2024年春夏ニューヨーク・ファッション・ウィークで披露された中で、最も幻想的なもののひとつとして記憶に残っているのが、テンション アーカイブ(TENSION ARCHIVE)によるプレゼンテーションだ。優美なドレスに身を包み、シーツに覆われたソファに腰かけたモデルたちを目にした瞬間、まるで雲の中に足を踏み入れたような感覚がした。
デザイナーのジン・ジン・リンの軽やかさの追求は、2024年春夏の全体的な傾向とも一致している。また、このコレクションは彼女の復帰を意味するものでもあった。名門として知られるファッション工科大学(FIT)を2021年に卒業後、上海を拠点に活動していた彼女が、パンデミック以来3年ぶりにニューヨークへと戻ってくることができたのだ。
女性の身体美に焦点を当てて
「Debutante(デビュタント)」と題されたラインナップは、ブランドのシグネチャートーンであるホワイトを中心に展開された。純潔の象徴である白は、女性の社交界デビューの場であるデビュタント・バルで伝統的に使われてきた色だ。しかしリンは、そのほかの形式的で高貴な要素をすべて排除し、代わりに女性の美を称えるロマンティックなムードに焦点を当てた。
ドレスの多くは素肌をのぞかせるシアーなデザインだが、印象的なのはその透け感ではなく、繊細さだ。「セクシーさではなく、ただ身体の美しさを見せたいんです」とデザイナーは説明する。
リンがファッションデザイナーになろうと決めたのは小学生の頃。幼い頃は、紡績向上を経営する両親が世界中のファッション雑誌を読ませてくれたという。テキスタイルを学ぶために、セントラル セント マーチンズへ交換留学をしたこともある。
コレクションで使用する素材を自ら開発する彼女は、実験を恐れない。これまでに、光に当たると色が変わる生地や水に溶けるスパンコール、麦を使った装飾などを取り入れてきた。
マクロ視点とミクロ視点を絶えず行き来するデザイナーにとって、衣服のライフサイクルについて考えることはデザインプロセスの一部だ。自身のブランドを「自然、文化、テクノロジーの融合」と表現するリンは、「ファッションは回転するものだから、未来につながるものでなければならない」と続けた。
テンション アーカイブというブランド名は、テンションファブリック(ファブリックフレームとも。布をフレームに張ったもの)が由来。一度使ったものを繰り返し使えるよう、彼女はニットのサンプルをこうして保存しているそうだ。
リンのこの先見性は、テクノロジーに着目した卒業コレクション「We Robot」にも反映されている。そのほかにも、上海ファッションウィークで発表された「Solaris」と「Windbird」はそれぞれ海洋プラスチックを減らす取り組みと中国のミャオ族への敬意を表したもので、彼女がいかにイノベーティブなアプローチを取ってきたかがうかがえる。
「すべてのサイクルが良いものになるよう、ひとつひとつのプロセスやステップを大切にしています」と話すリンは、バイオ素材に加え、廃棄された電線やアップサイクル素材も活用する。さらに、カット・アンド・ソーではなく、ニットウェアの手法を取り入れることで、裁断から生じるファブリックの無駄を省いているそうだ。
Text: Laird Borrelli-Persson Adaptation: Motoko Fujita
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