『ミッション:インポッシブル』(1996)
CIAの極秘諜報部隊IMFのチームが何者かに狙われ、1人を残して殺害される。罠をかけられ、犯人の濡れ衣を着せられたイーサン・ハントが真犯人を捜すシリーズ第1作は、トム・クルーズが初めてプロデューサーを務めた作品。撮影時33歳だった彼は、危険を伴うアクションシーンもすべて自分で演じると決めて撮影に臨んだ。
1. 巨大水槽を爆破して大量の水が流れ出す中を逃亡
プラハで1人生き残ったイーサンは、レストランで落ち合ったIMF本部のキトリッジに保護を求めるが、逆に裏切り者として逮捕されそうになり、店内の巨大水槽を爆破して大量の水が流れる中を脱出する。16トンの水を使用したこのシーンは、トムのアイデアによるもの。水槽が爆破され、窓からイーサンが飛び出すスローモーションの映像はパラマウント・スタジオで撮影し、流れ出る水よりも早く夜の広場を駆け抜けていくイーサンのショットはプラハの実景で撮影した。
2. CIA本部に侵入した宙吊りシーン
イーサンと仲間たちがCIA本部から機密ファイル「NOCリスト」を盗み出すシーンでは、イーサンが天井から宙づり状態でコンピュータルームに侵入する。映画公開時から現在に至るまで、シリーズを象徴するアイコニックなシーンだ。ジャン・レノが演じるクリーガーとの連携が乱れてケーブルが急降下し、床に接触しそうになったイーサンが手足をばたつかせて必死にバランスを取るシーンでは、どうしても頭や体が床についてしまい、トムにとって最も困難なスタントの一つとなったという。バランスを取るために役立ったのは、靴の中に忍ばせた英1ポンド硬貨だったそうだ。
3. 疾走する列車の屋根上のアクション
もう1つのハイライトと呼べるのが、英仏間を走る高速鉄道(TGV)の上でのアクション。本編で流れるのは、もちろんグリーンスクリーンを使ってスタジオで撮影した合成映像だが、トンネル内でのヘリコプターとの攻防などスリルとスピード感あふれる迫力のシーンだ。猛烈な風圧を受けて車体にしがみつく様子がリアルだが、強風で顔が歪む状態を作るために当時ヨーロッパに1台しかなかったスカイダイビング・シミュレーターで時速140マイル(約225キロメートル)の風を発生させている。この仕掛けを思いついたのも、スカイダイビングの訓練を経験したトム本人だ。
『ミッション:インポッシブル2』(2000)
シリーズ化が決まったときから、トムは1作ごとに違う監督を起用して各作が異なるスタイルを持つことを目指した。そこでブライアン・デ・パルマに続いて第2作の監督に選ばれたのは、香港ノワールの巨匠ジョン・ウーだ。本作にはスローモーションや華麗なガンアクション、鳩の飛躍といったウー監督のトレードマークが散りばめられている。前作でアクション演技のスキルを証明したトムは、より大胆かつ命がけのスタントに挑戦した。
4. オープニングのフリークライミング
冒頭から、休暇中のイーサンが1人でフリークライミングをするシーンが展開する。撮影はユタ州デッドホースポイントで行われ、イーサンが防具もつけずに軽装で岩から岩へ飛び移り、滑って宙づりになる瞬間までトム自らが演じている。監督はもちろん、保険会社からも止められたが、トムは監督を説得し、本人のスタントを認める保険会社に変更して、安全ケーブル1つ(ポストプロダクションで本編映像から消去)で自ら演じた。撮影現場では、すべて自分で演じたがるトムと安全重視の監督の間に確執が生まれたこともあったという。
5. 西部劇を模したバイク2台のチェイス
ダグレイ・スコットが演じる元エージェントの悪役、アンブローズのアジトからイーサンがバイクを奪って逃走するシーンもジョン・ウー監督らしいケレン味あふれる演出だ。イーサンとアンブローズによるバイクでの一騎打ちは、西部劇の対決シーンをインスピレーションにしたという。
6. ナイフの刃先がトムの眼球の至近距離に
2人はビーチで死闘を繰り広げ、アンブローズがイーサンの顔面にナイフを突きつけるシーンでは刃先がトムの眼球に刺さりそうな近さに迫る。トムは撮影に本物のナイフを使うこと、そして監督は漠然と「目の近く」と提案したが、ケーブル操作で眼球から約6ミリの距離に止めるよう指定した。万全を期したとはいえ、トムの動きが少しでも大きくなるだけで大事故になる危険があった。
『ミッション:インポッシブル3』(2006)
今は亡き名優フィリップ・シーモア・ホフマンが、ヴィランのブラックマーケットの商人オーウェン・デヴィアンを演じ、トムとの息詰まる対決で幕を開けるシリーズ第3作。何度も製作が延期され、度重なる監督やキャストの変更を経てJ・J・エイブラムスがメガホンを握った。本作のトムはほとんどのスタントを難なくこなしたが、上半身をひねるときに勢いをつけすぎて肋骨にひびが入ってしまったことがある。
7. 海にかかる鉄橋で敵の攻撃を逃れる
武器商人のデイヴィアンを護送中、彼を奪還しようとする一味から海にかかる鉄橋で急襲をかけられる。乗っていた車がミサイルで攻撃され、間一髪で脱出直後に着弾、イーサンが爆風で吹き飛ばされ、停車中の車に叩きつけられる。トムの背後での車の爆発は合成した映像だが、宙に飛ばされて車に激突するシーンはワイヤーを使って吹き替えなしで演じた。
8. 上海の高層ビルからダイブ
上海の高層ビルの屋上からワイヤーを付けて飛び降り、向かいのビルに飛び移るシーンは現地でのロケ撮影が叶わず、スタジオでグリーンスクリーンを使っての撮影となった。だが、スパイダーマンのような大スウィングで目標に到達し、ガラス張りの斜面を滑り落ちるなど手に汗握るアクションを見せている。
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2016)
9. 高速で離陸する飛行機にしがみつく
50代を迎えたトムだが、観客を楽しませようとするサービス精神は衰えるどころか増すばかりで、ついに離陸する飛行機にスーツ姿でしがみつくというスタントを自ら演じた。トムの盟友であるクリストファー・マッカリー監督が何気なく口にしたアイデアが思いがけず実現したシーンだが、撮影までには何カ月もかけて専門家と打ち合わせを重ねていった。
離陸を始める軍用飛行機エアバス400の機体に飛び乗り、地上約1524メートルの高さを時速400キロで飛ぶ飛行機の側面にしがみつく。トムはワイヤーやケーブルでドアに繋がれた状態で、時速約200キロのスピードに耐えた。目を保護するために眼球全体を覆う特殊なコンタクトレンズも装着し、ほとんど何も見えない状態で8回テイクを重ねた。
10. 素潜りで6分以上息を止めた水中シーン
犯罪組織「シンジケート」の極秘情報ファイルを入手するため、発電所に侵入するイーサンが給水タンクに潜るシーンは長回しの映像をつなぎ合わせた構成だが、トムは各テイクのたびに息を止める必要があった。フリーダイビングの専門家のもとで、軍隊が極限状況下で呼吸停止する訓練のプログラムを受け、6分以上も息を止められるようになった。
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)
11. 上空約8,000メートルからダイブするヘイロージャンプ
55歳になったトムは、マッカリー監督と何年も前から話題にしてきたヘイロージャンプのシーンを実現させた。これは1960年代にアメリカ空軍によって開発された降下法で、これまで挑んだ俳優は誰もいなかった。約1万メートルの高高度から飛び降りて着地寸前にパラシュートを開いて降下することで、察知されず敵地に潜入できる。
通常のスカイダイビングよりはるか高所からのジャンプは、減圧症や低酸素症など危険を伴うが、安全な撮影のために特別のヘルメットを開発し、100回以上も降下訓練を行なって撮影に備えた。しかも本番前には、減圧症を防ぐために地上で20分間純酸素を吸ってから上空76200メートルへ向かい、日没間際の3分間に撮影しなければならないという厳しい条件下だ。時速320キロで降下しながら、トムと撮影クルーは完ぺきなシーンを作り上げた。
12. ヘリコプターを自ら操縦し、高難度のスパイラル飛行も
ヘリコプターでのスタントのためにトムは操縦免許を取得。短期間で2000時間分の技術を習得し、ベテランパイロットも躊躇するスパイラル飛行に挑戦した。ヘリコプターでのチェイスを機内から撮影する設備を開発し、イーサン=トムが操縦しているのがはっきり映されている。
また、飛び立とうとするヘリコプターから下がったロープをつかんだイーサンが、そのまま空中に持ち上げられ、高速飛行中にロープをよじ登るも足を滑らせて落下するシーンもスタントなしで挑んだ。撮影した冬のニュージーランドは気温マイナス10度で、トムは「凍るような寒さで指の感覚がなかった」と語る。落下シーンを現場で見ていた共演のレベッカ・ファーガソンは、思わず悲鳴を上げたほど真に迫っていた。
13. 足を骨折しても撮り終えた激走シーン
シリーズのもう1つの名物は、イーサン・ハントの疾走だ。日本では“トム走り”なる呼称も定着しているが、本作でもイーサンは猪突猛進に走りまくる。サイモン・ペグ演じるIMFエージェント、ベンジーのナビゲートは頼りなく、イーサンは振り回されっぱなしだが、そんな状況でも「まっすぐ直進」「右へ」という指示通りに突き進む。その挙げ句、ビルの屋上から隣のビルへ飛び移る羽目になるのだが、ロンドンでの撮影時、トムは飛び移った瞬間にビルの壁に激突し、足首を骨折した。
「足で衝突を和らげようとしたら、折れたのがすぐわかった」とトムは当時を振り返る。だが、そこでカメラを止めないのが彼らしい。撮り直し不可能な重傷と自覚した彼は、痛みに耐えながら立ち上がり、足を引きずって前進し、無事にシーンを撮り終えた。そしてスタッフに「申し訳ない。折れた。病院に連れて行ってくれ」と頼んだそうだ。全治9カ月と診断され、撮影は数カ月中断されると見込まれたが、トムは6週間で現場に復帰した。
Text: Yuki Tominaga
