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困ったときはこの作品! Netflixで本当に観たい映画6選

ストリーミングが浸透した今、毎月数えきれないほどの作品が配信される一方で、その多くが忘れ去られてしまっている。しかし、本当に素晴らしい作品は数多く存在する。どれにしようか迷っているときにこそ観たい、Netflixでの映画6作品を厳選。
ネットフリックス netflix マリッジ・ストーリー スカーレット・ヨハンソン
Photo: Wilson Webb/Netflix

『ビースト・オブ・ノー・ネーション』 アカデミー賞ノミネートゼロの不条理

『ビ―スト・オブ・ノーネーション』(2015) 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ

Netflix初のオリジナル映画で、アカデミー賞有力候補として話題になったキャリー・ジョージ・フクナガ監督による鳥肌ものの大作は、2015年の公開と同時にカルチャー戦争の犠牲となってしまった。当時はスタジオ、劇場、そしてアカデミー賞側がストリーミング配信を敵視し、映画界の既存のルールに反する脅威だとみなされていた時期だったのだ。

その結果、アカデミー賞は今作を完全にスルー。しかし、残忍な内戦で子ども兵士の部隊を率いる指揮官を貫禄たっぷりに演じたイドリス・アルバや、紛争の恐怖に耐えながらも、次第に罪悪感といった自身の感覚が麻痺していく少年兵を繊細に演じたエイブラハム・アターを思うと、この評価はあまりにも不公平だ。

『ROMA/ローマ』70年代メキシコの中流家庭と家政婦の物語

『ROMA/ローマ』(2018) 監督:アルフォンソ・キュアロン

ヤリッツア・アパリシオ演じるクレオが石造りの床を几帳面に掃除する冒頭から、洗濯物の山を抱えて階段を上るラストシーンにいたるまで、70年代のメキシコ・シティで崩壊していく一家を描いたアルフォンソ・キュアロン監督の半自伝的作品は、文句のつけようのない大傑作だ。

視聴者が主人公で家政婦のクレオの人柄を理解し、共感を覚えるころに彼女に危機が訪れ、さらに彼女の雇い主(マリーナ・デ・タヴィラ)も、夫(フェルナンド・グレディアガ)が家族を見捨てようとしていることを知り、そちらの混乱にも巻きこまれてしまう。心が張り裂けそうになる瞬間というのがいくつもあるが(小児病棟での地震、山火事、暴動、映画史上最も悲惨なのは出産シーン)、穏やかで瞑想的な瞬間もまた、脳裏に焼つくはずだ。例えば、一家でテレビを観ながら大騒ぎをし、その後すぐに家庭内の平穏が戻ってくる場面。クレオが雇い主の幼い子どもと太陽の下で寝転び、死んだふりごっこをするシーンはなんとも微笑ましい。

『マッドバウンド 哀しき友情』力強く濃密な群像劇

『マッドバウンド 哀しき友情』(2017) 監督:ディー・リース

ミシシッピ州のデルタを舞台に、第二次世界大戦で戦った二人の帰還兵(ギャレット・ヘドランドとジェイソン・ミッチェル)が人生の方向性を見出そうと奮闘する、ディー・リース監督による絵画的な群像劇。黒人差別制度があったアメリカ南部におけるトラウマ、友情、夫婦間の不満、そして人種間の緊張を壮大かつ濃密に描いている。

キャリー・マリガンメアリー・J・ブライジが家族を養うために奮闘する母親と妻を繊細に演じ、ブライジが「Mighty River」を高らかに歌い上げ、レイチェル・モリソンがまるで別世界のような驚異的な撮影を担当するなど、今作はあらゆる要素がうまく噛み合い、相乗効果となって作品を極上のもとしている。極度の貧困、搾取、想像を絶する暴力、KKK(クー・クラックス・クラン)の支配など、この時代の現実から決して目をそらすことなく、それでもどんな困難にも打ち勝つ人間の能力について、深い希望に満ちた視点を貫いている。

『マリッジ・ストーリー』リアルだから笑えて泣ける。役者の演技バトルに注目

『マリッジ・ストーリー』(2019) 監督:ノア・バームバック

ネット上で今作をネタにした大喜利が流行したため、作品そのものの影がやや薄くなってしまったが、ノア・バームバック監督による、崩壊しつつある結婚生活を悲痛かつ滑稽に描いた『マリッジ・ストーリーは』は、間違いなく傑作である。『クレイマー、クレイマー』(1979)のようなハリウッドの名作を彷彿とさせながら、鋭いウィット、完ぺきな脚本、コミカルで不条理な洞察力によってそれらを凌駕している。

ローラ・ダーンは派手な立ち回りで大風呂敷を広げる離婚弁護士を見事に演じてアカデミー賞を獲得したが、今作はあらゆる面で忘れがたい名演が詰まった群像劇となっている。まずスカーレット・ヨハンソンが心に傷を負った俳優を、その夫役のアダム・ドライバーは欲求不満の演出家を、アジー・ロバートソンは内向的な幼い息子を、レイ・リオッタは好戦的な弁護士を、そしてマーサ・ケリーは無表情なソーシャルワーカーを演じているのだ。

シーンごとに引き込まれ、あの伝説的な大喧嘩シーンを経て、満足のいく、だけど実に現実的な結末を迎える物語は、離婚を経験したすべての子どもたちにとって必見だろう。ラストシーンには号泣させられるはずだ。

『獣の棲む家』 ホラーは現実を映す鏡

『獣の棲む家』(2020) 監督:レミ・ウィークス

レミ・ウィークス監督による、喪失、差別、難民危機をテーマに描かれたコンセプト・ホラー。戦火の南スーダンから逃れてきた夫婦(ウンミ・モサクとショペ・ディリス)の新居である、ロンドン郊外の荒廃した一軒家を舞台に物語は展開する。難民船でイギリス海峡を渡る途中に命を落とした幼い娘が彼らの記憶に取り憑いており、隣人たちは敵対心を募らせている。さらに、超常現象が彼らの家の壁を引き裂き、夫婦の間にくさびを打ち込もうとしているように見える。亡命と移民に対する現在の英国政権の取り組みという点からしても、今まで以上に観る必要がある1作だろう。

『ロスト・ドーター』形なき母性とは何かを探求する秀作

『ロスト・ドーター』(2021) 監督:マギー・ギレンホール

作家エレナ・フェッランテの著書は、いくつも豊かなドラマや映画化の原作となっている。驚異の完成度を誇るマギー・ギレンホールの長編監督デビュー作もご多分に漏れず、女性の野心、失望、怒り、疑念、そして何よりも母親としての相反する衝動が入り組んだ、重層的な物語となっている。

主役はレイダ。ジェシー・バックリーが演じるフラッシュバックで登場する若かりし頃のレイダは、2人の娘を持つ若い学者で、娘たちの面倒をみることに苛立ちを隠せない。一方、オリヴィア・コールマンが演じる現在のエイダは、立派な大学教授であり翻訳家。彼女がギリシャの海辺の町へバカンスへとやって来るところから物語は始まり、そこでレイダは突然行方不明になった3歳の子どもを持つ母親ニーナ(ダコタ・ジョンソン)と出会い、自身がかつて放棄した責任と、それがもたらした喜びと悲しみについて猛省することになる。

素晴らしく明晰な目を持ち、批判的でないところがいい。女性に課せられるありえない期待について議論するきっかけをくれる作品となっている。

Text: Radhika Seth  Adaptation: Rieko Shibazaki
From VOGUE.CO.UK