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保険適用で不妊治療を始めた私が”後輩たち”に伝えたいこと【卵子凍結したライターMのその後〜不妊治療編vol.3】

凍結卵子での妊娠はかなわかったライターMは、42歳で保険診療での体外受精をスタートした。実際に不妊治療を始めたからこそ気づいたことを赤裸々にリポート!

保険適用で体外受精をすることを決意した私は、不妊治療の病院を何箇所も訪れて、リサーチを進めた。直接医師と話し、また治療をすることで初めて見えてきたこともたくさんあった。

1. 保険適用の治療には制限が多い

患者として先生に取材すると、不妊治療の保険適用に否定的な先生が少なくないことに驚いた。保険適用では使える薬が限られているというのが主な理由だ。「不妊症の人は保険診療でもなかなか妊娠しない。保険診療で妊娠するのは、不妊症ではなくセックスレスのカップル」と話す先生さえいた。真偽のほどは疑わしい​​が、保険適用の不妊治療にじれったさを感じる医師がいることは伝わってきた。

さらに、「自費だと採卵時に静脈麻酔が選択できるけれど、保険診療だと局所麻酔のみ」、「自費だと看護婦がホルモン剤の注射をできるけれど、保険診療だと基本的には自己注射」、「自費だと凍結精子も使えるけれど、保険診療だと新鮮精子のみ」、「自費だと院長先生の診断が受けられるけれど、保険診療だと受けられない」など、病院によってさまざまな制限があった。それぞれの病院の“保険診療での当たり前”を信じ込まずに、自分の足で色々な病院を回って自分にとってより快適なところを探した方がいいと思う。事務手続きは面倒だが、保険診療中に病院を変更することもできる。

2. 「貯卵」はできない

卵子凍結は、基本的に卵を冷凍して貯めておくものだ。それと混合しているのか、「保険を使って受精卵を冷凍して貯めておける」と誤解している人がたまにいる。しかし、保険診療では「貯卵」は禁止されている。保険診療で凍結した余剰胚がある場合、 原則としてそれをすべて融解胚移植しないと次回の採卵は保険適用されない。

3. 保険適用にしても、先進医療代は全額自費

保険診療と自由診療を混ぜて治療をすること(混合診療)はできないが、先進医療は混ぜることができる、例えば、胚を培養するときに使う「タイムラプスインキュベーター」や、胚を移植するときの「子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)」や「二段回胚移植法」など。保険診療と組み合わせて実施することができ、それはつまり全額自費ということ。タイムラプスインキュベーター(私が通った病院では33,000円)は全ての患者の受精卵に対して使用するという病院が多い。また、SEET法(私が通った病院では34,000円)や二段回胚移植法(私が通った病院では75,000円)も医者に勧められれば断りにくいだろう。経済的にゆとりを持たせておいたほうがいいと思う。地域によっては先進医療に対して補助が出たり、民間の医療保険がカバーしてくれることもある。

なお、不妊治療のお金の負担が大きいと感じている人は、限度額適用認定証を取得するのがおすすめ。保険適用分は自己負担額が高額になると後日払い戻されるのだが、この認定証があると、病院で支払いをするときに自己負担限度額までで自動的にストップされる。

4. 保険診療はどんどん変わっている

保険適用の不妊治療にじれったさを感じる医師がいる一方で、まだ不妊治療の保険適用は始まったばかりであり今後は使える薬が増えるなど改良されることを期待する、という声も多かった。

私がもっとも注目しているのは、着床前胚異数性検査(PGT-A)の保険適用。受精卵の細胞の一部を採取し、その細胞の染色体や遺伝子の異常の有無を調べるもので、染色体異常に起因する流産を防ぐことができる。欧米など諸外国では既に幅広く実施されている。日本では「命の選別につながる」との倫理的配慮から​​あまり広まっていないし、保険適用では使うことができなかった。しかし、将来の保険化に向けて、2023年から限られた施設だが保険適用の採卵でも実施できるようになったとニュースで知った。

日本の不妊治療の保険適用は始まったばかりで、今まさに、色々と変わりつつある。自分で勉強したり知人と情報交換をしたりして、積極的に知識を得るのが大切だと思う。

Photo:Getty Images Text: Marie(Instagram:@kyokotakahashi2023) Edit: Kyoko Muramatsu