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セルフプレジャーから膣筋トレまで。筋肉を味方に、エロスな心身を継続。【100年時代のエロス考察 Part.2】

閉経を迎えたら、女性ホルモンがほぼ分泌されなくなるのは事実。けれど、だからといって「女が終わってしまう」と考えるのは時期尚早。「女性ホルモンの分泌がなくても、骨と筋肉を上手に働かせれば女性の魅力は保てます」と語るフィトテラピストの森田敦子さんと、日本の性差医療のパイオニア、対馬ルリ子先生に、変化するホルモンとの付き合い方を聞いた。
アンチエイジングホルモンは、骨と筋肉から。

Netflixドラマ「ハリウッド」(2020)より。マダムになってもアクティブにセックスを楽しむエイヴィスの姿に、「前向きになれる!」という女性の意見が多数。 Photo: ©Netflix/Courtesy Everett Collection

パリ13大学で医学としてのフィトテラピーを学び、デリケートゾーンケアなど女性の健康を支える情報を発信し続けている森田敦子さん。ホルモンの変化と上手に付き合うコツを次のように語る。

「更年期だから仕方ないとか、閉経したから終わったなど考えているとしたらとんでもない! もちろん女性ホルモンの分泌量は激減しますが、アンチエイジングホルモンは骨や筋肉からも10種類ほど分泌されます。たとえば骨から分泌されるオステオカルシンというホルモンは、脳を若々しく保ってくれる存在。また、筋肉から分泌されるマイオカインというホルモン様物質も、臓器の働きを活性化してくれたり免疫に関係しています。人間の体ってよくできているんですよ」

そう言われるとやみくもに鍛えたくなるが、慌てて運動する必要はないのだそう。たとえば青竹踏み、ボール踏みやかかとの上げ下げなどをするだけでも、ふくらはぎやそけい部の筋肉が鍛えられることに。また、床の拭き掃除などは大きなお尻の筋肉を鍛えることにつながるので、そういった日常の動作で整えるのがお勧めだそう。

2割の女性が悩む「子宮脱」とは。

子宮を支える筋肉を日頃から意識をするのが重要だそう。Photo: Andriy Bezuglov/123RF

意識して筋肉を使うメリットは、アンチエイジングホルモン分泌に留まらない。現代日本ではなんと2割の女性が子宮脱(子宮を支える筋肉が衰えて下がってくること)に悩んでいるのだとか。

「肌のたるみと一緒で、年齢を重ねるとどうしても子宮などの臓器は下がってきます。しかも、『体を鍛えているから大丈夫』とは言えないのが難しいところ。腹筋をしっかり鍛えている方は腹圧が上がるため、むしろ内臓に圧がかかって子宮脱になる可能性が大きいんです」(森田さん)

症状が重ければ子宮摘出にも至るというが、人生100年と思えば他人事ではない。それを防ぐためには、“内臓を支えるハンモック”とも呼ばれる骨盤底筋群を鍛えるのが有効だ。といっても難しいことではなく、日常生活で「座る時に膝を閉じて内腿を締めるクセをつける」といった簡単なことでOK。また、日常の所作に気をつけるだけでもずいぶん違うそう。

「ものの置き方ひとつ、ドアの閉め方ひとつも、女優さんにでもなったつもりでしなやかな動作を心がける。そうすると、たとえば床を拭くしぐさも自然とヨガの“猫のポーズ”になるんですよ。それが、骨盤底筋群だけでなく、全身を保っていく秘訣だと思います」(森田さん)

ヨガの猫のポーズを、今一度おさらいするのも良さそうだ。Photo: Roman Samborskyi/123RF

「女性のお守り」ホルモンは、生涯補充する時代へ。

〈左〉日本で入手可能なピルはおよそ8種類。〈右〉塗布タイプのル・エストロジェル。ほか、飲み薬や貼り薬など多彩な選択肢が。

女性ホルモンを「女性の体のお守り」と語るのは、自身も出産やホルモン補充療法を経験し、しなやかに生きている対馬ルリ子先生。

「たとえば心血管系の疾患や骨粗しょう症のリスクは、女性の方が小さいもの。骨や関節、筋肉は女性ホルモンが守ってくれていると言えるんですよ。閉経を迎えるとその“守り”がなくなるので、ほどよく女性ホルモンを補充して病気などのトラブルを繰り延べるのがおすすめです」

ホルモン補充療法は、月経不順になったり、イライラや落ち込みを感じたらはじめどきです。早い方なら40歳前後でスタートすることもありますし、ピルや内服、塗り薬、あるいは漢方などさまざまな選択肢があるので、気軽に医師に相談して」

ただし、このとき注意したいのは、病院によって受けられる治療にかなり違いがあること。たとえば出産がメインの病院ならホルモン補充治療をやっていないこともあるし、月に数万円かかるナチュラルホルモンを処方してくれるところもある(ちなみに保険適用だと月2,000~3,000円程度)。自分の症状や予算、通いやすさなども考えて見極めよう。

ホルモン補充のメリット、デメリット。

フランスの女優、イザベル・ユペールは60代(映画『エル ELLE』2016)。彼女が女性ホルモンを投与しているかは不明だが、フランス女性の多くは女性ホルモン塗布や膣ケアが“日常”だという噂だ。Photo: Guy Ferrandis/© Sony Pictures Classics /Courtesy Everett Collection

「ホルモン補充をすると乳がんリスクが高くなる」と敬遠する人もいるが、対馬先生はそのデメリットを認めつつも、メリットのほうがはるかに高いと語る。

たとえば骨密度。20代をピークとしてどんどん落ち始め、女性は更年期を境にさらに低下するため骨折リスクが高まる。また筋肉量も減るけれど、ホルモン補充療法と食事、運動を取り入れることでそういったリスクがかなり減らせる。膣粘膜が薄くなって生じる出血や膣の萎縮なども防げる、コラーゲンが増えるので肌がキレイになるなど、かなりのメリットが。「たとえば50代にふさわしいホルモン量を60代の方に補充してしまうと、乳がんリスクが高まることがわかっています。けれど、その年代にあった量を少しずつ補えばそういったリスクは回避できるので、上手にコントロールしてメリットを享受して」

また、顔をケアするように、コスメで膣をケアするのも大切。デリケートゾーン専用のウォッシュを使うなどはもちろんだけれど、膣内部の保湿ケアも必要になってくる。「顔の肌と同じで、膣内部の粘膜も年齢を重ねるにつれて薄くなりますし、膣の分泌物も閉経時には、膣壁が20代の半分の薄さになるという報告もあるほど。40代になったら膣内部も含めた保湿ケアは欠かせません」(森田さん)

膣内にも使え、ふっくらとした粘膜に導いてくれる。インティメイト オイル 30ml ¥8,000/WAPHYTO(ワフィト 0532-25-8151)

閉経を迎えた女に与えられる、快感物質という勲章。

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そしてもう1つ、「年齢を重ねたセックス」の素晴らしさを森田さんが教えてくれた。

「肌を触れ合うことでβ-エンドルフィンやオキシトシンなど“幸せホルモン”が分泌されるのは有名ですよね。でも、それだけではなく、クリトリスという臓器には、深くエクスタシーを感じた時に“快楽物質”と呼ばれるアナンダミドを出す働きもあるんです」。これはパートナーとのセックスだけでなく、セルフプレジャーでも同じこと。幸福感や高揚感につながるのだから、年齢を重ね自分の体との付き合いが長くなった女性こそ、うまく活用していきたいところ(上の画像は性化学者とエンジニア、女性2人組みによるフェムテックのブランド『Dame 』のプロダクト)。

「年齢を重ねたら激しいセックスは難しくなりますが、手をつなぐ、触れ合うといったことも含めての性欲は死ぬまであるんです。おばあちゃんなのに恥ずかしいなんていうより、まずは否定しない感覚をもつこと。女性性を肯定しながら、しなやかに100年生きていきたいですよね」

話を聞いたのは……
森田敦子
フィトテラピスト。パリ13大学医薬学部を経て、日本の植物療法の第一人者として活躍。ルボアフィトテラピースクールを主宰し健康を守る知恵と方法を後進に伝える。幅広い知識を活かして商品開発も手がけ、デリケートゾーンケアの分野を切り開いたことでも知られる。今秋にはフィトテラピーと木草学、サイエンスを融合させた女性のライフケアブランド「Waphyto」をローンチ予定。

対馬ルリ子
対馬ルリ子 女性ライフクリニック 理事長。90年代から性差医療を唱え、治療から啓蒙、政府への働きかけまで多様に活躍してきたパイオニア。最新の知識やデータを駆使しつつ患者に寄り添う姿勢に多くのファンが。『女性のからだ ちょっとした不調をなくす本』(ぴあ)等、著書も多数。

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Editor & Text: Kyoko Takamizawa Editor: Toru Mitani