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ミシェル・ヨーが纏う、初披露のバレンシアガ。「まるでクチュールの鎧に身を包んでいるかのよう」【2025年スプリング】

2023年よりバレンシアガ(BALENCIAGA)のブランドアンバサダーを務めているミシェル・ヨー。メゾン初の上海でのショーで、豪雨をものともせず、周囲を圧する存在感を見せつけた彼女のバックステージに迫る。
Photo: Mr. Fang

上海で開催されたバレンシアガBALENCIAGA)の2025年スプリングコレクションは土砂降りの雨に見舞われたが、ミシェル・ヨーは終始、目の輝きを絶やさなかった。ショーで発表された新作のシルバーのチェーンメイルドレスに身を包んで登場した彼女は、昨年11月、イザベル・ユペールキム・カーダシアンも務めるブランドのアンバサダーに任命された。就任を「美しい旅の始まり」と語っただけあり、この日もつい笑みがこぼれてしまう瞬間が多かったようだ。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023年)が各賞を独占した昨年のアワードシーズンを機に、一気にファッションアイコンとしての道を駆け上がったヨーは、バレンシアガについてこう言う。「同じ価値観を共有するクリエイティブ・コミュニティの一員として、協力し合い、手を取り合って何かを作り上げることができる。そしてもちろん、ルックも(大きな魅力のひとつであることを)忘れてはいけません」

Photo: Mr. Fang
Photo: Mr. Fang

燦然と輝くドレスは、ヨーがメットガラで着用したドラマティックなメタリックガウンに続く煌びやかものだったが、ハリウッド中の著名人が集まるレッドカーペットと違い、スプリングショーは完全にヨーの一人舞台だった。傘をさすスタッフを引き連れ、スターオーラ全開で颯爽と現れた姿は、彼女の言葉を借りるとまさに「クチュールの鎧に身を包み、スイッチが入った」状態。極限にまで艶を出したストレートヘアを揺らし、雨の一粒も寄せ付けない圧倒的な雰囲気を纏っていた。

「最先端と心地よさ、大胆さと力強さを兼ね備えたバレンシアガの服」

Photo: Mr. Fang

デムナは最先端を行く人ですけれど、いつも心地よい仕上がりにするので、バレンシアガを身に着けると自分が大胆で強くなった気がするのです」と語るヨーがメゾンに心底惚れ込んだ瞬間は、2022年にパリで行われたオートクチュールのショーだったと話す。

上海の浦東の高層ビルからインスパイアされた細長いシルエットや、古いビニール袋でできたドレスなど、バレンシアガの有名なアワーグラスシルエットを解体したようなデザインが特徴の2025年スプリングコレクションにはヨーのお眼鏡に叶うアイテムが勢揃いだ。浦東美術館でのショー後「正直のところ、周りの人が思っているほど、深く考えてルックを作っているわけじゃないんですよね」と、いつものどこかとらえどころのないデムナらしく、彼は「VOGUE RUNWAY」に語った。「ただ単にこういうシルエットが好きで、こういう格好がしたくて、女性にこういう服を着て欲しいだけで。知性化している部分など全くないんです」

Photo: Mr. Fang
Photo: Mr. Fang

デムナのこの静かな自信が、同じく「穏やかさと静寂」を愛するヨーを引き寄せたのだ。フォロワー数を増やすなど、単なる話題性のためではなく、真の思いやりに基づく2人の友情は彼女が言うように穏やかなもので、「自分たちの空想の世界に迷い込み、美しいものを創造し、想像することができる」と言う。実際、悪天候を心配していたデムナは、後にこの雨が「バレンシアガのクリエイティブ・ディレクターとして初めて上海で発表したコレクションに、野放しの美しさをもたらしてくれました」と考え方を変え、ある種の落ち着きをのぞかせた。

Photo: Mr. Fang
Photo: Mr. Fang

パーカーにジョガーパンツ、大容量の「ロデオ」バッグに「サーキット」スニーカーと、人目につかないスタイルで上海を後にしたヨーだが、オートクチュールコレクションがわずか数週間後に迫った今、大胆不敵なファッションに身を包んだミシェル・ヨーを再び見られる日は、そう遠くないだろう。彼女にはバレンシアガのアンバサダーという役が、とても似合っている。

Text: Alice Newbold Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.CO.UK