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安らぎと力強さ。「ウッディ」と「レザー」のフレグランスで纏う、静かなエネルギー

ここ数年、その安らぎとリラックスをもたらす香りとして大躍進したウッディと、パワフルさと個性を有するレザーのフレグランスに着目。香りの魅力を知ることで、癒しと洗練の空気を操って。※ジェンダーレス化が進む香水のトレンドの背景や主要な7つのファセットについて解説。「プロが教える、フレグランスの選び方ガイド」の記事もチェック。
安らぎと力強さ。「ウッディ」と「レザー」のフレグランスで纏う、静かなエネルギー
Photo: Hiroki Watanabe(TRON)

ウッディ いにしえより香水に用いられ、今、“自分のための香り”として大流行

ミステリアスな側面を持ちながら、静かなエネルギーを宿すウッディ。「ここ数年、急激に人気を得ています。森の中に足を踏み入れたような感覚を与え、深呼吸したくなるような香りで、気持ちをゆったりと解放してくれるのも魅力」と、香りの専門家でありフレグランススクール「サンキエムソンス ジャポン」の代表を務める小泉祐貴子さんは解説する。古くは1950年代から60年代にカルヴェンCARVEN)とゲランGUERLAIN)がそれぞれ「ベチバー」という名の香水を発表。以降、メンズフレグランスで高い人気を得てきたウッディだが、近年はより軽やかでジェンダーレスな表現に変化してきた。

ウッディのもつ香りの表現力

ウッディは、サンダルウッドやシダーウッド、オークモス、ベチバー、パチョリなどで構成されるオーセンティックなファセット。森を感じさせる調和のとれた香りは、大きく手を広げて包み込んでくれるかのような安心感と癒しをもたらしてくれる。「もともとは男性の香りに使われてきたウッディですが、最近は爽やかで清潔感のあるウッディが増えてきてジェンダーを超え愛されています。ウッディ フローラルなど女性らしさを讃えた香りも次々と誕生」と小泉さん。

ベルベットを思わせるゼラニウムの葉をこすった時に生じる特徴的な強い芳香がイメージソース。調香師の“マスキュリン”と表現するゼラニウムの二面性を引き出し、パワフルにアロマティックなベースをグリーンのエネルギーで描く。緑のシャワーに水気を含んだ土を想わせるスパイスをプラス。生命力に満ちた、フレッシュ・ベジタブル・ウッディのアコード。ロー レヴェ ウベール 100ml ¥21,450/シスレージャパン(03-5771-6217)

2022年に限定で発売した、ジェンダーフリーの人気作が装いを新たに登場。スペイン語で“聖なる木”を意味し、浄化の儀式にも用いられる香木パロ サントに、セダーウッドの2つの木の香りを組み合わせ、洗練のウッディノートが艶やかに香る。ベチバー、アンブロックス®、カルダモンにシトラスノートの爽やかさを与え、静けさを内包。個性をモダンに彩る。ラ コレクション パルティキュリエ ド ジバンシイ MMW 100ml ¥36,850/パルファム ジバンシイ〔LVMHフレグランスブランズ〕(03-3264-3941)

神秘的でありながらも包み込むように温かく、滋味深い木の香り。その重厚さに女性性を見出した、ミステリアスで気高いバイオレットのジュース。60%ものシダーウッドで占めたウッディ・フルーティの香りに、プラムとフローラルノートが寄り添う。1992年発表の、伝説の“木のフェミニティ”は、多くの植物を育むアトラス山脈のシダーウッドが甘やかに香り立つ。フェミニテデュボワ オードパルファム 100ml ¥26,950/セルジュ・ルタンス(0120-500-824)

創業者アン・ドゥムルメステールによる、ブランド初のフレグランス。活動の30年間に確立したビジョンを投影した。デザイナーのイニシャルと、表現の本質とするA scent(香り)、A substance(物質)A soul(精神)を骨格に構成。スパイシーなトップノートからジャスミンとローズ・ド・メ(5月のバラ)が咲き乱れるロマンティックなムードへ。バーチオイルの包むレザーが生み出す、官能性に満ち足りたコントラスト。A 75ml ¥74,800(2023年11月22日発売)/アンドゥムルメステール(エムインク 03-6721-0406)


レザー 壮烈にして大胆、スモーキーな香りが力強く響く

グラースの調香師と手袋のメーカーによって作られたことに始まる、レザーノート。小泉さんによると「ロシア軍のために作られた革のブーツの端切れをアルコールに浸したことによって生まれたとされています。革を白樺の樹皮でなめすことによって生じる香りに由来します」という。1920年から60年にトレンドをリードしたファセットで、男性用にも女性用にも活用されてきた。「レザーノートにはシベット、カストリウム、ムスクといったアニマルノートのほか、白樺やシスト、タバコなどが含まれます」

レザーのもつ香りの表現力

「わずかにスモーキーでアニマリックな香り。男女問わず、洗練された大人の格好良さを表現できるのが魅力です。ドライにも、スエードのように湿ったニュアンスにも転ばせられるのも面白さ」と小泉さん。荒々しくも風変わりな香りで個性を際立たせ、圧倒的な存在感を感じさせる。「特に、スエードのような滑らかな質感をもつレザーの表現は、エレガントでスタイリッシュな男性に似合う、クセになる香り」。ラブダナムやバーチ、タバコなどをキーとする香料が織り成す香りが魂まで響かせる。

60年代から続くブランドのシグニチャーのレザー。クチュールを支える、最も刺激的なアイコンを思わせるウッディレザーに仕立てるのは、希少なウードとヴァイオレットリーフ。まろやかに響かせながら、サンダルウッドやパチュリなどのウッディノートが神秘的な表情を宿す。ル ヴェスティエール デ パルファム キュイール オーデパルファム 75ml ¥26,400、125ml ¥38,500(店舗限定品)/イヴ・サンローラン・ボーテ(0120-526-333)

調香師、ソニア・コンスタンがこれまで旅した世界の地で触れた感動を香りに投影。旅のエッセンスで満たす、香りの詩。オレンジの花を効かせたデーツが繊細に彩り、レザーやスェードが穏やかに香る。イスラエルとエジプトの間を行く、旅の途中で出合ったオレンジブロッサムとデーツの香り。まるで砂漠で見る蜃気楼が探検家たちの心を捉えるように軽快な音色を紡ぐ。カムシン オードパルファン 100ml ¥33,000/エラケイ(フォルテ 0422-22-7331)

話を聞いたのは……
小泉祐貴子
香りデザイナー。サンキエムソンス ジャポン代表。慶應義塾大学理工学部卒業後、資生堂、香料会社フィルメニッヒを経て、2014年にセントスケープ・デザインスタジオを設立。コンサルティング、香り環境デザイン、香水のプロデュースなどを幅広く手掛ける。近著に『英国王立園芸協会 香り植物図鑑』(Stephen Lacey著 小泉祐貴子訳/柊風舎 刊)。
https://www.cinquiemesens.jp

Text: Akira Watanabe Editor: Rieko Kosai