古い占いを読み返すとき、人は神の視点になれる。我が身に起きたことを、全部知っているのだから。好きな占い師の去年の予言を再読して答え合わせをしてから、今年の運勢に目を通す人も多いだろう。
さて今回私が読み返したのは、2000年4月号の色占い特集である。Y2Kの元日午前0時に全世界でコンピューターが誤作動がするとか、その前年にはノストラダムスの大予言で世界が滅亡するとか言われていたが、いずれもことなきを得て、平凡な日常が繰り返された。拍子抜けしつつも、いよいよ来年は世紀またぎという大イベントを控えて、お祭り気分だった00年の春。ファッションの世界は20世紀まとめて蔵出しでなんでもありの様相を呈しており、巷ではカラーセラピーなるものが大流行。今やすっかりおなじみとなったファッションと占いの蜜月関係の萌芽も見られる。
私も1998年ごろだったか、先輩の紹介かなんかで表参道にあるカラーセラピストのオフィスに行き、色診断を受けた。これは占いじゃなくて「自分に似合う色の系統を知る」ことが目的だったが、傲慢な若者だった私はセラピストの診断を真面目に聞かず、メタリックシルバーのパイソン柄タイトミニドレスにアイスブルーのサテンのシャツを合わせるなど、保守的な女子像を求められる職種に全くそぐわない奇天烈な出で立ちで通勤していた。
愛読していたヴォーグ ニッポンの00年4月号「天麗色占い特集」には、「7月生まれのあなたの今年の色は、ライトパープル。結婚へと焦ると墓穴を掘りがち。あくまで機が熟するのを待つ姿勢を」とある。この年の11月に私は3年あまり同棲した男性と結婚している。いっちょ結婚でもするかと思いついたのは確か春過ぎで、彼と夫婦になりたいからというより、結婚式と披露宴が面白そうだからやってみたいというのが直接の動機だった。色占いの警告が全く生かされていない。ちゃんと読んだのだろうか。実際、3年後の第一子出産後には伴侶が私のメンタルに大打撃を与える事件をやらかしたので、色占いはなかなかナイスな助言をしていたと言える。しかし、あのときうっかり結婚していなければ可愛い息子たちには出会えなかったので、占いを無視して良かったとも言える。未来を知りたいときも過去を検証するときも、占いも人生も、結局人は読みたいように読むのだ。
運のいい人は、そもそも自分は運がいいと思っているという 話を聞いたことがある。確かに、起きたことを自分に都合よく 解釈する自由は誰にでもある。財布を落としたのは経済的損失 という点では不運だが、これで厄を落として大きな事故に遭う のを避けられたに違いないと思えば幸運である。うかつな発言で上司を怒らせたのは不運だが、これで転職の踏ん切りがつい たと思えば天の導きとなる。なんでも自分に都合よく考える習 慣は、むしろ思い通りにならない人生を甘受し、逆境への順応 性を高めるとも言えよう。「占いは、いいことしか信じない」というタイプの人は、案外素直なのではないかと思う。 古い迷信と決別して科学を発展させるのが進歩だと信じられ ている一方で、今でもみんな占いが大好きだ。だって、生きるのは不安だから。 24 年前はグローバル化とネット社会の入り口で「溶けていく世界、つながる人々」のワクワクと不安にさら されていた私たちが、今はグローバル化の反動で「分断と排 除」の時代を生きている。
行きすぎた新自由主義の弊害で広がる格差、AIの進化によって排除される生身の人間。世界をつ ないだインターネットはすでに人々の生活の場なのに、暴力と偽情報が野放しだ。私たちって、本当に進歩しているんだろう か。何かにすがって安心したい気持ちは、亀の甲羅を焼いて吉 凶を占ったころと、そんなに変わらない気がする。00 年当時の読者は、特集で見たラッキーカラーのアイテムを求めてデパートに走っただろう。今は占いとお買い物はネットで直結している。私はヴォーグ ジャパンがSNSに放った「一 粒万倍日にお財布を新調せよ」という投稿にまんまとのっかって、今年財布を買い替えた。験担ぎショッピングを当てこんだ 海外のハイブランドが自ら販促キャンペーンをする時代。縁起 のいい日にクリックして買った財布は、幸運をもたらすと信じ られている。 00 年4月号でネットショッピングの特集が組まれ てからおよそ7カ月後、日本にAmazonが上陸した。私は 03 年の出産後からネットショップの利用を始め、今ではこれなしでは生活できない。だけど届いた商品の箱を開けては畳むのが 面倒で、「人気タレントである夫宛ての大量の贈り物を開封する生活が嫌になって離婚した有名モデルの気持ちがわかるわ」とカッター片手にため息をついている。CO₂排出と労働者の 権利を考えると、安易な利用は控えねばと思うのだけど。 また新しい年が始まった。明日はいつも予測できない。どうかあなたの今年の仕事と人間関係とお買い物が、うれしい想定外に満ちていますように!
Photos: Craig McDean (cover), Shinsuke Kojima (magazine) Model: Angela Lindvall Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai
数年のブランクからカムバックを遂げ今再び注目を集めるダリア・ウェーボウィ。当時トップモデルとして人気絶頂だった彼女がカバーを飾った2010年1月号をピックアップ。トレンド取材とは別角度でコレクションを追うヴォーグジャパン恒例企画のテーマは「パリ・コレ Twitter」だ。SNSが浸透し始めた当時から、情報の価値やそれを扱うメディアの役割は大きく変化している。
