2002年からパーティーはどう変わった?
直球のタイトルである。「ザ・パーティー・アンド・ザ・セレブ」、ちょっと冗談みたいだ。でも当時は本当に冗談みたいなスケジュールで夜な夜なパーティーが開かれていたらしい。ヴォーグ取材班の実録によると、2002年9月にはなんとその数、ひと月で計23日。おかしい、世はとっくに不景気になっていたはずだ。しかし当時、東京の一等地には外資のハイブランドがビルを建てまくっていたのである。それがめでたく完成して続々オープンしたのが00年代前半。02年も、連日のオープニングやらデザイナー来日やら新作発表やらで、大変なパーティー三昧であった。セレブは連日出動でさぞや忙しかったろう、と思ったらこの連載の担当編集者・真由美さんも当時は新入社員ながら連日連夜のパーティーパトロールで、会場に生きてるゾウが出てくるわ目の前にオスカー女優がいるわの鮮烈な記憶が残っているそうだ。入社早々そんな世界を見せられたら、METガラか英国のロイヤルウエディングにでも呼ばれない限り、晴れの場で滅多なことでは動じない肝っ玉を涵養できそうである。
ちなみに当時、日本でヴォーグをはじめとした女性誌のパーティー写真を席巻していた3大セレブは、SAKURA(モデル/コスメジャーナリスト)、高見恭子(タレント/エッセイスト)、安藤和津(エッセイスト/コメンテーター)である。誌面を見ると凄まじい露出量で、影武者がいるのではないかと思うほどの出席率だ。00年代、私は高見さんや安藤さんと公私で遭遇する機会があった。近所の桜の名所でも、確かに高見さんとお仲間たちのお花見は野外にもかかわらず、やっぱり何だかおしゃれであった。そして安藤和津さんは中高の大先輩ということもありスタジオでお声をかけていただくこともあったが、華麗でありながら実に気さくなお人柄である。
両氏に共通するのは、離れたところからも視認性の高い、生来のパーティーオーラであろうか。薄暗い木陰だろうと狭苦しいセット裏だろうと、自家発電の華やかなバイブスが常に御身からあふれ出ている。見る人のときめきと憧れを掻き立てる波動が広範囲に放たれているのだ。そして、誰にでも親しげに話しかける朗らかさ。人見知りの激しい子どもだった私なぞは、見知らぬ人の多い場所では気後れして、馴染みある三多摩地域の湿った落ち葉の下に逃げこみたくなる。両氏のいかにも堂々と晴れの場慣れしたパーティーショットには「この世は知り合いだらけ!」というくつろぎと自信があふれている。
ちなみにお二人は、ご本人の知名度はもちろんのこと、親も著名人である。高見恭子さんの父は作家の高見順、安藤和津さんは祖父が首相を務めた犬養毅、父も大臣を務めた政治家だ。このところアメリカでは、縁故の特権に無自覚な2世セレブに対して“ネポベイビー”批判が起きているが、古今東西パーティーには“〇〇さんのお身内”は欠かせない存在だ。昨日や今日脚光を浴びた人ばかりではなく、2世3世がいてこそ、場の輝きの厚みが増すというものだろう。
かつてファッション業界では、今っぽい華やぎを放ってくれる人々に、いわば豪華な社交場の無料入場券としてパーティーの招待状を送っていた。しかしインスタグラムなどのSNSがこの世に出現してから、ガラリと状況が変わったという。今ではパーティーの主催者が、莫大なフォロワー数を誇るインフルエンサーや著名人に高額の出演料を支払って招待するようになった。これまで顔を見せなかったような大物が、ブランドのパーティーに登場して話題になることもある。ブランドはゲストを競い合い、「どうだ! うちはこの人を呼んだぞ!」「うちは彼女だ!」と、さながらセレブリティジャンケンの様相を呈しているという。フォロワー数を急速に伸ばしてハイブランドのパーティーの常連ゲストとなり、一気にグローバルセレブへと駆け上がる人もいる。昔はパーティーでしか見かけない有名人や社交好きな常連が集まる場所だったのが、今や巨大なお金が動くインフルエンサービジネスの戦場となったのだ。数は力なり、である。
しかし胸に手を当てて深呼吸してみよう。本当にくつろげる、穏やかなパーティーとはなんだろうか。そう、それは茶……。茶道である。2002年12月号では、若手茶道家のホープとして、武者小路千家の千方可(現・宗屋)氏がフィーチャーされている。茶とはまさに古来のおもてなし。抹茶を味わうだけでなく茶碗などの道具に着物に建築にと際限なく広がる総合芸術で、本気でのめりこむと身上を潰す。だが方可氏は、現代に合ったリビングでの茶会など新たな取り組みを始めて注目された。SNS時代を生きる現・千宗屋氏はインスタグラムで洗練された写真を多数披露し、瞬く間に当代一の人気者に。今ではご愛息の写真を盛んにアップしてメロメロである。人はいつの時代も、見たい、見られたい、楽しみたい。願わくは、それが豊かな他者とのつながりを育みますように。
Photos: Shinsuke Kojima Text: Keiko Kojima
2000年12月号の伝説のルーズソックス姿、世界の第一線での活躍、育児のための休業宣言、そして復活……彼女がアイコンであり続ける理由を、小島慶子が愛を込めて語る。

タレント、エッセイスト、ラジオパーソナリティとして活躍する小島慶子が振り返るヴォーグ ジャパンのアーカイブ。今回は4月号のカバーテーマ「ベスト・ベット」にちなみ、2003年の「Buy Now!」をプレイバック。
