LIFESTYLE / CULTURE & LIFE

排除は解決策ではない──バレンティーナ・ペトリロがトランスジェンダー選手として初めてパラリンピック出場へ

イタリア代表の短距離走選手で50歳を迎えるバレンティーナ・ペトリロは、トランスジェンダーであることを公表した初のパラリンピック選手として、パリ2024パラリンピックに出場する。
Photo: Matthias Hangst/Getty Images

8月28日(現地時間)から12日間に渡り開催されるパリ2024パラリンピック。そこでイタリア代表として女子短距離走に出場するのが、トランスジェンダーであることを公表した初のパラリンピック選手であるバレンティーナ・ペトリロだ。

現在50歳のペトリロは、14歳のときスタルガルト病と診断され視覚障がいを持つ。米国立眼科研究所によるとスタルガルト病は、中心視力が徐々に失われる稀な遺伝性の眼疾患だ。

ペトリロはこれまで、性転換以前の2015年〜2018年のあいだに国内男子(視覚障がいT12)のタイトルを11回手にしている。2018年に妻のサポートを受けながら移行を始め、2019年1月から性別適合ホルモン療法を開始。昨年の世界パラ陸上選手権では、200Mと400Mの両方で銅メダルを獲得した(『ガーディアン』より)。

『BBCスポーツ』との最近のインタビューでペトリロは、パラリンピックに出場する初のトランスジェンダーであることは「インクルージョンの重要な象徴」だと話し、「“ライフスタイル”の選択ではなく、これが私なのです」「人種、宗教、政治的イデオロギーが差別されるべきでないのと同じように、トランスジェンダーも差別されるべきではない」と続けた。

世界陸上競技連盟は昨年、事実上すべてのトランスジェンダー女性の競技参加を禁止した。一方で、世界パラ陸上競技連盟の規定では、法的に女性として認められている者であれば誰でも競技に参加できるとBBCスポーツは伝えている。国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長は同メディアに対し、「スポーツ界は科学を基にしながら、トランスジェンダーのアスリートたちのために、よりよい答えを出さなければならない」と加えつつ、IPCの規定では当面ペトリロ選手の競技参加は認められており、「彼女はほかのアスリートたちと同じように歓迎される」と語った。

多くの人が、トランスジェンダーの女性はシスジェンダーの女性よりも生まれつき運動能力に優れていると主張するが、実はその考えを裏付ける決定的な証拠はない。国際オリンピック委員会が一部資金提供した4月の研究では、トランスジェンダーの女性はシスジェンダーの女性に比べて運動能力に不利な点があるかもしれないことも判明している。

ペトリロはBBCスポーツによるインタビューのなかで、トランス差別的な陸上競技規定に繋がっている“二元論的な考え方”を批判し、「解決策を見つけなければならないのはスポーツ界であり、トランスジェンダーのアスリートを排除することは明らかにその解決策ではない」と述べた。また、トランスジェンダーの女性が陸上競技大会への出場を認められた場合でさえ、「彼女たちがスポーツの成績で目立った例は極めて少ない」と付け加えた。

Text: James Factora Adaptation: Nanami Kobayashi
From: THEM