昨今のエアポートファッションといえば、快適さが第一。昔と比べて座席は狭くなり、よほどラッキーでないと隣の席が空いていることはない。しかし、かつては飛行機に乗ることはドレスアップする貴重なチャンスだったのだ。空港は昔からずっと、セレブが自分のスタイルを披露できる場であり、メディアにとってはスターの姿を確実にキャッチできる絶好な機会だ。華やかな装いでタラップを降りてくるセレブの姿は、まばゆさそのものだった。
そんな煌びやかな1950年代から、心地よさ重視の現代まで、歴代の空港スタイルを一気にプレイバックしてみよう。
<1950年代>
空の旅がまだ富裕層や著名人に限られていたこの時代。飛行機に搭乗するまでの時間はファッションを披露する絶好のチャンスで、スターのお決まりスタイルといえば、スーツやヒール、ファーコートだった。
ローレン・バコール、ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン(1951年)
映画『アフリカの女王』(1951)の撮影帰りの3人。ローレン・バコールはショート丈のケープにヒールといったクラシックな装いを選んだが、パンツ派で有名なキャサリン・ヘプバーンは期待を裏切らないシックなホワイトスーツにフラットシューズをスタイリング。
ザ・ザ・ガボール(1952年)
フランスのオルリー空港に降り立った俳優のザ・ザ・ガボール。ストラップサンダル、白いショートグローブ、二連のパールネックレスといった巧みな小物使いで、甘めなドット柄のドレスとコートをエレガントにまとめた。
エリザベス・テイラー、マイク・トッド(1957年)
メキシコシティ行きの便に搭乗するエリザベス・テイラーとマイク・トッド。テイラーは手袋を片方だけはめ、トッドから贈られた29カラットのダイヤが輝くエンゲージリングを惜しみなく披露。
モナコ公国大公レーニエ3世、グレース・ケリー(グレース公妃)(1958年)
王室らしく、盛装でオルリー空港に到着したモナコ公国大公レーニエ3世とグレース・ケリー。
<1960年代>
60年代には空の旅が一般化したが、空港はまだまだドレスアップする場だった。この時代のセレブは少しずつ自分らしいファッションをまとい始め、周りと差をつけていた。
ソフィア・ローレン(1960年)
ファーの縁取りがされたコートに柄タイツ、手にはルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)のシンボル的な存在であるモノグラムのバッグを提げてヒースロー空港に現れたオードリー・ヘプバーン。この日持っていた「スピーディ」バッグは、のちに「スピーディ25」として展開された特注のデザイン。
ツイッギー、ジャスティン・ド・ヴィルヌーヴ(1967年)
60〜70年代を通して一世を風靡したスーパーモデルのツイッギー(右)とマネージャー兼パートナーのジャスティン・ド・ヴィルヌーヴ(左)。日本行きのフライトに搭乗した2人は、60年代ファッションを象徴するファー、ベルベット、ビーズをコーデにふんだんに取り入れた。
<1970年代>
これまでのフェミニンな空港スタイルから一転、1970年代のエアポートファッションはより遊び心を加えたものが目立った。この時代のトレンドアイテムはなんといってもスーツ、デニム、そしてブーツだった。
ジェーン・バーキン(1971年)
永遠のファッションアイコン、ジェーン・バーキンがヒースロー空港で披露したのは、クラシックな白Tシャツとベルボトムを合わせたシンプルな装い。ブラックコートをさらりと羽織り、いつも持ち歩いていたかごバッグを手にエフォートレスに決めた。
アン=マーグレット、ロジャー・スミス(1972年)
アン=マーグレットと夫のロジャー・スミスはお揃いのピンストライプスーツでロンドンに。ふたりともドット柄のネクタイとフェドーラで揃えたが、アン=マーグレットはサドルバッグとヒール付きのブーツで、ロジャー・スミスはオックスフォードシューズに傘でそれぞれコーデを完成させた。
ドリー・パートン(1977年)
裾を大胆に折り返したデニムとほつれたシャンブレーのオーバーシャツという出で立ちで、イギリスに自身のカントリーテイストを持ち込んだドリー・パートン。足もとは超厚底のプラットフォームブーツ、アクセサリーはオーバサイズのサングラスとネッカチーフを選んだ。
パム・グリア、リチャード・プライヤー(1977年)
1977年にパム・グリアとリチャード・プライヤーが見せたルックは、まさに70年代スタイルのお手本。グリアのファーコートとプライヤーのベルボトムが各々のコーデにアクセントを効かせている。
<1980年代>
80年代の終わりには、普段と変わらない服装で飛行機に乗る人が増えた。それでも、俳優や歌手、王室などのは依然として目を引くファッションを披露していた。
ダイアナ元妃(1984年)
ストライプのリボンがポイントのベルヴィル・サスーン(BELLVILLE SASSOON)のスーツに身を包み、深みのある全身ブルールックでノルウェーを訪れたダイアナ元妃。
メリル・ストリープ(1984年)
メリル・ストリープがまとった白シャツ、黒のプリーツスカート、黒のブレザー、そしてメリージェーンからなるルックは、今でも魅力が色褪せないタイムレスなスタイル。
シンディ・ローパー(1987年)
チェックパンツとオーバーサイズのブラックコートにオックスフォードシューズという組み合わせで、アンドロジニーを体現したシンディ・ローパー。丸みを帯びたボーラーハットと丸いサングラスでさらにボーイッシュさをプラス。
マドンナ(1988年)
JFK空港でマドンナが見せたルックは、エッジを効かせたシンプルなスタイル。ジャケット、ベルト、ローファーといったレザーアクセサリーで白Tシャツとライトウォッシュのデニムにメリハリを付け、辛めに着こなした。
<1990年代>
90年代に差しかかると、ニーレングスのドレスにグローブという出で立ちはひと昔前のものに。この時代を象徴したアンドロジニーとニュートラルカラーは、セレブのエアポートスタイルにも広く見られた。
グレース・ジョーンズ(1990年)
決してカジュアルダウンすることのない歌手のグレース・ジョーンズは、ベルト付きのファーコートにミリタリーキャップをかぶり、常に華麗なスタイルを貫いた。
ホイットニー・ヒューストン(1991年)
ハードになりがちなレザージャケットを、存在感抜群のブラックとゴールドのベルベットパンツで華やかさを加えたホイットニー・ヒューストン。カジュアルさとドレッシーのバランス感がお見事。
シンディ・クロフォード(1992年)
旅慣れたシンディ・クロフォードは、シンプルながら洗練されたスタイルで移動。荷物もダッフルバッグひとつと少なく、ブラックのショールは肌寒い機内で快適に過ごすためにマストな旅のおとも。
アンジェリーナ・ジョリー(1998年)
プラスチックのヘアバンドがなんとも90年代らしいアンジェリーナ・ジョリーのモノトーンルック。この頃からすでにタイムレスなスタイルをものにしていた。
<2000年代>
Y2K全盛期!オーバーサイズのサングラスからトラッカーハットまで、90年代を代表するトレンドを楽しみながらも、多くのセレブは楽で動きやすい服装を好むように。
デビッド&ヴィクトリア・ベッカム(2003年)
今年結婚24周年を迎えたデビッド&ヴィクトリア・ベッカムは、フライトのときもお得意のペアルックでコーディネート。ブラックのジャケット、白Tシャツ、そしてデニムという装いで颯爽と来日。
パリス・ヒルトン(2005年)
頭からつま先までターコイズブルーで揃えたパリス・ヒルトン。マキシ丈スカートをベロアのトラックジャケットとエド ハーディ(ED HARDY)のキャップ、そして青い蝶のネックレスと合わせたルックは、2000年代らしさが凝縮されている。
ジャネット・ジャクソン(2006年)
アルバムのプロモーションのために来日したジャネット・ジャクソン。フリーシティ(FREE CITY)のスウェットとエルメス(Hermès)の「バーキン」でおしゃれとリラックスを両立。
キム・カーダシアン(2009年)
キム・カーダシアンがマイアミでまとっていたコーデのポイントは、鮮やかなホットピンク。ルイ・ヴィトンの「モノグラム・グラフィティ」バッグとトップの色を合わせ、オールブラックルックにメリハリを付けた。
<2010年代>
2010年代に突入すると、リラックス感あるスタイルが完全に定着。顔を覆う大きなサングラスもマストアイテムに。
ナオミ・キャンベル(2015年)
ブラックのマキシ丈スカートとレザージャケットを取り入れたモノトーンコーデをさらりと着こなすナオミ・キャンベル。ベースボールキャップとサングラスもしっかり黒で統一。単調にならないポイントは、ブラウンのフリンジバッグと首もとで光るエメラルド。
メアリー=ケイト・オルセン(2016年)
メアリー=ケイト・オルセンは、空港でも自身の代名詞ともいえるニュートラルカラーを基調とした装いがお決まり。オリバーピープルズ(OLIVER PEOPLES)のサングラスと、姉のアシュレー・オルセンとともに設立したブランド、ザ・ロウ(THE ROW)のアリゲーターのバックパックで上品に仕上げた。
ベラ・ハディッド(2016年)
ベラ・ハディッドの手にかかれば、オフ感が強い赤いアディダス(ADIDAS)のトラックスーツも、チョーカーとアビエーターサングラスで一気にモードに昇華する。
リアーナ (2018年)
セレブ界きってのファッショニスタのリアーナともなれば、快適さのためであろうとおしゃれは犠牲にしない。リラックスできるスウェットとはいえ、彼女が選んだのはハイエンドなストリートファッションブランド、オフホワイト (OFF-WHITE)のもの。バッグはディオール (DIOR)のトートをチョイス。
ジジ・ハディッド(2018年)
ジジ・ハディッドが来日した際にまとっていたレギンスにTシャツとスニーカーの組み合わせは、まさに現代のフライトコーデ。
デュア・リパ(2019年)
さまざまなグリーンをベースにしたカラフルなファッションに身を包んだデュア・リパ。アクセサリーは無難に黒ではなく、もこもこのピンクのスリッパと真っ赤なバレンシアガ (BALENCIAGA)のキャップを選ぶあたりはそれこそ色使いの達人。
<2020年代>
パンデミック以降も空港は相変わらず面倒なことが多い場所だが、長い間閉ざされていた世界への入り口にも感じられるようになった。空港には旅行者とともに、ワンランク上のエアポートスタイルが戻りつつあるようだ。
マーゴット・ロビー(2020年)
白Tシャツ、デニム、コンバットブーツ、そして黒いコートでシックかつ動きやすさも重視したコーデを組んだマーゴット・ロビー。
フローレンス・ピュー(2022年)
ここ最近、一番話題となった空港スタイルと言えば、ヴェネチア国際映画祭でフローレンス・ピューが見せた全身パープルのルック。ヴァレンティノ(VALENTINO)のセットアップを主役にしたコーデは、ひときわ注目を集めた。
BLACKPINKジェニー(2022年)
BLACKPINKのジェニーは、愛らしいニットカーディガンとジャックムス(JACQUEMUS)のバッグで、リラックスしたコーデを格上げ。
アデル・エグザルホプロス(2023年)
カンヌ国際映画祭に参加した俳優のアデル・エグザルホプロスは、クロップドトップとバギーデニムでスポーティな着こなしでニースに登場。
Text: Hannah Jackson Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
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