みなさん、こんにちは。
今年も暑かった夏があっという間に終わってしまいますね。
前回の西表島の海に引き続き、今日は緑がうっそうと生い茂るマングローブの林へみなさんをお連れしたいと思います。
「起きは三文の徳」とはよく言ったもので、西表島に滞在中は早起きをし、美しい景色をたくさん見ることができました。
私はかなり夜型人間としてのキャリアが長いため、早起きはとても苦手なのですが、旅先だと、スッーと起きれちゃうのが旅の不思議です。
さて、その日は、早朝まだ陽が出る前の5時過ぎにウォーターマンさんにピックアップいただき、沖縄県内で最も長い川「浦内川」へ。
浦内川の河口付近には日本最大のマングローブ林があり、河口から支流へ向かってSUPで漕いでいきます。
夜明け前の浦内川は静寂そのもの
川の水面は、まるで川の両側から水の表面をピーンと引っ張ったように美しく、その物静かな様子に息を呑むばかり。
その澄んだ水にパドルを入れると、スーっと音をたて、ボードが前に進み、そしてボードの先端が水面にあたるたびにカラン、カランと心地よい音を奏でます。
両岸に生茂るマングローブ、そしてその奥に佇む西表の原生林からは、目覚めた鳥たちのさえずり声が聞こえ、時折アカショウビンの高く澄んだ「キョロロー」という鳴き声がマングローブの林に響き渡ります。
支流に入ってみましょう。
マングローブに覆われた夜明けの支流は、闇と光とが交差する時間。
ジャングルをクルーズしているようで、こちらもワクワクとドキドキが入り混じります。
マングローブの支流を漕いでいると、時々うっとりとするような香りがふんわりと漂ってきます。
その正体はこのサガリバナ。
西表島では梅雨明けの6月下旬〜7月中旬頃に幻の花と言われるサガリバナを見ることができます。
私が訪れたのは7月下旬でピークは過ぎていたのですが、支流を漕いでいると、所々でチューベローズやプルメリアそしてナイトジャスミンの香りに似た、サガリバナの甘く官能的な香りがふわっとするのです。
このサガリバナ、夜に咲いて翌朝散るという儚さがあり、これもまた早朝のマングローブ林だからこそ体験できるものです。
そして夜が明け、支流に朝がやってきました。
マングローブのトンネルには、木々の間からやわらかい朝の日がさし、まだ暗い水面には光と影の美しいコントラストが現れてきます。
目の前で起きる自然の色彩の変化、小鳥たちのさえずり声、そしてフレッシュなマングローブ林と時々漂う甘美なサガリバナの香り。
その全てがシンフォニーとなり、そこにいる人たちだけを包み込んでいくという、なんとも贅沢な時間です。
しばしボードに座ってその空間と時間を堪能した後、再びボードに立ちパドルを漕いで来た道(?)を戻っていきます。
そして、マングローブのトンネルを抜けると……
そこに現れたのは、青く澄んだ空とそれを鏡のようにうつしだす川のアート。
さらに日がのぼり刻々と時間が経つに連れ、原生林の暗闇に光が差し、濃い緑から明るい緑へと変化をしていきます。
このマングローブ林で光の演出を見ていると、自然と頭の中でラヴェルの『ボレロ』が鳴り響きます。
最初から最後まで、シンプルなテンポとリズムが繰り返され、少しずつ音量と響きが大きくなっていくあの感じ。
まさにその曲の構成のように、夜明け前の静かなマングローブ林は日の出とともに徐々に表情をダイナミックにかつ美しく、最大の盛り上がりを見せていくのです。
これこそ、プリミティブラグジュアリー。
自然が奏でる光と音の演出が創り出す、美しい感動がそこにいる人たちを包み込んでいくのです。
シンプルに、そして、美しい。
これは、西表島でぜひ体験していただきたい、ハッピーデスティネーションです。
著者:Darjeeling Kozue(ダージリン コズエ)
トラベル誌、女性誌の編集者を経て、現在は外資系企業でコミュニケーション ディレクターとしてイベントやバズクリエイションを手がける。隙あらば旅。ラグジュアリーなリゾートホテルから、アドベンチャラスな秘境まで。業界でも有名な旅のエキスパートだ。