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「母になって初の映画が自由をくれた」──ルーニー・マーラが絶賛する理想の製作現場【『ウーマン・トーキング 私たちの選択』スペシャルインタビュー vol.2】

撮影と子育ての両立に悩むのはハリウッド俳優も同じだ。そんななか、「ほかの映画では、こんなに理想的で、至れり尽くせりの環境は望めないことはわかっています」──主演俳優のひとり、ルーニー・マーラにそう言わしめた『ウーマン・トーキング』の理想的な仕事環境とは?

「100%自分らしくいられました」──ルーニー・マーラ

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』でルーニー・マーラが見せる演技には温かみがあふれている。「これまで見せてきた回数を全部足した以上に、えくぼを見せるシーンが多かったのは間違いないですね。笑いや喜びは、これまで頻繁に見せてきた感情とは言えないですから」と、彼女は笑いながら打ち明ける。「当時の私の個人的な状況もあって、それまでなかったような輝きが生まれていたはずです」。さらに彼女は、劇中で、女性たちを落ち着かせる役割も果たしている。ルーニーが演じるオーナは、ほかの女性たちと比べると多少ではあるが教育を受けていて、村に留まって男性たちと戦うか、未知の世界に飛び出していくかをめぐる、女性たちの間の意見の相違を穏やかに仲裁していく(さらにオーナはこのとき、妊娠していた。つまり女性たちの決断は、これから生まれてくる子の生き方も左右することになるわけだ)。

ルーニーは『ウーマン・トーキング』という作品を、自身が母になって初の映画だと捉えている。3年以上のブランクを経て、彼女は妊娠中にギレルモ・デル・トロ監督の『ナイトメア・アリー』の撮影に臨んだ。撮影はコロナ禍のあおりを受けていったん中止となったが、撮影を再開した20年の秋に、ルーニーも出産を経て現場に復帰した。このとき、彼女の息子、リヴァー(パートナーであるホアキン・フェニックスの兄で、若くして世を去った俳優、リヴァー・フェニックスにちなんで名付けられた)はまだ生後2カ月だった。「もう何も思い出せません。本当に自分は現場にいたのだろうか? と疑わしくなるくらいです」と彼女はこの撮影を振り返る。そして翌年、彼女はリヴァーを連れて、トロントでの『ウーマン・トーキング』の撮影に臨んだ。仕事のために、毎日息子と離れることに恐怖を覚えていたルーニーだが、監督のサラ・ポーリーが率いる、キャストに十分配慮した製作スケジュールが助けになったという。

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パートナー、ホアキン・フェニックスのアイデアも活用

自身が母になった直後に妊娠中のオーナを演じたルーニー・マーラは、共演者にとって誰もが認めるアンカーだったと、サラ・ポーリー監督は証言する。Photo: © 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved

Michael Gibson

今回の撮影現場では、ルーニーも警戒せずに演技に集中できたそうだ。サラは彼女にとって実に13年ぶりの女性の監督で、通算でもわずか4人目だった。また監督に加え、実力派の女性の俳優がずらりとそろう、たぐいまれなアンサンブルの力によって、彼女はアーティストとして新たな自由を得た。「私たちはみな、100%自分らしくいられました」と彼女は撮影を振り返る。そうした環境に後押しされ、彼女はキャストやスタッフすべての仲裁者のような役割を果たすことができたという。サラも「彼女が現場にいてくれたことで、誰もが認めるアンカーのような役割を果たしてくれました。実にさりげなく、場をひとつにまとめるのです」と、ルーニーの役割を評価する。さらには現場にブーブークッションを持ち込み、(「ブー」という大音響とともに)緊張感を和らげ、笑いが必要なシーンに心からの笑顔をつくり出したという。彼女はこれを「これはホアキンからもらったアイデア」だという。「どこからともなく、ものすごく品のないおならの音がして、私はこれはきっと、撮影クルーの誰かがやったのだと信じて疑わなかったんですよ」と、ルーニーが演じるオーナの知り合い、メジャル役のミシェル・マクラウドは振り返る。「笑いすぎて漏らすかと思うほどでした」

テルライド映画祭のラウンドテーブルの席では、ルーニーは取材に応じた関係者の中で誰よりも口数が少なかったが、共演者から浴びせられる賞賛の言葉に力を得た様子だった。ちなみに15年、『キャロル』でこの映画祭に出席した際に、ルーニーは功労賞を獲得している。そして今回、共演した仲間たちとともに席に着いたルーニーは、『キャロル』のアメリカでのプレミアの際には、現場に足を運んだ女性キャストは自分ひとりだったことを回想する(こうしたケースは、ほかの出演作でもよくあることだったという)。さらに7年前の功労賞受賞は「あまりに早すぎた」と言い、今でも「この賞に値しない」ことを申し訳なく思っていると打ち明けた。『キャロル』や彼女の名を知らしめた『ドラゴン・タトゥーの女』(11年)をはじめ(この2本ではそれぞれアカデミー賞にノミネートされている)、そのキャリアを通じて、ルーニーは重厚な作品の顔を務めることの重荷を、身をもって知っている。また、それと同時に、一躍セレブリティの仲間入りをしたことに居心地の悪さを覚えていた。『ドラゴン・タトゥーの女』のプロモーションでは、10年のリブート版『エルム街の悪夢』に出たことを後悔しているという発言が、悪意ある形で盛んに報じられた。「あれは本当にひどいバッシングでした」と彼女は振り返る。「『感謝の気持ちが足りない』とかなんとか、散々に言われて。でもこう思ったんです。『ちょっと待って、とてもいい環境とは言えない仕事なら、それを率直に認めて、口に出したっていいはずじゃないの?』と。実際、あの経験に感謝しているんです。自分のキャリアに求めて“いない”ものが何なのか気づかせてくれたんですから」

今作がマーラに圧倒的な喜びをもたらした理由

さらに、型にはまった役ばかりをオファーされるという問題もあった。『ドラゴン・タトゥーの女』では、監督のデヴィッド・フィンチャーが、主役のリスベット・サランデルを演じるにはルーニーが「イノセント」すぎると、配役に難色を示していた。「監督は私がサランデルのセリフを読むことすら嫌がっていたので、テープテストを受けさせてくださいと、かなり強引に頼み込みました」と彼女は証言する。そうしてこの役を見事に射止めたものの、その後は逆に、サランデルと同じような、タフな女性役のオファーが続き、トッド・ヘインズ監督が『キャロル』で彼女を起用するまで、この状況から抜け出せなかった。「どの映画で見ても、話自体は全く違うのに、彼女の演技にはうそ偽りのない、真っすぐさが表れていました」とヘインズ監督は、ルーニーを高く評価していた。だが今度はまた、『ドラゴン・タトゥーの女』で主役の座を勝ち取るための障壁となった、「何も知らない無垢な女の子」の役を映画業界から押し付けられることになった。「同じことの繰り返しなんだと思います」と彼女は告白する。

カメラが回っている時も止まっている時も、『ウーマン・トーキング』の撮影現場がルーニーにこれほどの喜びをもたらしたのは、今挙げたような経験のせいかもしれない。この作品で彼女が演じたオーナは、まさに型破りの、複雑で予想を裏切る気質を備えた女性だ。ルーニーはサラと、母親とは? というテーマで突っ込んだ議論を重ね、これが演技、そして親となった彼女自身にも大きな収穫となった。「ほかの映画では、こんなに理想的で、至れり尽くせりの環境は望めないことはわかっています」とルーニーは言う。「プロモーションのときでさえ、私たちは“一座”なんです。ひとりぼっちで心細くなることなんてありません」

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(6月2日公開) サラ・ポーリー監督

Photos: Sebastian Kim Text: David Canfield Translation: Tomoko Nagasawa