンズ映画を作る経験を楽しみたい」と意見が一致し、企画がスタートした。舞台は1930年代から1957年に移り、ストーリーも冷戦時代の1950年代を意識した内容になっている。

当初は2002年公開を目標に、『シックス・センス』(1999)で一躍注目されたM・ナイト・シャマランが脚本を任された。ところが、シリーズの大ファンだったシャマランは、大好きな作品を手がけるプレッシャーで降板。その後に起用された『ショーシャンクの空に』(1995)のフランク・ダラボンによる「元ナチスがインディを追う」という内容をスピルバーグは気に入ったが、ルーカスの反対で没に。ルーカスとジェフ・ナサンソンの原案を、『宇宙戦争』(2005)などのデヴィッド・コープが最終的にまとめて脚本が完成した。

シリーズ4作中唯一、インディが銃を発砲しない

Photo: Paramount/Everett Collection

『クリスタル・スカルの王国』でインディは銃を手にする場面はあるが、実際に発砲はしない。これはシリーズ4作中で、初めてのことだ。その代わり、トレードマークの鞭を大いに活用するのだが、21世紀になって映画界の撮影ルールは大きく変わっていた。安全を考慮して、パラマウントは鞭をCGで表現しようとしたが、フォードはこれに反発。「馬鹿げている」と一刀両断して、現物を使って撮影した。全シリーズで自らスタントをこなしたフォードは、64歳だった撮影時も吹き替えなしでアクションシーンを演じている。

ハリソン・フォードの鶴の一声で、シャイア・ラブーフも起用

Photo: Paramount/Everett Collection

インディの相棒となる青年、マット・ウィリアムズを演じるシャイア・ラブーフの起用も、フォードの推薦で決まった。『穴/HOLES』(2003)で主人公を演じたシャイアの演技を気に入ったのだそう。役名は、シリーズを手がける作曲家のジョン・ウィリアムズに敬意を表して付けられた。

初登場シーンのスタイルは、マーロン・ブランドが暴走族のリーダーを演じた『乱暴者』(1953)のオマージュだ。黒のライダースに白Tシャツ、デニムにスキッパーキャップという出立ちでハーレーダビッドソンに乗って現れる。インディにペルーでクリスタル・スカルが発見され、現地に向かった母親が助けを求めていると話すマットだが、やがて第1作のヒロイン、マリオンの息子であり、インディが父親であることが判明する。

Photo: Paramount/Everett Collection

ちなみに本作には、『インディ・ジョーンズ』シリーズを通じて夫婦となったスピルバーグとケイト・キャプショーの実子も登場する。ダイナーで話し込んでいた2人がKGBの工作員に連行されそうになった時、インディは陽動作戦として、マットに隣席の大学生を殴って騒ぎを起こすように促す。言われた通りに殴ったマットに「私の彼よ!」と怒りのパンチをくらわす若い女性を演じたのが、ミュージシャンや俳優として活躍するサーシャ・スピルバーグだ。

ケイト・ブランシェットの熱演

Photo: Paramount/Everett Collection

『クリスタル・スカルの王国』でインディの宿敵となるソ連のイリーナ・スパルコ大佐を演じたのは、ケイト・ブランシェット。インディの恋愛対象となるはずだったイリーナだが、ケイトは悪役に興味を示し、ソ連軍大佐にしてKGBエージェント、超能力を研究する科学者でもある女性を演じた。

『007 ロシアより愛をこめて』に登場するヴィラン、ローザ・クレップをモデルに、ウクライナ東部出身というイリーナのキャラクター形成にさまざまなアイデアを提供。黒髪のボブカットも彼女の発案だ。イリーナは剣の達人という設定なのでフェンシングを習い、さらに撮影中にスピルバーグが空手を特技に加えたことから、その訓練も行った。スピルバーグによれば、ブランシェットは「変装の達人」で、撮影現場でボブカットのウィッグを外した彼女を見かけたフォードが、イリーナ役の俳優が同一人物だと気づかなかったこともあったほどだという。

物議を醸したエイリアン

Photo: Paramount/Everett Collection

『クリスタル・スカルの王国』が過去3作と大きく異なるのは、唐突にエイリアンが登場することだ。これはジョージ・ルーカスのアイデアで、青春時代を送った1950年代のSF映画へのオマージュだという。実はスピルバーグもフォードも気に入らず、別案にするよう説得したが、最終的にルーカスの希望通りになった。だが、この展開は観客からも賛否両論が巻き起こり、大きな物議を醸した。

そして昨年、脚本を手がけたデヴィッド・コープがポッドキャスト「Script Apart」で『クリスタル・スカルの王国』にエイリアンのような生物を登場させる「アイデアには全く満足していませんでした」と発言。スピルバーグやルーカスを「説得し、変更させようとしました。私には別の案がありました。しかし、彼らはそれを変えようとはしませんでした」。彼は自らの案が優れていたとは言わないと断りながらも、「あの映画が受けた反発の多くは、より大きな意味で『インディ・ジョーンズの映画にエイリアンを登場させるべきではない』というものです。今にして思えば、その通りかもしれませんね」と語った。

『スター・ウォーズ』ファン必見のイースターエッグやオマージュ

Photo: Paramount/Everett Collection

ルーカスの手がけた『スター・ウォーズ』シリーズや過去作にまつわるイースターエッグやオマージュは、『インディ・ジョーンズ』シリーズ恒例だ。『最後の聖戦』でウォルター・ドノヴァンが初めて登場するのは、ドノヴァン邸でインディに聖杯のありかを示す砂岩板を見せる場面。パーティーが開かれている広間から微かに聞こえるピアノは、『スター・ウォーズ』で「ダースベイダーのテーマ」として知られる「帝国のマーチ」を演奏している。

また、『クリスタル・スカルの王国』の冒頭で、イリーナ率いる偽アメリカ軍によって、ネバダ州の米軍施設「エリア51」に連行されたインディが脱出を図る際、運転しているジープが大きな木箱にぶつかる。破損された中身が一瞬見えるが、それは第1作に登場した聖櫃だ。聖櫃はエリア51内にある政府の機密物保管庫に収蔵された。「クリスタル・スケルトンの間」の壁面にはC-3PO、R2-D2、E.T.が彫られているが、非常に細かく、一瞬のことなので見つけ出すのは至難の業だ。

本作の終盤でインディが「嫌な予感がする(I’ve got a bad feeling about this)」と言うが、これは『スター・ウォーズ』シリーズでフォードが演じたハン・ソロのお馴染みのセリフ。ちなみに図書館のシーンで「真の考古学者は図書館に用はない!」というインディのセリフは、『最後の聖戦』の「考古学者の研究の場は、7割は図書館だ」という自らの説と正反対になっている。

Text: Yuki Tominaga