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アンダーカバー高橋盾をつくる音楽とは? VOGUEのためのプレイリストも公開

コアな音楽好きで知られるアンダーカバー(UNDERCOVER)のデザイナー高橋盾。自身の服づくりに影響を与えているという彼のプレイリストは、クラシックからエレクトロ、パイオニアから新鋭まで多彩なサウンドが並ぶ。88種類に及ぶプレイリスト『Kosmik Musik』を紐解くとともに、ヴォーグのために作った新たな選曲も公開。

Photo: Getty Images

東京の朝、高橋盾は、都内の自宅から海沿いのアトリエまで車で通勤している。もう何年も同じルートを使っており、渋滞の時間を計算すると正確には1時間20分。毎日の移動中、心をときめかせているのは、厳選された曲を集めたプレイリストだ。

ファッションの仕事と同じ方向性だと思う」と高橋は話す。「さまざまなものの要素をミックスしたもの」だと。ひとつのプレイリストの中に、マイルス・デイヴィスの実験的ジャズレコード『オン・ザ・コーナー』、ジョニー・ロッテンのポストパンクプロジェクト『パブリック・イメージ・リミテッド』のナンバー、さらにはモードセレクターとポール・セント・ヒレアーのエレクトロとレゲエのディープカットが並ぶ。

別のプレイリストには、ビョークとフィリップ・グラス、ザ・スミスとビリー・アイリッシュロンドンの新鋭ジョックストラップとスリッツが。坂本龍一のイエロー・マジック・オーケストラの革新的なエレクトロポップからザ・モップスのサイケデリック・ロックまで、日本の音楽のパイオニアも多くピックアップしている。

高橋のセレクトは、ジャンルも年代もさまざまだ。共通しているのはひとつ、彼のクリエイティブに対する好奇心。オルタナティブミュージックの百科事典のように豊富な知識を積み上げた方法を「音楽ジャーナリストや信頼できるレコードバイヤーから情報を得ます」と明かす。「今でもよくレコードショップに通っています」

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音楽が高橋の日常生活の根幹を成すのは、実に不思議なことではない。彼の作品は、キャリアをスタートさせた当初から(いや、スタイルの世界に足を踏み入れるずっと以前から)、ファッションのトレンドと同様に、ミュージシャンからも影響を受けてきた。『NEVER MIND THE BOLLOCKS(邦題:勝手にしやがれ!)』のレコードジャケットに興味を持ち、中学時代に友人から借りて聴いたセックス・ピストルズに出会い、やがてセックス・ピストルズのトリビュート・バンドを結成するまでに至った(1980年代の東京の居酒屋で、ジョニー・ロットンのようなオレンジ色の髪で「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」を歌う高橋の映像が、YouTubeにアップされているほどだ)。

1990年にアンダーカバーUNDERCOVER)を、93年にはノーウェア(NOWHERE)をNIGOとともに立ち上げたとき、高橋がファッション・コミュニティを構築し始めたことは、今でも店舗と事務所を構える原宿のアンダーグラウンドシーンの一部だ。「音楽が持つパワーが、自分の服作りを後押ししてくれます。音楽のように不思議な力で人の心を動かす服を作りたいんです」

テレビジョンの大作『Marquee Moon』とその続編『Adventure』のバロック・パンクにオマージュを捧げた2015年春のメンズコレクションに始まり、レッドカーペットのルックからランウェイのサウンドトラック、またトム・ヨークとの様々なコラボレーションに至るまで、高橋にインスピレーションを与える音楽の精神は、彼のコレクションの数々に反映されている。

それでも、高橋がSpotifyのプレイリストをひっそりと公開し始めるまでは、彼を虜にする音楽を包括的に理解することはできなかった。「最初は自分のためにプレイリストを始めたのですが、自分の音楽の趣味を知ってほしくて公開するようになりました」

カラヴァッジョやフランシス・ベーコンなどの絵画から引用したアートワークが特徴的な『Kosmik Musik』というタイトルのプレイリストは、高橋のデザイン同様、細かいところまでこだわって作られている。現在、88種類あるという『Kosmik Musik』には、すべてテーマがあり「プレイリストの1曲目は、そのプレイリストの序章のようなもの」だという。「たとえば、ダークなロックの後に、明るいオールディーズや美しいメロディーのジャズを入れることもあります」。高橋は、このプラットフォームを使って、海外のファンにお気に入りの日本のアーティストを紹介することも大切にしている。「世界中の人が『Kosmik Musik』を聴いてくれているので、この機会を利用して、まだ知られていない日本の素晴らしい曲を紹介したいのです」

今回、ヴォーグのために、高橋は『Kosmik Musik』シリーズの93作目となる新しいプレイリストを作成してくれた。バッハのソナタから始まり、アンダーグラウンドのゴールデン・バグによるサイケデリックなエレクトロニカ、ルー・リードの 「Coney Island Baby」からエラ・フィッツジェラルド、そして 「Love Will Tear Us Apart」の日本語カバーまで、あらゆるジャンルを網羅している。「このプレイリストの雰囲気は『喜怒哀楽』。日本語の四字熟語で大まかに『人間の感情の幅』という意味です」と説明してくれた。

以下のプレイリストを聴いて「喜怒哀楽」を体験してみてほしい。高橋のリクエストを伝えると、「クラブでDJをするときと同じように、1時間20分の世界でも流れで選曲しているので、シャッフルせずに順番に聴いてほしいです」とのことだ。

『VOGUE』のための高橋盾のプレイリスト:Spotifyで聴く

『VOGUE』のための高橋盾のプレイリスト:Apple Musicで聴く