【リド84(イタリア/ガルダ湖)】伝統料理を探求し、その上に新たなイタリアンを築く
ミラノから東へ車で1時間半。イタリア最大の湖にして風光明媚な保養地、ガルダ湖にたどり着く。その畔に佇むレストランが「リド84」だ。シェフのリッカルド・カマニーニは、伊・仏の巨匠、グアルティエロ・マルケージやアラン・デュカスの元で修業し、サービスを担当する兄のジャンカルロとともに、2014年にこの店をオープン。その半年後には1つ星を獲得。2019年には「世界のベストレストラン50」で、最も注目の料理人に選ばれた。
リッカルドは、ローマ時代から続く伝統の上に、新たに解釈した料理を築き上げようとしている。例えば、シグネチャーディッシュのひとつ、“チーズと胡椒”という名のローマの名物パスタ「カチョ・エ・ペペ」では、なんと豚の膀胱を使う。パスタと水、ペコリーノ、黒胡椒を入れてひもでしばり、アルデンテになるまで湯せんし、仕上げはスタッフがゲストの前でハサミを入れる。発酵料理の旗手としても知られ、乾燥させたそぼろ状の酵母を直接パスタにトッピングするなど、オリジナリティにあふれた調理法を編み出す。忙しい調理の合間にテーブルを回って気軽にゲストに声をかけるなど、気さくな人柄もこの店を常に満席にしている理由のひとつだろう。
リド84(Lido 84)
Corso Giuseppe Zanardelli 196, 25083 Gardone Riviera BS, Italy
Tel./39-0365-20019
https://www.ristorantelido84.com/
【エルカノ(スペイン/ゲタリア)】シンプルなグリル焼きに、食べた者にしかわからない感動がある
星付きレストランが集中するバスク地方の中心地、サンセバスチャンから車で30分。マドリードから直接向かうなら4時間半は必要なビスケー湾の港町、ゲタリア。その港を見下ろす街の中心にある「エルカノ」は、ミシュラン1つ星と聞いて身構えると拍子抜けするほど、地元の常連で賑わうローカルなレストランだ。1964年に先代のペドロ・アレグイが創業し、妻のマリア・ホセ・アルタノの助けを借りながら、素材が持つ力を引き出すグリル焼きの技術を完成させ、世界中のシェフたちをうならせた。
名物は「イシビラメの炭火焼き」。大きく厚みのある見事なイシビラメが、ふっくらとジューシーに焼かれ、とろけるゼラチン質と皮の香ばしい匂いが食欲をそそる。目の前の海で獲れた魚を炭火で焼くというシンプルな料理にも関わらず、グルマンたちがこぞって押し寄せる。オマール、スズキ、メルルーサなどを使ったサラダやマリネ、スープなどからなるテイスティングメニューは、バラエティとインパクトに富み、シーフードのポテンシャルをとことん感じさせる。ペドロとマリアの息子、アイターが店を引き継いで7年後にミシュランの星を獲得。2019年から4年連続で「世界のベストレストラン50」にもランクイン。小さな港町の巨匠が美食家たちをこの地に呼び寄せるのだ。
エルカノ(Elkano)
Herrerieta Kalea 2, 20808 Getaria, Gipuzkoa, Spain
Tel./+34-943-14-00-24
https://www.restauranteelkano.com/
【SingleThread(アメリカ/ヒールスバーグ)】銘醸地ソノマで出合った日本の文化と季節感を感じさせる料理
カリフォルニアワインの銘醸地、ソノマの田園風景の中にある「シングルスレッド」のオーナーシェフ、カイル・コノートンは、北海道の「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」の2つ星レストランで研鑽を積み、イギリスの有名3つ星店「ファット・ダック」でヘッドシェフを務めたあと、2016年に自身の店をオープン。2年後に2つ星、その翌年に3つ星という快進撃を続けたが、それには妻で“ヘッドファーマー”のカティナ・コノートンの存在も大きい。10万㎡近い広さをもつオーガニック農場を切り盛りして、農作物の70%を栽培し、100本以上のオリーブの木からオイルを生産。養蜂や茶葉の栽培まで行い、ミシュラングリーンスターの栄誉も獲得している。
メニューは10品からなるコースのみで、ベジタリアンや魚貝のみを使うペスカトーレもリクエストできる。前菜から昆布締め、胡麻和え、茶碗蒸しなど、和食の技術と季節感を取り入れた料理が続き、伊賀焼・長谷園から取り寄せた土鍋を使った一品もお目見え。ハイレベルで和洋を融合させた料理は、日本人が食べても味わい深く、とても新鮮だ。70年代に遡るソノマやナパのヴィンテージワインのコレクションも魅力的で、フランス、イタリアなど各国のワインが楽しめるペアリングもおすすめだ。
シングルスレッド(SingleThread)
131 North St., Healdsburg, CA 95448, United States
Tel./+1-707-723-4646
https://www.singlethreadfarms.com/
【ブルーヒル・アット・ストーン・バーンズ(アメリカ/タリータウン)】丸一日居ても回りきれない、ファーム・トゥ・テーブルの先駆けレストラン
農場とレストランを直接結ぶ「ファーム・トゥ・テーブル」のムーブメントの先駆けとなったブルーヒルは、ニューヨーク・マンハッタンの中心から車で50分ほどの、タリータウンにある。エグゼクティブシェフのダン・バーバーは、食の世界にサステナブルという概念を広めたシェフの一人であり、執筆活動やTEDの講演、Netflix「シェフズ・テーブル」への出演などを通して、食の未来に警鐘を鳴らし続ける論客でもある。ストーン・バーンズの32万㎡にもおよぶ広大な敷地には、米国の建築家グロヴナー・アッターベリーが20世紀初頭に設計した石造りの建物をフルリノベーションしたレストランの他に、カフェ、売店、農場、牧場、さらに農業教育センターまであり、食と農業のコミュニティを形成している。
スターターは、木材を皿代わりに、釘に刺した採れたてのミニ野菜たち。農場と食体験をダイレクトに結びつける演出だ。ビーツを燻製にしたビーツ・ジャーキー、発酵した葉で巻いた柏餅風のスイートポテト、天然ハチミツと自家製ドライフルーツのデザートなど、料理は20皿以上。楽しさと美味しさが重なり、高揚感を掻き立てる。途中にキッチンの見学なども含め5時間はかかろうかという、食の一大エンターテインメントが体験できる。
ブルーヒル・アット・ストーン・バーンズ(Blue Hill at Stone Barns)
630 Bedford Rd, Tarrytown, NY 10591, United States
Tel./+1-914-366-9600
https://www.bluehillfarm.com/
Text: Yuka Kumano
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