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テーマは海のサステナブル。世界No.1シェフが手がけるリビエラの絶景レストラン、セト

フレンチ・リビエラの海岸線を見渡す高台に建つホテル、メイボーン・リビエラの最上階にあるレストラン、Ceto(セト)。海にフォーカスしたメニューが特徴で、開業わずか5ヶ月でミシュラン1つ星に輝くなど、今注目を浴びている。
テーマは海のサステナブル。世界No.1シェフが手がけるリビエラの絶景レストラン、セト
BENEDETTI LAURENT

2021年のオープン以来話題のCeto(セト)を手がけるのは、世界No. 1レストラン、Mirazur(ミラズール)のオーナーシェフ、マウロ・コラグレコだ。10月27日に東京・大手町に、ファインダイニングのCycle(スィークル)をオープンすることも、美食家たちの熱い注目を集めている。

カジュアルなピザやバーガーのお店からファインダイニングに至るまで、世界にレストランを展開するコラグレコだが、どの店でも共通するのが、自然のサイクルに従った料理を提供すること。Mirazurから車でわずか10分ほどの場所にある、このCetoでは、他の店とは異なり「海のサステナブル」に特化している。魚と海藻などを中心に、肉を出さないのがユニークな点だ。

Photo: ©Matteo Carassale

浮遊しているような特等席で、サステナブルな海の味を

Photo: ©Matteo Carassale

近年、美食の世界での潮流として、肉の提供を中止する店が増え続けている。特に、森林伐採やメタンガスの排出などの問題が指摘される、牛などの大型動物の提供を中止する店が増えた。コロナ禍で人間がいかに環境に負荷をかけているかがさまざまな報道で明らかになり、さらに人口増加と温暖化による水不足などによる食糧危機が懸念される現代。いかに美食とサステナブルを両立させるかの答えを、多くのトップシェフたちが追求している。世界No.1シェフであるコラグレコが出した一つの答えが、目の前にある豊かな海の恵みを生かしたレストラン、Cetoを生み出すことだった。

Photo: © The Maybourne Riviera

Cetoが入っているホテル、メイボーン・リビエラは、モナコから西に車で10分ほど走った海に面した高台に建つ。白を基調とした部屋の窓からは(部屋によってはバスタブや部屋付きのプールからも)オレンジ色の屋根と白壁の家々と海が望め、その穏やかなブルーのグラデーションが心を優しく包んでくれる。最上階のCeto は、屋根はあるものの、基本的にはオープンエア。特にテラス席の壁には透明なパネルが使われており、足元からさえぎるものなく海が望めるので、まるで海の上に浮いているかのよう。インフィニティ・プールならぬ、「インフィニティ・シート」と呼びたくなる席だ。

吸い込まれるようなリビエラ・ブルーの昼間も魅力的だが、やはり一番は朱鷺色から藍色へと空の色の移り変わりをゆっくり楽しめる、サンセットタイムのディナー。バーも併設され、夜には生演奏とヴォーカルも入り、ロマンティックな雰囲気を醸す。

日本の技「活け〆」した魚で生み出す、海をテーマにした料理

オープンキッチンで真摯に料理に向き合っているシェフは、イタリア出身でミラズールで修業を積んだ、アンドレア・モスカルディーノ。フランスでは数年前に空前の「活け〆」ブームがあり、今は星付き店の多くが「Ikejime」の魚を使うようになっている。このCetoにはコラグレコと深い信頼関係を築く漁師から活けの魚が届き、モスカルディーノ自ら、活け〆を行っている。ちなみに、モスカルディーノに活け〆を教えてくれたのは、日本人の友人シェフだったそう。水の都・ヴェネツィア出身で、子どもの頃から釣りをするなど、魚に親しんで育ったモスカルディーノは、海を守るためにフランスの漁業資源保護団体が認証したサステナブルな漁法で獲られた魚しか使わず、未利用魚を活用した料理にも取り組んでいる。

デザートは、ペストリーシェフで、公私ともにパートナーでもあるジュリエッタ・カナバートが手がける。パリパリの軽い飴の下に海藻を敷いた「ミルフィーユ」など、デザートにも海のエッセンスが生かされ、コースを通して海を感じる構成に。油脂の使用も控えめで、食後感が軽やかなのも特徴だ。

加えて、シェフソムリエのヴィクトール・ビゴがセレクトするワインは、シーフードとの相性が考え抜かれたものばかり。特におすすめは、1年近く海中でエイジングした世界にたった1000本しかないウィスキー。ほのかに塩のミネラル感と樽のバニラ香のあるウィスキーと、昆布の粉をまぶして専用の貯蔵庫で2ヶ月熟成させた地中海本マグロのトロとの相性は抜群だ。

未来のために海を守る、未利用魚の活用

食後、2.5度という低温に設定された魚専用の貯蔵庫に案内してもらうと、モスカルディーノの口から飛び出すのは「ズ」や「デンティ」など、聞いたことのない魚の名前。「元々フランスは、一般的に食べられる魚の種類がごく限られている。そんな状況を変えていきたい」のだとか。モスカルディーノは「マウロ(・コラグレコ)の素材を大切にするスタイルに大きく影響を受けている。料理を通して、海の環境を守りたい」と語っている。

魚が食べられない人のためにアラカルトには肉のメニューもあるものの、基本的にテイスティングコースで肉は提供していない。最近では魚や海藻のみならず、海沿いに自生しているシーフェンネルと呼ばれる香りの良い多肉植物を採集して料理に使うなど、海の生態系そのものを表現する料理を生み出している。海藻の一部は冷涼な北欧から輸入してもいるが、魚介類はイタリアのサンレモからマルセイユまで、近郊で水揚げされるものばかり。活け〆にすることで長期間のエイジングが可能になる。荒天などで漁に出られなくても、フードマイレージの長い遠方から魚を取り寄せることなく、地元食材での料理を提供することができるというメリットもあるという。こんな形で日本の技が役に立っていることは、嬉しい限りだ。

地球温暖化に歯止めをかけるため、陸上のみならず海中からCo2を吸収する植物=海藻の大切さがヨーロッパでは再認識されてきている。陸上で栽培される農産物のように、ますます希少になる淡水を消費しないことも、注目のポイントの一つ。世界に誇る多様な海藻食の文化のある日本が発信できることはまだまだ多いはず。

ともあれ、そんなことを考えずとも、未利用魚や海藻を多用したコースを食べることで、知らず知らずのうちに人と地球の健康に貢献できるのが、このCetoの良いところ。今回は昨夏以来、2回目の訪問だったが、モスカルディーノは1月にメキシコを訪問し、それにインスピレーションを受けた「タコス」や「スモーク唐辛子」などもメニューに折り込まれており、昨年とは違う新しいアプローチも楽しめた。「次の目標は2つ星」と語る、30歳のモスカルディーノの進化は止まらない。

また、コラグレコの監修のもと、10月27日にいよいよ東京・大手町にオープンするCycleの準備も着々と進んでいる模様。厨房を率いるのは、3年間Mirazurで働いた宮本悠平。モスカルディーノとともに働いた友人同士だ。コラグレコの自然のサイクルに従った創造のDNAが、世界で、そして日本で、どんな風に表現されていくのか。これからますます楽しみだ。

Ceto(セト)
The Maybourne Riviera, 1551 Route de la Turbie, 06190 Roquebrune-Cap-Martin, France
Tel: +33 4 93 37 50 00
Contact: info@maybourneriviera.com
https://www.maybourneriviera.com/restaurants-bars/ceto/

Photos & Text: Kyoko Nakayama