昔からずっと、自分は晩婚になる気がしていた。まずキャリアに専念すると決めていて、そうすると必然的に結婚も子どもも遅くなり、ある程度の年齢になってから両方同時になんてこともあるだろうと思っていた。私も家族も、結婚と妊娠の順序は気にしていなかったのでなおさら。
なので46歳での婚約はある意味、想定の範囲内だった。そして挙式する前に体外受精の治療を始めたため、妊婦として晴れの日を迎える可能性も考慮して結婚式をプランニングしなければならなかった。だが、昔からあらゆるシナリオを想像してきた私は、ウエディングドレスはもちろん、マタニティ・ウエディングドレスもどんなものが着たいかわかっていた。
もう何十年も前から、私の理想の1着はグッチ(GUCCI)の2002年春夏コレクションのラストを飾ったドレスだ。適度なリラックス感とモデルの柔らかいウェーブヘアも好きで、自分のサイズはおろか、見つかる見込みすら低いことは承知の上で、ヴィンテージファッションに精通しているリン・イエーガーとギャブ・ワラーにドレス探しを依頼した。
幸運にも、私はサンフランシスコのベイエリアでセレクトショップ「Hero Shop」を経営しているので、人よりもデザイナーズブランドのルックが入手しやすい。仕事柄、いろいろなブランドを見てまわる。
そして2024年春夏コレクションを買い付けるためにパリに行ったとき、ザ・ロウ(THE ROW)の「Madleine」ドレスに出会った。バストに結び目のドレープディテールが施された美しいコットンメッシュ製の1枚は、シルエットもグッチのドレスと同じストラップレスなコラムタイプ。ビーチ帰りにタオルを体に巻くときのあのリラックスした感じからインスパイアされているのも気に入った。また、仮に体型が変わってもフィットする。迷うことなく、6月に予定していた結婚式の数週間前に届くように注文した。
挙式2カ月前に妊娠が発覚。本格的に始まったマタニティ用ドレス探し
しかし、万が一式に間に合わなかったときのことを考えると、ザ・ロウのドレスにすべてを賭けるのはあまりにもリスキーだと思った。なのでHero Shopでアッターゼ(ATTERSEE)のトランクショーを開催したとき、同ブランドのクリーム色の「セシリー」ジャケットとテーラードパンツを試着した。
ジャケットはデコルテを引き立ててくれるネックラインで、ボトムはワイドレッグでどことなくモダン。着てみると洗練されていて、程よく型破りなルックだと感じた。そしてどちらのアイテムもこの先何年も使えると思った。ジャケットはデニムに合わせてディナーなどに着ていけるし、パンツはアイボリーのカシミアセーターに合わせれば、イベント向きのコーデになる。さらに、アートアドバイザーのバーバラ・グッゲンハイムが同じようなアッターゼのパンツスタイルを自身の結婚式で纏ったと知り、そのスマートな着こなしを見てすっかりスーツの気になった。
4月、体外受精が無事に成功した知らせを受けた。となると式を挙げる頃には妊娠13週目に入っている。お腹はまだそこまで目立っていないだろう。ウエストのくびれは少しなくなり、バストも大きくなっているだろうが、体型はおそらくまだそこまで劇的に変化していない。だが、アッターゼのスーツは念のため毎週試着し、フィット感をチェックした。
5月中旬の時点では、まだパンツのボタンは留められて、胸が膨らみ始めていたのでジャケットはバスト周りを大きくしなければならなかったが、ほんの少しの調整で済んだ。しかし、5月下旬になると体型は明らかに変化し、したがってスーツの着用感も変わった。正面から見るとまだスラッとしていたが、横から見ると寸胴に見えた。ウエスト周りはバストと同じくらいの太さになっていたものの、お腹自体はまだ目立たない微妙な感じだ。おまけに季節的にも暑くなってきた。30℃を超える暑さの中、バージンウールとシルクの長袖スーツを着るのは現実的ではないと感じ始め、少し焦った。
この時点ではまだザ・ロウのドレスが届いていなかったため、もしものときのためにネッタポルテやマッチズで白いドレスを探したが、グッとくるものはなかった。リハーサルディナー用にHero Shopでも扱っていたケイト(KHAITE)の「Sicily」ドレスと、ウェルカムディナー用にハイスポーツ(HIGH SPORT)の「Petra」スカートを購入した。ドレスはゆったりとしたキャミソールタイプで、ギンガムチェック柄のスカートはウエストがゴム。この2着を手に入れただけで少し安心できた。
幸いなことに、ザ・ロウのドレスはギリギリ間に合った。ボディスは思っていた通りドレープが効いていて、着心地がよく、腹部に負担がかからない。バストラインはゆるめる必要があったが、お直しはすぐに、難なく終わった。
当日、私は完全にリラックスした状態で式に臨めた。自分を無理にドレスに合わせるのではなく、自分にあったドレスを選んだおかげで、自由に動き回ることができ、のびのびと楽しめた。理想のマタニティ・ウエディングドレスを着て迎えた晴れの日は、幸せな1日だった。
Text: Emily Holt Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
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