どのタイミングで美的感覚がこうなってきたのか?
アメリカで“キャットウーマン”と呼ばれるジョセリン・ウィルデンシュタインをご存知だろうか。アメリカのメディアなどで美容整形のやりすぎの例で必ず名前が上がる彼女は、スイス出身のソーシャライツ。1990年代に画商の億万長者、アレック・ウィルデンシュタインとの離婚で25億ドルを受け取ったことが、ジョセリンを一躍有名にした。現在82歳の彼女は娘のダイアンのバースデーに、赤ちゃんのダイアンを抱いた若い頃の自分の写真をインスタグラムでシェア(下の写真)。「誕生日おめでとう、私の美しい娘、ダイアン」。美容整形を受ける前のジョセリンの顔は、今とはだいぶ違っている。元々美しかった彼女は、なぜここまで変貌を遂げることになったのだろう。
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当時の離婚裁判中には、夫アレックが「老人と一緒にいるのを嫌がったから」施術を受け続けたと主張していたけれど、アレックはそれを否定している。1998年の米『Vanity Fair』誌のインタビューでアレックは「彼女は気が狂っていた。私はいつも彼女が顔に何かした後から気づいた。彼女は顔を家具のように直せると思っていたんだ。しかし肌はそんな風にはできていない」と語った。最終的に、アレックは妻の顔が別人になってしまったことをふたりの結婚生活が終わった原因にしようとした。実際には若い女性と浮気していたにも関わらず、だ。
ジョセリンの今の顔はリフト手術とフィラーの入れすぎで目が吊り上がり、それが“キャットウーマン”と呼ばれている謂れ。まるで猫の目のようだからだ。彼女自身も猫と比較されるのを好み、アニマル柄の服を着てオオヤマネコをペットに飼っていた。世間の噂では、猫好きで知られるアレックが、彼女をより女性的なルックスに近づけるために手術を勧めたとも言われている。しかし、アメリカではリッチな男性たちがトロフィーワイフを求め、結婚後に妻たちは捨てられないようにアンチエイジングの美容整形に励む、というのは昔からよく耳にすることでもある。何だか切なくて嫌な話。
整形を繰り返すと、皆、同じ顔になる恐怖
元々美しい女性が、夫に愛されたくてここまで自分の顔を変える焦燥感に駆られていたのならば、それは悲しいこと。そして不思議なのが、彼女のように白人の女性でなくても、性別・国籍を問わず、アンチエイジングの美容整形を繰り返して行く人の最終形態は、大体ジョセリンと同じような顔になるってこと。例を挙げるなら、ミッキー・ロークやがわかりやすいかもしれない。シワや弛みがひとつも許せなくてすべてのエイジング・サインを消して行った結果、辿り着くのはパンパンに膨らんで突っ張った、“キャットウーマン”フェイスっていうことか。
少し前までの私は、美しかったセレブたちが大金を払ってわざわざ不自然な容貌になって行く理由が理解できなかった。もし自分が整形するのなら、あまりバレないよう、自然に仕上げたいと思うから。だけど50代になって自分のエイジングが気になり出したときに、ようやくわかったのだ。
若いときのパーツの形を変えるような手術と、アンチエイジングの手術には違いがある。それは、一個どこかに手を加えたら、他も弄らないとバランスがおかしくなるということだ。考えてみて欲しい。もし目の下の目袋と呼ばれるクマを取ったら、今度は加齢で伸びて来た中顔面が余計に長く見えるはずだ。そこで今度は口角にボトックスを打ったり、上唇にヒアルロン酸を入れたり。はじめは「このクマさえなかったら元気に見えるのにな」と思っていたとしても、気になり始めたらもう止まらない。ーそうやって気になる加齢のサインを直して行くうちに、人はきっと、本来の自分らしい外見から遠ざかって行き、気づいたらキャットウーマン化して行くのではないだろうか。いやそれとももしかしたら、皮膚が老化する前から少しずつ手を打っておけば、そんな風にはならないの?
でもそれはどうだろう。若いうちから容姿のキープにお金と時間と最高の美容医療技術とドクターに投資して来たであろうハリウッドスターでさえ、キャットウーマンになるのだ。そうならないためには、自分の顔を冷静に客観視できる目と、不自然になるような施術には「NO」と言ってくれる、腕のいいドクターが必要な気がする(恐らくセレブたちはお金に物を言わせて、通常よりも入れすぎたりやりすぎたりするから、よりエクストリームな変化を遂げるのだと思う)。
現在のジョセリンだが、2021年に自身がどうやってお金を儲けたかというドキュメンタリーを制作すると報じられたまま、まだ日の目を見ていない。プライベートでは57歳のファッションデザイナー、ロイド・クラインと2003年から交際中。2016年にはロイドに金銭を要求されたことに激怒し、彼の顔を引っ掻いてハサミで襲いかかり、反撃されている。その事件でふたりとも逮捕されたが、ヨリを戻してその後婚約。先日にはマイアミのプールサイドで、仲良くイチャついている姿を撮られている。80代で未だそんな激しい恋愛をしているなんて、体力がすごい。「疲れたから別れたい」とはならないのだろうか。
どこまでも波瀾万丈な人生を歩むジョセリン。彼女は美容施術にだけじゃなく、生き方自体が貪欲でアグレッシブなのであった。
Text: Moyuru Sakai Editor: Toru Mitani