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アンダーカバー設立35周年。高橋盾のベストコレクションに立ち返った、記念すべきショー【2025-26年秋冬 パリコレクション】

ブランド設立35周年を記念して、20年前の2004-05年秋冬コレクションにオマージュを込めたショーを開催したアンダーカバーUNDERCOVER)。アンヌ・ヴァレリー・デュポンの作品とパティ・スミス、当時のインスピレーションに再び目を向け、ファンタジーと日常が共存するワードローブを改めて打ち出した。

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Photo: Daniele Oberrauch / Gorunway.com

ハリウッドにリメイク映画があるように、ファッションにもかつてのピースの復刻版がある。しかし多くの場合、リメイクも復刻版もオリジナルほど心に迫ってこず、酷評さえされるため、なぜ監督やデザイナーは、かつて評価された作品に改めて手を出し、作り直すのかは謎だ。

いずれにせよ、高橋盾は今季、「リメイク」をテーマにアンダーカバーUNDERCOVER)のコレクションを制作。ブランド設立35周年を記念して、個人的に思い入れの強い2004-05年秋冬コレクションに立ち返った。フランス人アーティスト、アンヌ・ヴァレリー・デュポンのテキスタイル彫刻作品とパティ・スミスのスタイルにインスパイアされた2004-05年秋冬コレクションに着手していた当時、高橋は自身にこう問いかけたという。「手作りのぬいぐるみみたいな服を、スミスが着たらどうなるか」。発想力が豊かというのは、こういうことなのだろう。

Photo: Daniele Oberrauch / Gorunway.com
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偶然にもスミスは、先週末ミラノで開催されたボッテガ・ヴェネタBOTTEGA VENETA)のパーティーで「ビコーズ・ザ・ナイト」を披露していた。本来なら、今年で結婚45周年を迎えるはずだったスミスは、途中で声が裏返った。「フレッドの仕業だと思います」。そう亡き夫、フレッド・ソニック・スミスについて触れた瞬間、胸が張り裂けそうだった。今回のショーでは、スミスの存在感はそれほど感じられなかったが、彼女がミラノのパーティーに続いて、高橋のコレクションにも登場したのは何かの巡り合わせのように思う。これだから、ファッションショーは何年経っても面白い。

Photo: Daniele Oberrauch / Gorunway.com
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バックステージで、高橋はこれまでの35年を振り返った。「時間が経つのはとても早いです。業界のスピードも、ファッションサイクルのスピードもどんどん早くなっていますが、私の作品は変わりません」。それは概ね事実だ。高橋はトレンドに囚われておらず、“looksmaxxing(あらゆる手段を駆使して、外見を最大限に魅力的にしようとする動き)”にも興味がない。彼が作る服はどちらかというと、着る人自身が持つオーラや雰囲気を高める“auramaxxing”の効果がある。タイトなジャケットに取り付けられた風変わりなピンバッジ、ジャケットそのものの丸みを帯びた縫い目に、長年の着用でたわんでいるかのような、不揃いにカットされた裾。金継ぎを思わせるラフな刺繍、ビーズやフリンジ、魔除けのチャームで飾られたアウター。着ることで若返ったりはしないが、その人の存在感を増してくれるルックが勢揃いだ。

Photo: Daniele Oberrauch / Gorunway.com
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一方、「服は着るほどに味が出る」という考えを、真っ向から否定するようなピースもあった。チャンピオン(CHAMPION)とのコラボレーションによって誕生したスウェットがまさにそうで、縫い目からタグが覗いているからか、真新しさが漂う。そして「ぬいぐるみ」というもうひとつのインスピレーションは、動物の耳が生えたようなパファージャケットや、ぬいぐるみに似たフォルムをした、パファーのパーティードレスとして展開された。

Photo: Daniele Oberrauch / Gorunway.com
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光沢感ある2着のパファードレスはどこか非日常性を湛えていたが、その他のルックはすべて現実に根ざしていた。ビーズとフェザーに覆われたイブニングスーツ、その足もとを彩るお揃いの華美なシューズでさえ、日常着のように映る。モデルたちの歩き方もリアリティにあふれ、皆あたかも物思いに耽っているかのように、時にぶつかりそうになりがら、ランウェイを彷徨う。そこには時の流れにも逆らう、不思議な時間が流れていた。

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