フィービー・ファイロ率いるセリーヌ(CELINE)やザ・ロウ(THE ROW)、ダニエル・リー時代のボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)など、多くのメゾンブランドでシューズデザインを手がけてきたニーナ・クリステン。その卓越したデザイン力で業界内外から注目を集める彼女が、2024年、ついに自身の名前を冠したブランド“CHRISTEN”をスタートさせた。今回、『VOGUE JAPAN』は、彼女が日本を訪れたタイミングで独占インタビューを実施。知られざる華やかな経歴やデザインに興味を持ったきっかけ、さらに、自身のブランドに込めた哲学について語ってもらった。クラフツマンシップへのこだわりと、洗練された独自の美学――。その裏に隠された物語とは?
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──簡単な経歴を教えてください。
はじめに、スイスでテーラリングを学びました。その後、パリに移住した後にすぐにシューデザインに夢中になりました。セルジオ ロッシ(SERGIO ROSSI)でプロジェクトを行ったのちに、ステファノ・ピラーティがディレクターだった時のイヴ・サンローラン (YVES SAINT LAURENT)で働き始めました。クリエイティブ・ディレクターがエディ・スリマンだった時も居ましたが、様々なジャンルのプロジェクトに関わりたいと思いサンローランを離れる決断をしました。北欧のマリメッコなどともプロジェクトを行いまたし、フィービー・ファイロがいた時のセリーヌでも働きました。その時に出会ったのが、後にボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターになるダニエル・リーです。それからの縁でボッテガのデザインを担当することになり、ダニエル時代の靴は全て私が担当しています。コレクションの規模が大きく、アクセサリー部門はブランドの中でとても重要なセクションだったので、素晴らしい経験になったと思います。
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──ダニエル・リーと同時にボッテガ・ヴェネタを去りましたね?
そうですね。旧友ダニエルと過ごした時間は何にも変え難い、貴重な経験となりました。ですから、彼が去ったボッテガに一人残るということはあまり考えませんでした。そこで、次のチャレンジとして、ロエベ(LOEWE)に移動しました。バルーンパンプスから始まり、今(2024年4月時点)店頭に並んでいるものは全て私が手がけたものです。ただ、自分のアイデンティティをもっと映し出したプロダクトを作りたい、と思い自分のブランドを始めることにしました。
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──テーラリングを勉強したのに、シューズデザイナーになろうと思ったのはいつでしょうか?
私も大勢の女性たちと同じで、幼い頃から靴が好きでした。昔から、シューズデザイナーになりたい!と思っていたわけではありませんが、初めてデッサンを描いた時、自然と溢れるようにアイディアが浮かんできて、自分に才能があるように思えたんです。それが“靴”というものにフォーカスしたいと思ったきっかけです。
また、パリにはたくさんのプレタポルテのデザイナーがいます。私の洋服に関する好みはとてもクラシックで“実験的な服”は好まない傾向にあります。でもシューズは、何足あっても足りないように感じるほど、コレクションをしています。スイスの自宅には300から400足のアーカイブを保管していると思います。
彫刻のように作るシューデザイン
──今回のブランドを立ち上げる上で、一番のこだわりを教えてください。
日本のお寿司屋さんの「おまかせ」はご存知ですよね?その日のシェフのおすすめを詰め込んだコース料理のように「ファッションのおまかせ」が提供できるブランドにしたいと思っています。私が必要不可欠だと思うアイテムを選んで、ミニマルで上質なものを製作し提供する。そんなブランドにしたいと考えています。また、靴用の全ての生地やレザーはオーダーメイドで開発しています。レザーメーカーと協力して、品質、光沢、仕上げ、色合いを一緒に作り上げました。シューズはたくさんのパーツからできていますが、40をも超えるサプライヤーを使い、その全ての部品をこだわり抜いて製作しています。
──シューズをデザインする時はどんなものからインスピレーションを得るのでしょうか?
私の生き方や、自分の周りに置いているすべてのものがインスピレーションになっていると感じます。特定のアートやデザインからインスピレーションを得ることはほとんどありません。というのも、それは他の誰かの作品であり、自分の作品に他の人の作品を反映させたくないからです。その代わりに、素材から大きなインスピレーションを得ています。素材は本当に根本的なもので、それらがたくさんのアイデアを与えてくれます。それにくわえて、靴作りは彫刻的な作業だと思っていて、とても直感的なものです。例えばヒールを作るとき、時には明確なアイデアがなくても、ただ手を動かし始めます。技術者と一緒に彫刻のようにヒールの形作っていくと、新しい何かが生まれることが多いんです。
もちろん、ファッションの歴史には詳しいので、例えば60年代の遊び心のある雰囲気や70年代のムードを取り入れて、モダンな要素とミックスする、といったこともします。その時代の特定の要素を新しい技術やアイデアと融合させることはよく行いますね。ですから、私のインスピレーションはパズルのように、いろいろなものを組み合わせてできているのだと思います。
──シューズと合わせて、レディ・トゥ・ウェアも発表しましたね。
アンダーウェアやデニム、ロングスリーブTシャツを制作しました。シェアリングのコートなど以外のレディ・トゥ・ウェアは全て日本の工場で製作しています。かつて私は、日本でしか買い物をしなかった!といっても過言ではないぐらい日本製品のファンで、工場の持つ技術やクラフツマンシップを本当に尊敬しています。私のブランドの目標は、ヨーロッパのラグジュアリーブランドの中でも際立つ存在になることです。日本の伝統的な物づくりの姿勢は私のブランドにとって欠かせない存在になると思っています。
──シューズだけではなくTシャツなども製作予定だと聞きました。これから展開予定のものはありますか?
将来的にはファインジュリーも製作したいと考えています。先ほども言った通り、私は実験的なファッションが好きではなくて、クラシックで一生切られるようなデザインが好きです。ジーンズであれ、Tシャツであれ、ネックレスであれ、一生物と思える最高の逸品さえあればいいと思っていて、トレンドを追いかけすぎないものがヘルシーなファッションのあり方だと考えています。
今回は、ファーストコレクションでしたので、まずは“クラシックな基本のワードローブ”といった内容になっています。今後は、同じ構造を基にさらに発展させていきたいと考えています。
Photos: Bilal El Kadhi
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