【錦山窯】日常の試みの積み重ねで新しい伝統を創る
江戸時代に加賀藩の御用窯として発達し、明治時代には高度な製陶技術や造形の美しさによって、世界中から“ジャパンクタニ”と称された九谷焼。錦山窯は、その九谷焼の上絵付けを専業とする窯元だ。一度焼いた陶磁器の上に、顔料で絵模様を描いて再度焼く技法を上絵付けと呼び、これによって九谷五彩といわれる赤、黄、緑、紫、紺青の鮮やかな色彩による優美な絵模様が完成する。
錦山窯は、1906年の創業以来、およそ 110 年もの間、窯の火を絶やさずに作陶を続ける。金箔を用いた金襴手(きんらんで)の技術を極めた3代目の吉田美統は、人間国宝にも認定され、現在も4代目当主の吉田幸央、妻の吉田るみことともに窯を守る。日常のあらゆることからヒントを得て、足し積み重ねていくことこそが伝統だと、新しい試みを続け、時代に合った作品を生み出す。九谷焼が培ってきた色の美しさ、金の美しさを表現した作品は心躍るものばかりだ。工房の近くには錦山窯のあでやかな作品群を展示するギャラリーがあり、技の一端を見学・体験できるワークショップも定期的に開催している。
錦山窯
石川県小松市高堂町ト18
Tel./0761-22-5080
https://kinzangama.com/
【fresco】固定観念を打破して、ガラスアートの世界を広げる
ガラス作家、辻野剛は大阪市の生まれ。デザインの専門学校を卒業後、1986年にアメリカに渡り、シアトルにある全米屈指のガラス芸術専門学校ピルチャック・グラス・スクールを皮切りに、さまざまな学校や工房で吹きガラスを学び、2001年に地元大阪の和泉市にガラススタジオ「fresco」を構えた。アートとしてだけでなく、生活のなかで実際に使うことを意識した作品が多く、また無色透明をよしとするガラス食器が多いなか、あえて着色して、器としての存在感を示すことにもこだわっている。透明なガラスに、色のパレットを重ねて生み出すハンドメイドの作品は、それぞれに個性を持ち、どれひとつとして同じ表情がない。
年間200~300点にもなるガラスアートの制作を自ら続ける傍ら、個人ではなくfrescoというブランドを確立することによって、チームで完成させるクリエーションが持っている強さと合理性を追求している。併設のファクトリーショップもあり、週末限定の吹きガラス体験教室(要予約)を開催していて、初心者でも30分ほどでオリジナルの器を制作することができる。
fresco(フレスコ)
大阪府和泉市小野田町259
Tel./0725-90-2408
https://www.studio-fresco.com/
【Ren】金工の世界に魅せられて、手の”あと”の残る作品を創り続ける
京都・左京区、大文字山の麓にある浄土寺町で、かつて八百屋と家具屋の倉庫として使われていた町屋を自ら改装し、工房兼ギャラリーを構える金工作家の中根 嶺。陶芸家と染織家の両親のもとで育ち、幼少期からものづくりが身近だった。京都の美術工芸高校を卒業した後に上京し、伝統的なものづくりをコンセプトとする企業でアルバイトをしているときに、金属加工と出会う。簡単には加工できないない金属に苦労しつつも、しだいにその世界にめり込んでいき、5年ほど働いた後に独立を果たした。
主に銅や真鍮、銀、金などの金属を用いて、「鍛造」や「鎚起」、「絞り」など呼ばれる昔ながらの技法を使い、暮らしの道具、オブジェ、ブライダルリングなど多彩な作品を生み出していく。大きな機械は使用せず、ひとつひとつの手の動きを大切にしながら、美しさや面白さを感じる形や表情を求めていく。一打一打、一削り一削り時間をかけて創る作品は、優しい雰囲気を纏い、繊細で美しいものばかりだ。工房では、オープンスタジオや展示会を開催するほか、事前予約があれば個別の案内にも対応可能だ。
Ren - 中根 嶺
京都市左京区浄土寺下南田町36
https://ren-craftwork.com/
Text: Yuka Kumano Editor: Sakura Karugane