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アンダーカバーは日常着にフォーカス。ヴィム・ヴェンダース監督に音源を依頼【2024-25秋冬 パリコレ速報】

2月28日(現地時間)に開催されたアンダーカバー(UNDERCOVER)の2024-25年秋冬コレクションは、シンプルなキャミソール&ジーンズ姿のルックで幕開け。平凡で穏やかな日常にフォーカスしたという高橋盾は、Tシャツやスウェットパンツ、パーカといったワードローブを再考した。ヴィム・ヴェンダース監督による音源やブリジットタナカとのコラボバッグにも注目を。

ファーストルックはキャミソール&ジーンズ

会場は広大でシンプルな空間だった。中央に大きく開いたスペースに、無音の中、キャミソールとジーンズ姿で片手にカーディガンを持ち、無造作なヘアメイクで裸足の女性がゆっくりと歩いてくる。

いつも作り込んだ独自の世界観を打ち出しているアンダーカバーUNDERCOVER)にしてはかなりナチュラルな印象。意表をつかれていると、男性の声で「Watching a Working Woman」と題した物語の朗読が始まる。どうやら法律事務所で働く、8歳の息子を持つ40歳のシングルマザーの1日について語っているようだ。

次々と登場するのは仕事や買い物、ワークアウト、犬の散歩時などを思わせるスタイル。手には花やヨガマット、犬のリード、ワインなどを入れたオーガンジーのバッグを持っている。

ヴィム・ヴェンダース監督に音源をオファー

ただ、普段着とはいっても、それぞれのアイテムは異なる素材が融合しており、生地がはみ出しているように見えるものも。最後はスウェットの上下からゴールドのモールやトレーンが溢れ出ているルックでショーが幕を閉じた。

バックステージで、デザイナーの高橋盾は次のように語った。

「日常というものが自分にとって何なのかと考えていた時にヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』(2023)を観て、平凡な暮らしの大切さを改めて実感しました。それぞれが自分に正直に生きれば周囲に対しても同様に接するようになり、平和な世界にもつながっていくと思う。それで自分が普段着る服を作るとしたらどういうものができるのかという実験をしてみたんです。Tシャツデニム、スウェットパンツパーカといった日常着を自分なりにアップデートしました」

ショーの間流れていたのはなんとヴィム・ヴェンダースが創作し、自らの声を吹き込んだ音源だった。高橋は先シーズン『ベルリン・天使の詩』(1987)を着想源としたり、油絵制作のモチーフにするなどもともとヴェンダースのファンだったようだが、『PERFECT DAYS』を観たことをきっかけに思い切ってオファーしたらしい。コレクションの内容を伝えて、ストーリーを考えてもらったという。

服づくりについては、今回は異素材を接着させることにフォーカスした。「生地がはみ出ているのは、日常からちょっと離れている部分をイメージしました。素材の質感によって感情の起伏を表しています」

「ブリジットタナカ」とのコラボバッグも登場

さまざまな必需品を持ち歩いていたオーガンジーのバッグは、フランス出身のBrigitte Giraudiと日本出身のChieko Tanakaが手がける「ブリジットタナカ」とのコラボレーションだった。

先シーズン花々で彩られ明かりが灯る「テラリウムドレス」で絶賛されたアンダーカバーだったが、そうした発想は今回は見られない。「奇抜な服を作るのもいいけど、歳を重ねてきて、自分や周囲がどういう服を着ていて、それに対して何ができるか、ということを考えるようになった」という高橋。日常とは切り離された高橋独特の幻想的な世界を見ることができないのは寂しい気もするが、そもそもは裏原宿のストリートカルチャーを牽引した存在で、こうした日常着をベースにしたものづくりが持ち味だった。

しかし、フィナーレを飾った3体は、ヴェンダースが最後を「“The Big Sleep”」と締めくくったように、日常の終わり=死を表現し、日常着では収まりきれないアンダーカバーの次なる展開を予言しているとも言えるかもしれない。今後もはたしてこのまま日常に軸足を置いていくのかどうか注目したい。

※アンダーカバー2024-25年秋冬コレクションを全て見る

Photos: Gorunway.com Text: Itoi Kuriyama