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42歳で心身の不調、49歳で閉経前後の不定愁訴。東洋医学で更年期、40代の不調を乗り越える【ヴォーグなお悩み外来】​​

42歳で心身の不調が起こりやすくなり、49歳で閉経前後の不定愁訴に……。東洋医学の原典​​とも言える黄帝内経には、女性の体の変化がこのように記されている。ホルモン変化により体調の乱れや心の不調が増えると言われる40代に、東洋医学はどのように頼りになるのか?AN鍼灸指圧マッサージ院長の東利枝先生に話を聞いた。ストレスを抱え込まないためのアドバイスも必読!

2000年前も、女性は42歳頃から不調に悩まされた

40代前半をプレ更年期と呼ぶなど、女性は40代に差し掛かると体調の乱れや心の不調が増えると言われている。将来の自分の健康に漠然と不安を感じている人もいるだろう。西洋医学では、アラフォーになると、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が減少してホルモンバランスが乱れ、身体的・精神的な不調が起こると説明される。東洋医学では、40代の体の変化をどのように捉えているのか?

「東洋医学の専門家がこうした質問にお答えするとき、基本とするのが2000年以上前に書かれた黄帝内経という書物です。そこに、女性のライフサークルは7の倍数が節目の年となるとあります」と、東利枝先生はアンサー。黄帝内経では、以下のように女性の体は変わっていくとされている。

7歳:永久歯に生え変わる
14歳:初潮を迎える
21歳:女性としての体ができあがる
28歳:女性としての体がもっとも成熟する
35歳:人生で初めて迎える体力低下期へ
42歳:心身の不調が起こりやすくなり、白髪やしわが目立ち始める
49歳:閉経前後の不定愁訴

「黄帝内経が書かれたころと比べると、現代は平均寿命は倍以上に延び、医療、衛生、食糧事情、地球環境などさまざまな変化がありました。それにも関わらず、身体変化は今でも当てはまるのには驚きます。そして俗に言うところの更年期の始まりは、昔も今も変わらず49歳ごろ。東洋医学では、社会的及び精神的な更年、すなわち、年月が変わり、何かが更(あら)たまると捉えます」

42歳で心身の不調が起こりやすくなり、49歳で更年期障害へ

42歳で心身の不調が起こりやすくなり、49歳で更年期障害へ。女性ホルモンの変化や精神症状のケアなど、40代になってからの体の変化で体調が辛いときに、東洋医学ではどのようにアプローチをするのか。

「鍼灸や国家資格になっている指圧、マッサージでの治療では、少なくとも30分は問診に費やすのが一般的です。これは、単なるカルテ記入の時間ではなく、治療中に患者さんとの対話、患者さんの匂い、声、視覚情報を通じて得られる情報などを重要視するためです。望診・聞診・問診・切診を合わせて『四診』とも言います」例えば、「いつもはしょっぱいものが好きなんだけど、最近やたらに甘いものがほしい」と話す患者がいたとする。そのようなとき、東洋医学では、消化・吸収・栄養を担う「脾」が弱っているサインだと捉えて治療をするのだそう。

「クリニックに到着するや泣いてしまう患者さんや、『ただ先生に話を聞いてほしい』とおっしゃる患者さんもいます。特に、仕事、家事、子育て、介護といった多忙を極める40代の女性は、話をじっくり聞いて寄り添う治療が必要だと感じます」42歳はいわば不調の序の口。49歳、そして56歳がクライシスです、と先生。アラフォーの女性としては、将来が不安になってしまうかもしれない。「自分の体調の変化は哀しくもありドッキリとしてしまうかもしれません。でも、それは同時に体が発する信号でもあるんです。『痛いというのはいいこと。痛いというサインがあるから治したくなるし、休みたくなる』と患者さんにもよくお話しています。NGなのは、痛み止めを飲んだりして痛みを忘れること。きちんと自分の体と向き合うことが大切です」先生は、“現代医学と東洋医学のいいとこどり”を目指しているとも話す。

「現代医学は病気を診て、東洋医学は人を診る。病気の原因を探る検査はきちんと受けて、そのうえで東洋医療でそれぞれに合った治療法のサポートや健康管理のアドバイス、セルフケア指導を行い、体のバランスを整えていく。こうすることで、患者さんの生活全般を考慮した総合的な治療が行えると考えます」

更年期障害やPMSを“血の道症”と呼ぶ

東洋医学では、更年期障害に特化した治療はあるのだろうか?「まず、東洋医学では、更年期障害という単語は使いません。女性の生理に伴ういろいろな辛い症状を血の道症といいます。そして、血の道症を予防・改善するためには、特に『血』を正常な状態に整えることがとても大切だと考えて治療します」東洋医学では、人間の生命活動は「気・血・水」の3つの要素で成り立つと考えられている。

気・・・人間の体を動かす根源となるエネルギー​​
血・・・体内にある赤い液体を指し、西洋医学でいう血液を含む栄養物質
水・・鼻水や尿、リンパ液など、体内にある血液以外の液体

「血」はホルモンバランスを調整をする役割もあり、更年期障害など血の道症の治療として、ここを整えるのだそう。また、「血」の流れは、エネルギーである「気」の作用によって支えられることから気の巡りも重要となると先生は続ける。​​「例えば、鍼灸で『血』と『気』の流れを良くして体全体のバランスを整えます。たとえ血圧を測って血の量に問題がなくても、それが体内できちんと流れていないとダメだと東洋医学では考えるのです」

また、漢方では、気の流れを良くして体調を整える「加味逍遙散」​​や、日本人に多い血虚タイプ​​の「血」を補う「​​当帰芍薬散​​」などが処方されることが多いそう。

辛い症状を受け止め、味わうくらいの気持ちで

ところで、ストレスが更年期障害を悪化させるとも言われている。東洋医学でも、ストレスは40代女性の不調の大敵?

「ストレスを感じると、血管はキュッと収縮してしまい体が冷えてしまいます。逆に、リラックスしていると血管はふわっと膨らんで体が温かくなり、子宮や卵巣まで血がきちんと巡って温まります。ストレスは大敵です!」AN鍼灸指圧マッサージには、明るく励ましてくれる先生を頼って駆け込む、ストレスに悩む女性も多い。3人の子供を育て、仕事と家庭を両立してきた先生は、アラフォーの女性たちの良き先輩でもある。忙しい日本の40代女性たちに、何かアドバイスやエールは?

「経験者として強く感じるのが、あらがうより、受け止め味わうくらいの思いで、この時期に上手に流される方が良いと言うこと。症状をやっつけるというより、上手に付き合うのです。苦手だった同期や先輩にゴマをすろうが酒の力を借りようが、今まで困難を乗り越えてきた自分の力を信じて何とかなるって思ってしまってください!」

きれいな部屋とお弁当。完璧な女性を目指していない?

どこかで“いいお母さん”って言われたくて、「きれいなお弁当を作らなくちゃ」「友人が来たときにきれいねって褒められる部屋にしなくちゃ」と頑張っていたこともあった、と先生は自身の40代を振り返る。でもそれでどんどんストレスが溜まってきて、ある時から上手く手抜きをしたらグッと毎日が楽になったそうだ。

「完璧を目指さずに、手を抜けるところはどんどん抜くのが大切です。私は父親を介護していたときは、病院で父親と一緒に子供も入浴させてしまったりしました。子育て期で目の前の子供との時間を優先したいなら、家なんて散らかっていて大丈夫と割り切って。そんなことで自分をイラつかせず、お米さえあればあとは総菜やふりかけで、散らかった部屋で笑いながら家族と過ごしてください。また、子供がいなければ、新しいスキルを学ぶことも素晴らしい選択です。現職と全く違う分野の勉強も楽しいですよ。私も自分の興味があることを追求したら、いつの間にか鍼灸師になっていました。海外駐在していた時には想像できなかったことです」

シンガポールになどに駐在したことがあり、海外経験も豊富な先生は、最後に日本の女性に伝えたいことがあると話す。「日本の女性は40代、50代以上になっても、海外の人から見ると驚くほど肌も髪の毛もツヤツヤ。みなさんすでに十分キレイなので自信をもってくださいね!」

話を聞いたのは……

東 利枝先生

AN鍼灸指圧マッサージ院長。大学卒業後、日本企業の海外駐在、外資企業勤務、通訳などを経て、東京医療専門学校 教員養成科卒業。鍼灸、あん摩、マッサージ、指圧師、国家資格を取得。日本良導絡自律神経学会 理事、国際部部長を務める。PMSや不妊治療、更年期障害など、女性のライフスタイルに寄り添った治療に定評がある。

Photos:Getty Images Text:Kyoko Takahashi Editor:Kyoko Muramatsu