ニューヨークのメトロポリタン美術館コスチューム・インスティチュートにて催される特別展のテーマは、『Sleeping Beauties: Reawakening Fashion(眠れる美:ファッションの目覚め)』。二度と着ることができないほどデリケートな歴史的衣服に光を当てた展示内容であることから、そのオープニングを祝うメットガラ2024では多くのアーカイブルックが起用されるだろうと予想されていた。しかし、ニコール・キッドマンほど思慮深く、ドラマティックにその期待に応えたセレブはほとんどいない。
「メットガラの『The Garden of Time(時間の庭)』というテーマはとても美しい。私は、バレンシアガ(BALENCIAGA)のオートクチュールガウンに“目覚めのキス”をするというアイデアに惹かれました」。こう話すキッドマンは、クリストバル・バレンシアガが手がけた1951年春夏コレクションのオートクチュールガウンを再現。伝説の写真家、リチャード・アヴェドンによって不朽の名作となった一着であることにも触れると、「彼と仕事をともにするはずだったのですが、タイミングが合わず、残念ながら叶いませんでした」と、故人とのエピソードを明かした。
バレンシアガのインスピレーションは、創設者の母国スペインのフラメンコダンサーが着ていたボリューミーなスカートにあった。オリジナルのドレスも、デムナによって再現されたドレスも、白のシルクサテンのビスチェを黒のロングフレアスカートと組み合わせたもの。キッドマンが着用したスカートには約150メートルのシルクオーガンザが使われており、羽根に見立てた3000枚ものピースのカッティングからプリーツ加工に至るまで、そのすべてのプロセスが手作業で行われた。また、2つに分かれたルックを一着のイブニングドレスに仕立てるために、400時間もの時間が費やされたそうだ。
「このガウンは、過去、現在、未来のイリュージョンをシームレスに融合させ続けるバレンシアガの芸術的ヴィジョンに敬意を払うと同時に、リチャード(・アヴェドン)の作品を祝福するものでもあります」とキッドマンは付け加える。
しかし、キッドマンとスタイリストのジェイソン・ボールデンは、このルックをファッション史へのオマージュ以上のものにしたいと考えた。「ニコールと初めてメットガラのルックを手がける話が出たとき、私は彼女をインスパイアするような世界観から始めたいと強く思いました」とボールデン。「彼女は真のアーティストであり、コラボレーターです。私たちはまず、バレンシアガの世界とデムナが考えていることについて会話をしました。それにニコールは、このリチャード・アヴェドンの写真にすごく感銘を受けていたのです」と、メゾンと写真家への想いが深く関わっていることを教えてくれた。
メトロポリタン美術館の階段を上り、ドレスのフロントを強調するようにポーズを決めたときの姿は、まるでおとぎ話に登場するプリンセスのよう。しかしこれは偶然ではなく、意図的な演出だったとキッドマンは話す。「眠れる森の美女のように、どんなドレスも眠ったままではいられませんから。今夜、バレンシアガのドレスに身を包むことができて、本当に光栄です。オートクチュールを存続させるために尽力してくれた職人たちに心から感謝します。そしてアナ・ウィンター、ファッションとアートを祝うために私たちをひとつにしてくれてありがとう」
ファッションの歴史に敬意を表しながら、それを現代にしっかりと受け継ぐことを目的としたメットガラ2024で、彼女はそれを見事にやってのけたようだ。
Text: Liam Hess Adaptation: Motoko Fujita
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