ポケットTシャツに長袖Tシャツにゆったりとしたシルエットのカーゴパンツ。スケーターやサーファー、“ノームコア”好きなどの定番ユニフォームとされているこのラフなスタイルが、どうやらメアリー=ケイト・オルセンとアシュレー・オルセンのお墨付きをもらったようだ。何せパリの某ホテルで開催されたザ・ロウ(THE ROW)のプレゼンテーションで、2人はこの淡々とした飾り気のないスタイルをメゾンなりにアレンジし、オープニングルックとしてランウェイに送り出している。
だが、なんと言ってもこれはザ・ロウの話だ。しわくちゃに見えるように加工されていても、間違いなく最高級の素材から作られているのがわかる。ショーを通して登場した小粋なブラックのバレエシューズと合わせられていたポケットT、ロンT、カーゴパンツの3つのアイテムは、この上なくソフトな質感で、全体的な見た目も醸し出すムードも何気ないカジュアルな魅力に満ちていた。そして着心地も見るからに申し分ない。
ここ何カ月、いやここ何年のうちに誰かが「クワイエット ラグジュアリー」という言葉を発したたびに、そしていかにザ・ロウがその顔であるかを語ったたびに小銭の1枚でも貯めていたならば、今頃パリにオープンした新店舗に出向いて、好きなものをなんでも買えるくらいの額が貯まっていただろう。それくらい、ザ・ロウはクワイエット ラグジュアリーとは切っても切り離せない。
オルセン姉妹のファッションに対する考え抜かれたパーソナルなアプローチは、大勢の人に親しみを感じさせるという、ファッションが必ずしも実現できないことをやってのけている。この正当な理由があって、絶大な影響力を誇っているのだ。しかし、彼女たちのアプローチを模範するブランドのショーが示すように、単にハイセンスでミニマルな服を打ち出せばいいというわけではない。なぜなら「さり気ない」魅力を放つはずのアイテムは大抵「味気ない」領域に入り、あまりにも色褪せて見えるからだ。
だからこそ今季、ザ・ロウは2つのオープニングルック以外では持ち前のものとは違うアプローチをとった。もちろん、得意とするアイテムはラインナップに含まれていた。コートは静かな気品漂う、豊かなボリューム感のデザインでブラックとベージュの2色展開。ガザル製の軽やかな白シャツとブラックのバルーンパンツも打ち出された。しかし、どのピースも通常よりどこか荒削りで、計らずもコンセプチュアルで実験的なエッジが効いている。まるで不完全さを受け入れることで見える、新しい景色を求めるかのように。
したがって、今回はオーガンジー生地を何層にも重ねて作られたグレーブラウンのタンクトップ、裁ったままの生地をそのまま体に巻きつけ、黒いボディスで固定したかのようなグレーのカクテルドレス、肩からすとんと生地が落ちるワンショルダーのシースドレスなど、素材感を生かしたデザインがお目見えした。
首もとを彩るビーズが優艶な輝きを放つシンプルな黒いワンピースや重厚感あるコート、スカラップネックが唯一の装飾のスリーブレスドレス、ショルダーやバスト部分がしなやかにねじれたブラックのドレス。時折登場する気高いピースだが、そのどれもがオープニングルックと同じ気取らないエレガンスで纏われている。それがなんとも尊く、美しい。
Text: Mark Holgate Adaptation: Anzu Kawano
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