東方神起やEXOを輩出したSMエンタテインメントより誕生
今をときめく、韓国のグローバルアイドルグループNCT127。時代を先取りするエッジの効いた独特なメロディーとダンスで知られ、常に挑戦的で実験的で革新的だ。メンバーそれぞれの高い技術力と個性が光るプロ集団。「ネオ・カルチャー・テクノロジー=Neo Culture Technology」の頭文字を由来とするNCTグループの中でも兄貴分的存在として、デビューからこの8年を突っ走ってきた。彼らの大ヒット曲「英雄; Kick It」(2020年)は、K-POPファンなら誰もが知っているだろう。オーディション番組では必ずと言っていいほどパフォーマンスされているし、世界中のファンがストリートで、ダンス教室で、SNSで歌い踊ってきた。
2016年7月にデビュー、8年目を迎えた今でこそ地位を築き、世界的に活躍しているが、大きくブレイクするまでに時間を要し、結構な苦労をしてきたのも事実だ。デビューから4年でリリースした「英雄; Kick It」が売れた!と思いきや、世界的なパンデミックにより予定されていたワールドツアーは全てキャンセルに。SMエンタテインメントを長年見てきたPINK BLOOD(同社のコンテンツを愛するファンの愛称)として、そして親心としてハラハラしたりもしたが、今やすっかり誇らしい存在である。
9人の成長と軌跡を描いたネオ・ドキュメンタリーシリーズ「NCT 127: The Lost Boys」の全4話を観た。この“ネオ・ドキュメンタリー”というキャッチフレーズを見て、ここでもネオ!?と笑ってしまったが、いやいや、マジで“ネオ”! てっきり、ライブ映像に撮り下ろしたメンバーたちの語りが混ざる、ごく普通のドキュメンタリーだと、そんな凡庸な想像をした自分が恥ずかしい。
メンバーそれぞれが自分の過去を辿ってゆく。子どもの頃の性格、家庭環境、家族との関係性、思春期の悩み、アイデンティティーの危機、ターニングポイント……。今まで語ることのなかった心の中の楔をカメラの前で解き放つことで、彼らの素顔、本音が浮かび上がる。それもそれぞれが異なる表現方法なのが面白い(本人たちが選んだらしい)。
例えばマークは、スタジオでの再現で子どもが演じている。トロントの様子を雪だるまと紙吹雪で表していたり、まるで演劇の舞台を見るかのようだ。テヨンは、マークと同じスタジオでの再現だが、面白いのは本人も子ども役を演じるところ。というか、テヨンは他のメンバーのシーンでも声や別人の役で全編にわたってちょこちょこ登場する。メンバーの人生に触れることで、思うところもあったようだ。
ジェヒョンはスタンダップ・コメディー(日本で言う漫談)に挑戦。ジョンウはピエロとして街の人々と接し、カメラが趣味でもあるジャニはメンバーの撮影を試みている。子ども時代がアニメーションで描かれるメンバーも多いが、それぞれ絵のテイストが違っていて楽しい。いやはや、すごく手をかけて作られたドキュメンタリーといえるだろう。メンバーによってはソロ曲も披露する。その曲のセレクトが興味深く、撮り下ろしなのも嬉しいところだ。
成功を手にするまでの光と影
ここで一人ひとりにフォーカスして、筆者個人の思ったことを述べてみたい。
まずはマーク。NCTのエースとして、NCT127とNCT DREAMを兼任。その上ソロでも活躍している。一体いくつ身体があるのか、体力も精神力もすごいのだろうと思っていたが、そんなマークにもアイデンティティー・クライシスがあったことを今回知った。いろいろ大変だっただろうに、NCT DREAMにいてくれてありがとうね! 子ども時代を演じる子役が幼い頃の本人と似ていて、本当にキュートだ。
ヘチャンはライブなどの姿を見てきて、歌もダンスも上手すぎて舌を巻くとともに賢く、とても成熟している人だと感じていた。その彼が、外見ばかり磨いて内面の成熟が遅れたと言ったことに驚いたし、胸が痛くなった。幼さと無邪気さが求められる、同時に今日成長しなければいけないアイドルの宿命……。
ユウタはNCT唯一の日本出身で、SMエンタテインメントで初めての日本人デビューを勝ち取った男。その道のり、そしてデビュー後も尋常ではなくハードだっただろうことは想像に難くない。それらの経験を自信に変えて、今のユウタがいるんだとしみじみ思う。苦労を大したものではなさそうに語るのが彼らしいが、メンバーたちの証言から汲み取れるものは多い。今ではK-POPスターを目指す日本人はたくさんいる。その布石はユウタのような先輩たちが築いてくれたんだよね。
長男テイルは、実にマイペースな人柄が出ていて微笑ましい。同時に、端々に人間的な強さ、頑固さが滲み出るようで、ただ者じゃないなという印象。歌の面でも精神的にもNCT127の支柱を担っていることが、メンバーの話からよくわかる。彼の歌声は宝物だ。
ジェヒョンはルックス、歌と踊り、表現力、人柄など、何もかもを持ち合わせていて、ほぼ隙がない。そんな彼がスタンダップ・コメディーに挑み、自分の殻を破ろうとする。比較的、人生の大きな変化に素直にアジャストしてきた彼が、アイドルを辞めようと思った瞬間。こんな一面もあるんだとハッとした。
この番組では語られていないが、NCT127は最初からこのメンバーではない。デビュー時はウィンウィンがいて(今はWayVをメインに活動)、デビュー後約5カ月でドヨンとジャニ、約1年半が経ってジョンウが加入。特にジョンウは後からの参加で苦労したはずだ。笑いとユーモアに支えられてきたというジョンウは、自らがピエロに扮して人々に幸せを届ける。周りの人々を気遣えるその優しさ。裏には繊細で生真面目なジョンウがいるんだろうな、とも。
ドヨンは俳優である兄コンミョンの話も加わり、子ども時代からデビューまでの道のりを語る。優等生で順風満帆かと勝手にイメージしていたが、中学の体験には言葉を失ってしまった。そういった経験も歌声に生きる。確信したような歌唱が強く刺さる。
テヨンはNCTのリーダーであり象徴だ。テヨンの過去は彼自身が演じているのが可愛いらしく、それも幼い日の恋バナが超キュートだ(この番組唯一のロマンス?)。愛犬ルビーとのエピソードに泣いたし、とても情が深い人だと再確認。その深く美しい感性が、独自性の高いパフォーマンスを生み出しているんだろう。
そしてラストを飾るのはジャニー。NCT127をピリッときかせるスパイス的存在。長かった練習生生活、デビューを本気で諦めようとしたエピソードは胸に迫る。かつてEXOのレコーディングにも参加していたとEXOのメンバーが明かしたことがあるが、よく粘ってくれたとしか言いようがない。
このドキュメンタリーを見てわかるのは、容易い道を歩んだ人なんて誰一人いないということ。アイドルの光と影。山あり谷ありの道を努力に努力を重ねた結果が今であり、NCT127として結実している。これを知って改めて彼らのパフォーマンスを見ると、一層の感動を得られるはずだ。
Text: Maki Miura