リアルクローズに焦点を当てたショーが多い春夏コレクションの中で、スキャパレリ(SCHIAPARELLI)はやはりどこか異彩を放つ。
これまでも数々のド派手なレッドカーペットルックを世に送り出してきている、ダニエル・ローズベリー率いるスキャパレリ。エキセントリックな作風が持ち味のメゾンだけあり、「プレタポルテ」の解釈もまた斬新で、今回発表されたコレクションでは創業者であるエルザ・スキャパレリの“狂気的”な感性が随所に反映されていた。
ロブスターからマニキュアまで、遊び心を忍ばせたモチーフの数々
オープニングを飾ったのは、フロントジップのコートドレス。一見、極めてシンプルなデザインに映ったが、目を凝らすとネックラインの片側にはドレスメーカーの巻尺を模した刺繍が施されていることがわかる。そこから続いたのは、一目ではわからないシュールなディテールが隠されたルックの数々。こぼしたマニキュアのようなプリントに、タバコを象ったレザーの刺繍。そして、静かな存在感を放つロブスターがセンターに装飾された挑発的なデザインのスカート。
1930年代にウィンザー公爵夫人が纏ったことで一躍注目を浴びたエルザ・スキャパレリによるダリのロブスター柄のドレスは、シアー素材とエロティックな雰囲気が当時のイギリスで波紋を呼んだ。そんなメゾンにとって、どこか特別な意味を持つロブスターをローズベリーはあまりにもわかりやすいオマージュと感じ、アーティスティック・ディレクターに就任した当初は避けていた。しかし、今年の1月にオートクチュール・コレクションで発表した動物の頭を付けたドレスが賛否両論を巻き起こしたのを機に、遊び心をさらに心がけるようになったという。それ故の巨大なロブスター、カニのネックレス、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻にインスパイアされたカフブレスレットなのだ。
ファッションとビューティー界のトップと作り上げた独創的な世界
ランウェイにはシャローム・ハーロウとアンバー・ヴァレッタといった90年代を代表するスーパーモデルも登場。バックステージのチームも錚々たる顔ぶれで、ファッション界屈指のトップヘアスタイリストのグイド・パラオとビューティー界の巨匠パット・マクグラスがヘアメイクを担当し、ルックの世界観を完成させた。
今回のショーを裏で「青春へ捧げたコレクション」と呼んでいたローズベリー。その愛称の通り、ゴールドのトロンプルイユをあしらったハイカットスニーカーや、白いブリーフを覗かせるように浅く履いたダークウォッシュのワイドレッグデニムなど、彼自身のアメリカンルーツが垣間見えるルックもランウェイを彩った。
オートクチュールの世界を飛び出し、リアルクローズに本格的に乗り出したスキャパレリ。近日ローンチされるアイウェアラインでついにデイリー使いが叶うアイテムが展開されると思いたいが、エキセントリックな感性が生むラインアップは決してベーシックなものになることはないだろう。
Text: Nicole Phelps Adaptation: Anzu Kawano
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