ここ数年のヴァレンティノ(VALENTINO)を振り返ると、ピエールパオロ・ピッチョーリは“個の尊重”や“解放”といったテーマを掲げ、女性たちへのリスペクトを表現してきた。それは色彩豊かなカラーパレット、体に沿ったドレープの美しさ、可憐に舞うフェザーなどロマンティックでありながら服の動きは軽やかで、纏う人の心もユニゾンさせるパワーを秘めている。そして2024年春夏オートクチュールは、私たちが生きる現代のリアルを反映させ、新しい美の追求に迫った。そこでピッチョーリがショーステージに選んだのはヴァンドーム広場に位置するヴァレンティノの“サロン”だ。オートクチュールの歴史と伝統が詰まったこの場所は、彼にとって「帰るべき場所と同時にそこから旅立つ場所でもある」と語る。その言葉通り、クチュール本来の意図やその起源へと立ち返りながら、新しい価値と姿勢でリセットを体現するショーとなった。
サロン内にある螺旋階段をモデルたちが順にゆっくりと降り、ショーがスタートした。会場には伝説のオペラ歌手、マリア・カラスの歌声と音楽が響き渡る。まずシンプルを極めたロングコートやドレープドレス、パンツ、トップなどに着目したい。歩いた時に揺れる素材の動きが非常に柔らかで、それぞれの素材の特徴を生かした服作りであることが伺える。中でもターコイズブルーのクレープコートとペールグリーンのバミューダパンツを合わせたルックは手作業で600時間、パープルのジャケットとミントグリーンのジャンプスーツのルックは400時間をかけて制作されている。「シンプルであるほど複雑であり、直感的でありながら慎重に考え抜かれた結果が形になるのです」と話すピッチョーリ。高度な職人芸と技術で、無駄をそぎ落としシンプルを極めて表現するという姿勢で圧倒的な存在感を放った。
今回のテーマである現代を反映させた服作りとして力を入れたのは、素材の変化である。ヴァレンティノの特徴ともいえるボリューミーなフェザーやファーを取り入れたデザインを新しい素材で表現。エキゾチックレザーやファー、フェザーのように見える素材の数々は、シルクオーガンシーなどテキスタイルや手作業でカットされたスパンコールを用いて制作した。このフォレストグリーンのコートは、シルク素材のトレンチに鱗のような刺繍を施し、本物のようなクロコダイルの模様を作り出したのだ。これまでの歴史を刻んできた素材を、技術が進歩した現代に合わせてアップデートし新しい現実(時代)が生まれる。その瞬間を証明したともいえる新しい感動が随所に散りばめられていた。「人工物や信じがたいものがあふれる現代。しかしそこにリアルがあります。サロンが内包する儚さの中では触れることのできる現実が生み出されています」
そしてショー全体を通して印象的だったのは色彩豊かなカラーリングだ。今回はすべてのアイテムを個別に考えることで組み合わせの再考を図った。直感的に交わったカラーたちは必然性を感じるように馴染みながらも、刺激的な感情も私たちに突きつけてくる。ボリュームのあるフリルドレスや計算し尽くされた上品なスリットスカートとワークジャケットのコンビも、ファンタジーと実用性がミックスされ、現代を反映した表現であると見て取れる。
シンプルを極め卓越した技術力、一つ一つ手作業で形に仕上げたテキスタイル、色彩の調和──その制作過程に魅力されたことは間違いなく、さらに私たちが生きるこの時代を客観的に捉えて反映していく彼のファッションへの愛に拍手を贈りたい。
Photos: Gorunway.com Text: Saki Shibata