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マクドナルドの制服をアップサイクルしたコラボが2億人にリーチ! ヘルシンキ発のヴェイン(VAIN)が目指す、カオス時代のためのファッション【若手デザイナー連載】

昨年、マクドナルドとコラボしたアップサイクルコレクションを発表したヘルシンキ発のブランド、ヴェイン(VAIN)。この世界的ファストフードブランドとのコラボは、なんと2億人以上の人々にリーチし、大きなバズを起こした。そして、コラボの結果、マクドナルドの求人応募は63%も増加したそうだ。ブランドのデザインを手がけるジミ・ヴェインに、この“世紀のコラボ”を振り返ってもらった。

SNSで2億人以上にリーチ! 大きなバズを起こしたマクドナルドとのタッグ

ヘルシンキ発のヴェイン(VAIN)は、クリエイティブ・ディレクターのジミ・ヴェイン(Jimi Vain)とCEOのローペ・レイノラ(Roope Reinola)によって設立され、今年1月に行われた「ピッティ・ウオモ103」で初ランウェイを飾った。実は、それ以前からすでにファッション界ではよく知られる存在だった。その最も大きな理由は、2022年に発表したマクドナルドとのコラボレーションプロジェクト。着古したマクドナルドの既存の制服をアップサイクルし、ブランドのトレードマークであるハートのモチーフを施したコレクションを発表したのだ。SNSでは2億人以上にリーチし、世界の800以上ものメディアで取り上げられるほどのバズを起こした。

そんな彼らに、改めて世界的ファストフードブランドとのコラボについて振り返ってもらった。さらに、白と黒を基調としたミニマルなデザインを追求した2023-24年秋冬コレクションについても、インスピレーション源やこだわりを聞いた。

シンプルな中にマクドナルドのロゴマークが際立つヴェイン特有のミニマルなデザイン。

──マクドナルドとのコラボが世界的に話題となりましたが、改めてその経緯を教えて下さい。

広告代理店からメールで連絡があり、マクドナルドとコラボしてみないか?と提案されたのが発端です。プロジェクトを私たちの思う通りにやらせてくれるならという条件のもと承諾しました。そこから、私とローぺで何をどのようにしたいのか?という包括的な計画を立てることからスタート。それを広告代理店に提出し、自由にやらせてもらうことができました。マクドナルドの既存のユニフォームをアップサイクルし、マクドナルドとヴェインの特徴的なシルエットやカラー、イメージを組み合わせてデザインしたコレクションです。実は、ずっと前からマクドナルドとコラボするというアイデアを考えていたんです。10代の頃、地元の店舗によく出入りしていたし、とても良い思い出が沢山あります。これは冗談ですが、グッズを盗もうと思ったこともあります(笑)。

ショーはマクドナルドの店舗で開催

──誰もが知る世界的ファストフードブランドのユニフォームを手掛けることはプレッシャーではありませんでしたか? 特に意識した点は何でしょうか。

マクドナルドのユニフォームをアップサイクルする上で、4つの重要な側面に焦点を当てました。 まず、特徴的な色、ロゴ、全体的なイメージ、センスなどを使用することで、ブランドのアイデンティティと視覚的認識を維持することを優先しました。 私はロゴで遊ぶのが好きなので、マクドナルドのアーチからハートを作りました。次に、ヴェインと同様にサステナビリティが最優先事項であるため、素材をアップサイクルしました。続けて、ユニフォームの機能性と快適さを考慮し、フードの提供にスピードが求められる環境にフィットする実用性と動きやすさも取り入れました。 そして最後に、ユニークなデザイン要素を注入し、個人のスタイルを反映させるスタイリッシュなユニフォームとして、ブランドのイメージを高めることを目指しました。

コラボの結果、マクドナルドの求人応募は63%増!

マクドナルドの実際の店舗でコレクションを発表した。

──マクドナルドのスタッフやお客さんの反応はどうでしたか?

コレクションとその背景にある私たちのアイデアを気に入ってくれたと思います。ラッパーのリル・ウージー・ヴァートがコラボアイテムのジャケットを着てくれましたが、マクドナルドの店内で彼の楽曲が流れることが多くなりましたね。私自身も、マクドナルドに行くとスタッフの方が親しげに挨拶してくれるんです。それもおもしろいですよね。このコラボによって、マクドナルドは求人応募が63%も増えたそうです。キャンペーンの成功の証となりました。

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エモーショナルな感情を呼び起こすミニマルな世界観

2023-2024年秋冬コレクションより。 Photo: Chris Vidal

──続いて、2023-2024年秋冬コレクションについてお伺いします。あなたのお兄さんの青春時代である2000年代初頭のポップカルチャーからインスピレーションを得たとのことですが、具体的にはどのようなことを落とし込んだのでしょう。

私たちの子供の頃は、インターネットが今ほど普及していませんでした。だから、自分でよく想像力を膨らませていたんです。当時のポップカルチャーに対する私の理解は、兄が好きだったミュージシャンのCDや写真を通して濾過されたストーリーテリングに基づいています。兄の影響で幼少期からコーン、スリップノット、マリリン・マンソンなどを聴き、ラップも好きでした。2023-2024年秋冬コレクションは、その当時の私の思い出や記憶とミックスさせています。具体的な映画のタイトルは言えませんが、ホラー映画とキッズ映画を参考にしています。

「ピッティ・ウオモ103」で発表した2023-2024年秋冬コレクション。

──白と黒を基調としたミニマルなデザインが特徴ですが、デザインする際に一番こだわった点をお聞かせください。

ディテールに細心の注意を払うことが、全体の美しさを高め、デザインを向上させると信じています。 また、輪郭のはっきりしたシルエットを作ることにも重点を置いています。 無駄な要素を排除し、形を洗練させることでシンプルさと調和を目指しています。 黒と白の配色をベースにしながら、様々な感情や気持ちを呼び起こさせるような作品を目指しました。

身体のラインを強調させたモヘアのメッシュニットは襟ぐりも大きく開いた大胆でセクシーなデザインに。

──パンデミック、戦争、インフレ、エネルギー危機、不況が猛威を振るう混沌とした時代において、そのカオスに順応し、その中から美しいものを見出したとのことですが、混沌の時代にファッションはどうあるべきだとお考えですか?

ファッションは、多様性と包括性を受け入れながら、快適さ、機能性、持続可能性を優先する必要があります。 環境に優しい素材を使用し、公正な労働環境をサポートし、日常生活における動きやすさと実用性を備えた服を提供する必要があります。しかし、そこに遊び心を忘れてはいけません。私はカオスと複雑なリレーションシップを築いています。 それがなければ、文化的な思考を失ってしまうからです。

〈左から〉CEOのローペ・レイノラとクリエイティブ・ディレクターのジミ・ヴェイン。

──最後に、今後予定しているプロジェクトを教えてください。

現在、私たちはブランドの開発とフィンランドのヘルシンキにある新しいオフィススペースと店舗の改装に重点を置いています。そして近い将来、他ブランドとのコラボレーションプロジェクトも考えたいと思っています。2024年春夏コレクションは「Social Avoidance」をテーマに発表しますので、ぜひ注目して下さい!

https://linktr.ee/vain

Photos: Courtesy of VAIN Interview& Text: Kana Miyazawa  Editor: Mayumi Numao