トップパフォーマーのツアーともなれば、何着ものカスタムメイドのステージ衣装が必要になる。今年だけでもサブリナ・カーペンター、チャペル・ローン、ケイシー・マスグレイヴス、テイラー・スウィフト、ドーチなどのヘッドライナー級アーティストたちが、何万人をも収容するアリーナのステージでも映える、煌びやかなルックを披露している。その多くを手がけているのが、ロサンゼルスに拠点を置く1人の新進気鋭のデザイナーのレイシー・ダリモンテだ。
ダリモンテは現在、チャペル・ローン、マドンナ、コナン・グレイ、クリスティーナ・アギレラ、ビリー・アイリッシュをはじめ、数え切れないほどのセレブにルックを提供している。だが驚くべきはクライアントの顔ぶれではなく、膨大の数の衣装をすべて、自身のスタジオで1人で制作しているところだ。「今でもほとんど1人で制作していて、コンセプトからスケッチ、パターンメイキングから最終的な仕上げまで、すべてを自分でやっています。それも縫製は手作業で」とダリモンテは『VOGUE』に語る。
マドンナにはウエスタン風コルセットを、コナン・グレイにはティアドロップ型のアクリルで飾られたメッシュトップを作り上げたダリモンテは、どんなに突飛なビジョンでも形にすることができ、それがセレブたちを惹きつけてやまない。彼女の美学を体現する最たる例が、今年5月にローンのために制作した、ヘアローラーやリップ、タバコなどを装飾としてあしらったフェイクファーのローブだ。「同じアメリカ中西部出身の女性として、チャペルのために衣装をデザインできることにとてもワクワクしましたし、ドラァグテイストのものを創作することに挑戦できたのも、とても面白かったです」とダリモンテは言う。「先月は、ACLフェスティバルでのヘッドライナー公演のために、チャペルに新しいレザーの衣装をデザインしました。たった数カ月だけで記録的な観客数を誇るまでになった彼女の成長ぶりを見ると、とても刺激を受けます」
ダリモンテはダリモンテで、ファッション界の期待の星であると言えるだろう。唯一無二のルックを求めるパフォーマーからの指名がさらに増えている彼女に、インスピレーションや制作プロセス、そしてこれからについて聞いた。
──いつ頃から衣装のデザインをするようになったのですか?
最初の頃は「ファッションのためのファッション」というアプローチで、よりコンセプチュアルなものをデザインしていました。ランウェイに登場するようなアバンギャルドなピースがものすごく好きで、とても惹かれるのです。でも、自分とブランドの知名度が高まるにつれて、セレブたちからただステージで着られるものではなく、激しい動きにも耐えられるようなカスタムメイドのルックを数日納品で依頼されることが多くなって。こういったプロジェクトを受けたおかげで、機能性を担保し、変更には迅速に対応し、毎晩着倒されても大丈夫な美しい服を作るといった難題を乗り越えるための適応力と工夫する力が身につきました。
ずっと多分野にまたがるデザイナーでありたいと思っていたので、自分の創作の幅を広げてくれるプロジェクトに、個人ではなく制作チームの一員として参加したこともあります。昔から変わらない部分もありますが、それぞれの経験から自分について新たな気づきを得ることができて、デザイナーとしての今の自分を形成してくれました。
──TikTokではかなりの数のフォロワーがいますが、いつ頃から制作過程を投稿するようになったのですか?
初めてTikTokに投稿したのは2021年の1月です。正直、アカウントを作ること自体をためらっていたんですけれど、今ではお気に入りのプラットフォームです。ほかのプラットフォームでは完璧な状態でないと自分の作品をあまりシェアしたくないんですけれど、TikTokでは少し肩の力を抜いて投稿できています。まじめな投稿ばかりをする必要はないし、TikTokがもたらしてくれるクリエイティビティがすごく好きです。おかげでほかのマイナーな独立系アーティストとつながったり、サポートしながら、全く新しいオーディエンスにリーチすることができました。
──自分のファッションがこれほどまでに人びとの心に刺さると思っていましたか?
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4歳の頃の私が、「私が主役よ!」と言いながら、弟からピントが外れるように彼を軽く突いているところを撮ったホームビデオがあるんです。私の性格を物語っていますよね。幼い頃からいつも大きな夢を抱いていて、達成するために一生懸命やれることをやっています。人に認めてもらうためだけに何かをすることはないですが、自分の作品を評価してくれるオーディエンスを見つけられたことはラッキーだと感じていますし、自分を応援してくれる人とつながりを持てているのは、とてもうれしいです。
私は自分のクラフツマンシップに誇りを持っていて、作品すべてにどれだけのディテールと思いが込められているのかを見せるために、制作過程をシェアするのが好きなのです。自分の作品が評価され、適当な人たちに届くことは、私にとって本当に大きな意味を持ちます。徹夜明けで疲れているときや、ファッションの華やかでない側面を目の当たりにして燃え尽きそうになったときにも、頑張る糧になりました。小さな自宅スタジオで制作したものが、何千人、ときには何百万人という人の心に届くのを見るのは、不思議な夢を見ているようです。
──インスピレーションはいつもどこから得ていますか?
言葉にできるものよりも、感覚的なものからインスパイアされることがあります。またあるときは、アンティークショップで変わったものを見つけて単純にアイデアがひらめいたりします。インスピレーションにしているのはフェティッシュ、時代物のコルセット、革新的なテクノロジー、クチュールの職人技、歴史的な衣服などです。
──これまで多くのアーティストのルックを手がけてきたましたが、きっかけは何ですか?
これほどアイコニックなアーティストたちと仕事ができるなんて、いまだに信じられませんし、目に留めていただけているだけでも恐れ多いです!どのプロジェクトも、いろいろな巡り合わせがあって実現したものです。いちかばちかに賭けて、行動を起こす努力をすれば、結果的に素晴らしいチャンスが訪れる状況が整うのです。私はキャリアを通じて、有意義な人間関係をコツコツと築いてきましたし、自分の名前を世に広めるにはどうすればいいか、絶え間なく模索してきました。自分のブランドの評価を落とすような適当な仕事は、ただの一度もしたことはありません。
ソーシャルメディアの存在もかなり大きいですね。一緒に仕事をしたい人たちとつながったり、逆に知ってもらえたきっかけとなっているので。ほとんどの場合、アーティストのスタイリストと連携して制作するのですが、インスタグラムやメールから仕事を依頼されることが多いです。たまに、過去にプロジェクトで一緒になった同業者を通して仕事をもらうことがあります。実際のところ、ファッション業界を渡っていく方法はひとつではないですし、私もまだ手探り状態です。混沌とした、人と人とが密接につながっている業界で、想像以上に狭い業界だと感じる人もいると思います。
──チャペル・ローンのために制作したローブコートについてお聞かせください。インスピーションはどこから得たのですか?
チャペルのスタイリスト、ジェネシス・ウェブの依頼でボストン・コーリング・ミュージック・フェスティバル用のオープニング・ルックをデザインしたんです。チャペルのショーはまるで舞台のようにとてもドラマ性があり、ファンにもテーマに沿ったドレスコードが指定されて、それがすごくいいなと思います。
このローブのテーマは「My Kind Is Karma」という妖艶で、黒と赤を基調したものでした。ヴィンテージのバーレスクやショーガールの世界観からインスピレーションを受けて、構想を練り始めてすぐに、このドラマティックでキャンプなデザインが浮かんだんです。ルックを格上げするために、襟、袖口、裾に黒いダチョウの羽根、フェイクファー、馬の毛、本物のヘアエクステンションを付けて、全体のシルエットを派手に仕上げています。エクステの見せ方にもこだわって、ここはヘアスプレーとヘアジェルを使って、形や角度を整えました。
私自身、ずっと本格的にダンスをやっていて、化粧台の前で身支度をする時間が大好きでした。その思い出がきっかけで、ステージで毎分毎秒輝いていられるように、パフォーマーが化粧品やアクセサリーなどを常に手もとに置いておけたらいいのにと思い始めたんです。そして生まれたのが、さがしっこ絵本『ミッケ!』に出てくるジオラマのように、さまざまな小物でローブの襟を装飾するアイデアでした。結晶化させたマッチ、タバコ、ヘアカーラー、リップ、ティアラ、鍵、ヴィンテージのブローチにパールやチェーン。チャペル自身の写真、そしてもちろん、彼女がリスペクトする伝説のドラァグクイーン、ディヴァインの写真が入ったハート型のロケットペンダントなど。チャペルの楽屋にある、ありとらゆるもので襟を飾りました。
ローブそのものに使っているメタリックな赤と黒のブロケード生地は、ロサンゼルスのファッション・ディストリクトにある店の奥に埋もれていたヴィンテージのデッドストック生地で、運よく手に入ったものです。「こういうものが使いたい」と具体的にイメージしていても、実際に見つかるかどうかはわからないので、素材探しはまるで宝探しです。それも、構想から完成まで1週間ちょっとという期限付きの。
──これまでセレブのために手がけたルックの中で、お気に入りのものはありますか?
昨年請け負ったマドンナの「THE CELEBRATION TOUR」の衣装は、これまでのキャリアの中で最もやりがいのあった仕事だったので、お気に入りのルックとして真っ先に思い浮かびます。彼女がリハーサルをしているすぐそばで、あのウエスタン風のレザーコルセットを製作していたなんて信じられません! 久しぶりにデザイン過程を掘り下げて楽しむことができました。
また、経験豊富な才能ある人たちに囲まれて、現場でしか学べないようなコツなどを教えてもらえたのもとても刺激的でした。友人のサム・オソスキーの紹介で「レザー・スペシャリスト」としてマドンナのチームに加わることになったのですが、早々に与えられた役割以上の経験を積むことができました。間近で見たマドンナの芸術性と直向きな姿勢からは、この先もずっと刺激を受け続けますし、こんなにもアイコニックなチームの一員になれたことは夢のようです。
──今後はどのようなものを作っていきたいですか?
カスタムメイドのプロジェクトを何年もやってきたので、これからは自分のペースで制作をし、ブランドとしての地位を確立し、自分が思い描いている「レイシー・ダリモンテ」という一大帝国を築き上げていきたいと思っています。創作プロセスにどっぷりと浸かることで、どんな新しいピースを生み出せるか見てみたいですし、コレクション作りにも邁進していきたいです。一方で、これからもいろいろな人とつながり続け、どんな人でも歓迎するブランドを作っていきたいです。
一緒に仕事をしたいと思っている人はたくさんいますが、中でもレディー・ガガの新しいアルバムのルックをデザインしたいですね。ミシガン州の小さな町で、ファッション好きのはみ出し者として育った私にとって、彼女は昔からインスピレーションを与えてくれる存在でした。偶然にも、私が始めて受けた大きな仕事は、2020年に彼女から依頼された「クロマティカ」時代の衣装なのです。デザイナーとしての経験を積んだ今、原点回帰という意味でもまた彼女のために、ぜひ何か制作したいです。ほかにはミーガン・ジー・スタリオン、ロー・ローチ、ディタ・フォン・ティース、ブリトニー・スピアーズと一緒に仕事をしてみたいですね。いつでも気軽にお声がけください!
Text: Christian Allaire Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
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