LIFESTYLE / CULTURE & LIFE

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024」のテーマは「SOURCE」。13組のアーティストの作品を展示

今年で12回目を迎える写真祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024」が4月13日(土)〜5月12日(日)にかけて京都の各所で開催される。2024年は「SOURCE(源)」をテーマに、生命や世界の源を探求する。本展に参加する10カ国から集まった13組のアーティストの展示の見どころを紹介しよう。

バードヘッド(鳥頭)「Welcome to Birdhead World Again, Kyoto 2024」Presented by CHANEL NEXUS HALL

Bigger photo-5 © BIRDHEAD Studio

バードヘッド(Birdhead)は、中国上海出身の宋涛(ソン・タオ/1979年生)と季炜煜(ジ・ウェイユィ/1980年生)によるアートユニット。2004年に活動を開始した彼らは、上海の街が再開発されていく様を記録した壮大な写真クロニクルで評価された。本展の会場は、およそ280年続く老舗帯問屋・誉田屋源兵衛。展示はその歴史的建造物を活かした二部構成となっている。明治・大正期に建てられた竹院の間では、バードヘッドの代表作となっている「Matrix」シリーズの新作を、京都東京で撮影された124点のイメージで構成。さらにシルクスクリーンで木材に写真画像を印刷する「Bigger Photo」シリーズの近作5点が出品されている。また、古い蔵を改装した黒蔵も使い、インスタレーション作品を展示している。

展示場所
誉田屋源兵衛 竹院の間、黒蔵
京都市中京区室町通三条下ル 西側

ジェームス・モリソン「子どもたちの眠る場所」 Supported by Fujifilm

Joshi, Rajkot, India, from the series Where Children Sleep ©︎ James Mollison

ジェームス・モリソンはイタリアのヴェネチアを拠点に活躍するアーテイスト。1973年ケニアに生まれ、イギリスで育ち、大学で映画と写真を学んだ後、気鋭アーティストをサポートするベネトンのクリエイティブ・ラボ、ファブリカで働いた。社会的・文化的テーマに独自のコンセプトを適用した作品を発表してきた彼が、今回、小学校だった建物を活用した京都芸術センターを会場に発表する《Where Children Sleep》は、子どもたちの肖像と寝室を写す現在進行中のシリーズ。インド、ケニア、カナダ等々、各国で撮影された本作が示すのは、世界の子どもたちが置かれている複雑かつ多様な状況であり、観る者にさまざまな考察の視点を与えてくれる。

展示場所
京都芸術センター
京都市中京区山伏山町546-2

クラウディア・アンドゥハル「ヤノマミ ダビ・コベナワとヤノマミ族のアーティスト」

Claudia Andujar, Susi Korihana thëri, Catrimani, 1972–1974. Instituto Moreira Salles Collection

ヤノマミは、奥アマゾンに居住する先住民族。1万年以上、独自の文化・風習を守り続けてきたとされるが、理不尽な環境破壊や殺戮等、深刻な人道的被害を被ってきた。彼らの権利と主権を守るため、およそ50年間にわたって活動をともにし、撮影してきたのがクラウディア・アンドゥハルだ。1931年スイスに生まれ、ホロコーストから逃れてブラジルへと移住した後、写真家になったという。本展ではアンドゥハルの作品およびヤノマミのシャーマンであり彼らの代弁者であるダビ・コペナワの言葉、ヤノマミ族のアーティストたちによるドローイングや映像作品を展示。彼らの共同作業の物語を語るとともに、ヤノマミ族の世界観や政治が紹介されている。

展示場所
京都文化博物館 別館
京都市中京区三条高倉

ルシアン・クレルグ「ジプシー・テンポ」 Supported by Cheerio

Lucien Clergue, Draga in Polka Dot Dress, Saintes Maries de la Mer© Atelier Lucien Clergue

2008年にフランスの芸術文化勲章コマンドゥールの称号を授与されルシアン・クレルグ(1934–2014)が、写真分野に残した功績は絶大であったと言えるだろう。写真家として画家パブロ・ピカソに高く評価され、故郷で1969年に立ち上げたアルル国際写真フェスティバルは世界でもっとも影響力のある写真祭の一つに成長した。そして、忘れてはならないのがロマ族のギタリスト、マニタス・デ・プラタ(ジプシー・キングスのメンバーの父であり、叔父)との出会い。彼を見出し興行主となったクレルグは、ロマ族コミュニティと親密な関係を築き、長年にわたって写真に撮影したからだ。本展で紹介される写真群からは、音楽に生きる彼らの情熱と躍動が伝わってくるようだ。

展示場所
嶋臺(しまだい)ギャラリー
京都市中京区御池通東洞院西北角

ヴィヴィアン・サッセン「PHOSPHOR|発光体:アート&ファッション 1990–2023」Presented by DIOR
In collaboration with the MEP - Maison Européenne de la Photographie, Paris

Viviane Sassen, Eudocimus Ruber, from the series Of Mud and Lotus, 2017 © Viviane Sassen and Stevenson (Johannesburg / Cape Town / Amsterdam)

ヴィヴィアン・サッセンは、1972年オランダ・アムステルダム生まれ。ファッションデザインを学んだ後、ユトレヒト芸術大学とアトリエ・アーネムで写真を習得し、ファッションとファインアートの両分野で活躍してきた。その30年におよぶキャリアを紹介する大規模な回顧展が、2023年10月からパリで開催されて大きな話題となったが、本展はこの展覧会を開催したヨーロッパ写真美術館(MEP)とのコラボレーション企画として実現したものだ。鮮やかな色彩、光と影のコントラスト、ユニークな人体描写など、サッセン独自の作品世界が、京都新聞ビル地下1階にある印刷工場跡という他に類をみない無機質かつ広大なスペースに展開されている。

展示場所
京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
京都市中京区烏丸通夷川上ル少将井町239

ティエリー・アルドゥアン「種子は語る」Presented by Van Cleef & Arpels In collaboration with Atelier EXB

Thierry Ardouin, FABACEAE — Medicago arborea L. | Moon trefoil From Seed Stories (Atelier EXB) © Thierry Ardouin / Tendance Floue / MNHN

ティエリー・アルドゥアンは、人間とその環境とのつながりをテーマに活動するフランスの写真家。彼が種子に興味を惹かれるようになったのは、農業に関するドキュメンタリーを制作したときだったという。そして、顕微鏡のような拡大鏡に直接カメラを取り付けた機材を使用して、小さな種子の撮影に成功したとき、驚くべき世界を発見したのだ。本展で紹介される《Seed Stories》のシリーズで登場する種子のほとんどは、フランスの国立自然史博物館(パリ)の所蔵品であり、1万年以上前の農業出現時のものから、今日のハイブリッド種子までを含む。その神秘的な姿を写した種子のポートレート群は、私たちの世界認識を揺さぶるのに十分な力を秘めていると言えるだろう。

展示場所
二条城 二の丸御殿 台所・御清所
京都市中京区二条城町541

柏田テツヲ「空(くう)をたぐる」Ruinart Japan Award 2023 Winner Presented by Ruinart

©︎Tetsuo Kashiwada

柏田テツヲは1988年生まれ。旅をしながら自然や人に出会い、そこで感じた疑問や違和感に目を向けながら、自然と人間の関係性、共存と分断そして環境問題をテーマに作品を制作する写真家だ。KYOTOGRAPHIEインターナショナルポートフォリオレビューの参加者より受賞者が選ばれる「Ruinart Japan Award 2023」を受賞し、2023年の秋にフランスを訪れて、ルイナールのアート・レジデンシー・プログラムに参加した。この1729年創業の世界最古のシャンパーニュ・メゾンが所有する葡萄畑や森と向き合い撮影・制作された作品群が、京都最古の禅寺・建仁寺の中にある両足院を会場にインスタレーション展示されている。

展示場所
両足院
京都市東山区小松町591

ヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ)「カサブランカは映画じゃない」 Supported by agnès b.

©︎ Yoriyas (Yassine Alaoui Ismaili)

モロッコを拠点にするヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ)は、振付師としても活躍する異色の写真家。プロのブレイクダンサーとして注目を集めた後、2015年より写真活動を開始し、アフリカ写真賞(2018年)やマルケ・マラケシュのコンテンポラリー・ダンス・フェスティバルのタクリフ賞(2023年)など、数多くの賞を受賞してきた。写真作品では人が都市や公共空間に馴染み暮らしていく様に焦点を当て、モロッコの、特に彼自身が住むカサブランカやアフリカの日常生活を撮影、さまざまな社会的変化について提示してきた。色彩への鋭い感性とともに作品に表れている空間や一瞬の動きに対する把握力は、まさにヨリヤス独自のものと言えるだろう。

展示場所
ASPHODEL
京都市東山区八坂新地末吉町99-10

ヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ)「KIF KIF KYOTO KYOTOGRAPHIE African Residency Program」

KYOTOGRAPHIEは、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space(2020年)オープンを機に、アフリカの若手現代アーティストを迎えるアーティスト・イン・レジデンスを開始し、京都のローカルな商店街と多様性のあるアフリカをダイレクトにつなげた新作制作をサポートしてきた。2023年に招聘されたのは、KYOTOGRAPHIE 2024でASPHODELを会場に「カサブランカは映画じゃない」展を開催しているモロッコの作家、ヨリヤス。京都・鴨川周辺の人々や風景、ストリートの若者、出町桝形商店街の人々を撮影・制作した作品を、もう一つのメイン・プログラムとして発表している。

展示場所
出町桝形商店街 ― DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space
京都市上京区三栄町62

イランの市民と写真家たち「あなたは死なない──もうひとつのイラン蜂起の物語──」In collaboration with Le Monde

東クルディスタンのマフサ・アミニの故郷であるサッケズで、マフサ・アミニの死後40日を追悼するため、何千人もの人々がアイチ墓地へ向かう中、ヒジャブをかぶらない若い女性が車の上に立っている。イスラム教の伝統では、この日を魂があの世に行く日、喪が明ける日として祝う。2022年10月26日、東クルディスタン、サッケズ。匿名の撮影者。

展示されている写真と映像は、フランスのル・モンド紙が2022年におこったイランでの民衆蜂起を報道するために集められた。蜂起のきっかけは、シンプルな黒のコートに黒のヒジャブを着用していた22歳の女性マフサ(・ジーナ)・アミニが、服装が不適切であると道徳警察に逮捕され、命を落としたことだった。若者を中心に展開された運動のスローガンは「女性、生命、自由!」。その目的は、当局の命令に背き「生きることを取り戻す」ことだ。よって撮影者のほとんどは、匿名を希望するイラン市民であるという。真実を捉えた写真や映像を提示することが、そのまま抗議となり、マニフェストとなる。同時代に生きる者として、知るべき現実であると言えるだろう。

展示場所
Sfera
京都市東山区弁財天町17 スフェラ・ビル 2F

ジャイシング・ナゲシュワラン「I Feel Like a Fish」KG+SELECT Award 2023 Winner

My nephew’s hands in mine © Jaisingh Nageswaran

ジャイシング・ナゲシュワランは、インドのタミル・ナードゥ州ヴァディパッティ村出身。労働者階級に生まれ、失読症というハンディを持ちながら、独学で写真を学んだ。映画界でスチール写真家として活躍しながら、個人プロジェクトとしてジェンダーやカースト差別、農村の問題に取り組み、作品を発表してきた。トランジェンダーを扱ったシリーズ《The Lodge》でKG+ SELECT 2023のグランプリを受賞した彼が、本年度のメインプログラムで発表する《I Feel Like a Fish》は、幼少期の記憶や4世代にわたる家族の歴史を記録しながら、ダリット(ヒンズー教のカースト制度の最下層民)のレジスタンス(抵抗)とレジリエンス(回復)に焦点を当てた作品だ。

展示場所
TIME'S
京都市中京区三条通河原町東入中島町92番

川田喜久治「見えない地図」 Supported by SIGMA

Kikuji Kawada, From the series Shadow in the Shadow 影の中の陰 © Kikuji Kawada, Courtesy PGI

1965年に刊行された『地図』は、写真家・川田喜久治のデビュー作にして、日本写真史に刻まれた写真集の金字塔だ。原爆ドームに残されたシミや特攻隊員の肖像、戦後に持ち込まれたコカコーラの瓶等々を、敗戦や復興のメタファーとして写し取った一冊だった。そして、自身の作品を「時代の中の特徴的なシーンと自分との関係をとらえて表現し、その時の可能な形でまとめ上げ、その積み重ねから一つのスタイルが生まれてくる」と語る川田は、あくなき創作意欲で制作を続け、近年はインスタグラムに作品をアップし続けている。「見えない地図」という示唆的なタイトルのもとで出品される作品群に、鑑賞者は何を見出すことができるのか? 挑む気持ちで向かいたい展覧会だと言えるだろう。

展示場所
京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
京都市左京区岡崎円勝寺町 124

From Our Windows 川内倫子「Cui Cui + as it is」潮田登久子「冷蔵庫+マイハズバンド」 Supported by KERING’S WOMEN IN MOTION

Untitled, from the series "as it is", 2020 ©︎ Rinko Kawauchi

Tokuko Ushioda From the series My Husband ©Tokuko Ushioda, Courtesy PGI

「From Our Windows」は、芸術や文化の分野で活躍する女性の才能に光を当てることを目的とするケリングの「ウーマン・イン・モーション」がサポートする、川内倫子と潮田登久子の二人による対話的な展覧会。川内は祖父母や兄夫婦の甥など、家族を被写体にした「Cui Cui」と、自身の出産から子育てのなかで子どもの姿や風景を撮った「as it is」、潮田は冷蔵庫を定点観測することで生活を記録に留めた「冷蔵庫/ICE BOX」、生まれたばかりの娘・まほと夫の島尾伸三と過ごした約40年前の日々を記録した「マイハズバンド」と、それぞれが2シリーズから作品を出品する。いずれも家族や子どもなどを被写体としている点が共通するものの、世代の異なる二人の作家それぞれの視点やアプローチを感じることができる。

展示場所
京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
京都市左京区岡崎円勝寺町 124

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024
会期/2023年4月13日(土)〜5月12日(日)
会場/京都市内各所
https://www.kyotographie.jp/

Text: Akiko Tomita Editor: Sakura Karugane