BEAUTY / WELLNESS

良い筋肉を育てるには、力を抜いて。71歳現役トレーナーのボディメイク術3カ条

71歳にして現役のボディメイクトレーナーであるだけでなく、均整の取れたボディの持ち主であるソネジュンコさん。初めは整体師としてキャリアを歩み、自他の体と向き合う仕事をし続けて30年。71歳の今、何を大切にし、人々にどう伝えているのだろうか。 ツラくない“ゆる筋トレ”を提唱したノウハウ本『60歳からの筋トレ入門』(宝島社)を出版したばかりの彼女に、その極意を聞いてみた。
71歳現役トレーナー、ソネジュンコさんのボディメイク術3カ条

71歳現役トレーナーが大切にしていること

40代で離婚、そして実家の事業倒産を経験し、3人の子どもを育てるために専業主婦から転身、体を整える仕事に就いたソネジュンコさん。自身も体を動かしながら40、50代を忙しく駆け抜ける間は更年期特有の症状に悩まされることなく、60代を迎えた。しかし61歳の時、ステージⅢのがんが見つかり(現在は完治)、そこで改めて体の大切さを痛感したという。その経歴を聞くと、苦労を重ねてさぞ大変だっただろうと想像するが、当の本人はあっけらかんと笑いとばしているから脱帽だ。

「あとから思い出すと、逆境を乗り越えたときの方が何倍も楽しかったんです。どこか試練にワクワクしている自分がいました。それに、後悔からは前進はありません。若い頃ならまだしも、私の歳になって反省する時間はあまりにももったいない。そんな暇があったら体を鍛えた方が良くないですか!? 全部忘れて笑顔でいられるのはシニアの特権。歳をとって良かったと思う今日この頃です」

その心意気から破天荒のように見える一方、日々の生活は決して無鉄砲なライフスタイルを送っているわけではない。規則正しく過ごし、食生活に留意し、そしてとにかくよく動く。体のトラブルがあっても薬だけに頼らず、自分の体ととことん向き合って解決する。そんな健康のための基本原則を守った上での“スーパーポジティブ精神”だ。無論ここまで柔軟に物事をとらえられるのは、持ち前の性格も影響しているだろう。

「ツラいことはしなくていい!」。体力に自信がない人も、ただ筋肉を正しく使えていないだけ

では“普通の人”は日々の生活でどんなことを心がけたらいいのだろうか? 老後のみならず、楽しく生きるために大切なものの一つに“筋肉”を挙げるソネさんは、ボディメイクの3カ条を教えてくれた。

其の一:体および筋肉は、力を抜かないと正しく動かせない
其の二:気持ちがいいと思うことだけすればいい
其の三:筋肉量は、その人が持つエネルギー量と同じ

「まず、“力を抜くこと”が鉄則です。力を抜くことで自分の体を俯瞰して見ることができ、体が動かしやすくなります。人間の体の動きというのは、骨盤を基礎とし、背骨の動きが軸となっています。いわゆる体幹ですね。それらを土台としながら、すべてが繋がっているのです。例えば、首は背骨の延長にあるもの、肩は腕や肋骨の付け根という感覚でとらえてみましょう。生徒さんにはいつも“パーツではなく、全体のバランスを見てほしい”と伝えています」

力を抜くのには練習が必要とのことだが、慣れないうちは呼吸を意識するといいという。試しにゆっくりと吐く息を意識しながらストレッチをすると、それだけで筋肉が伸びやすくなり可動域が広がることに気づくだろう。実はソネさんのボディメイク術は器具使った筋トレではなく、気持ちいいと感じる程度のストレッチを基本としている。理由は、筋肉は緩んだ状態でないと動かないからだ。そもそもツライことは続けられないと、がんを患った時に強く認識したからこそ、続けられる範囲の難易度にまであえて落としているという。

また、できないことにぶつかったら冷静に見つめて問題点を把握することも大切だと語る。ここでも“力を抜いて俯瞰して見る”ことの大切さがうかがえる。

「以前、私は開脚ができませんでした。自分では股関節が硬いことが原因だと思い込んでいたのですが、実は原因は別のところにありました。背骨をねじる動きが大切だとある方から教わったんです。これこそ自分の体を俯瞰して見ていなかった証拠ですよね。“できない”という状態は、気づかぬうちに固定概念に縛られている可能性が大いにあるのです」

女性特有のターニングポイントも、筋肉があれば怖くない

さて冒頭で、“40、50代を忙しく駆け抜ける間、更年期特有の症状もなく、至って健康体のまま60代を迎えた”と説明したが、これについては「筋肉量が関係していたと思う」とソネさんは振り返る。そもそも彼女自身は特別なトレーニングをしていたわけではなかったが、整体師やトレーナーとして日々体力仕事を行う中で、自然と筋肉量は維持できていたそうだ。

「更年期がツラい人は、女性ホルモンの分泌量が急降下するタイミングでバランスを大きく崩し、ハード・ランディングしてしまう人だと思います。閉経後、骨粗しょう症になりやすいことが有名ですが、女性ホルモンは筋肉とも深く関係しています。しなやかな筋肉がついていれば、卵巣から分泌される女性ホルモンが減っても、それを補って体を整える効果があると考えます。エストロゲンの低下とともに起きる不調をやわらげることでソフト・ランディング状態になりますから、ツラさはだいぶ緩和できるのでは。“筋肉は一日にしてならず”ですから、できれば30代からコツコツ鍛えて、40代ではぜひ習慣化させたいですね。筋肉量が増えれば50代で閉経後のホルモンバランスの乱れに悩まされることが減りますよ」

ソネさんは、「子宮や心臓など、内臓も全部筋肉です!」と強調する。どうしても見た目を意識した筋トレに目が向きがちだが、体の内側の筋肉まで鍛えることで身体機能を高めることができるということを改めて気に留めておきたい。

改めて、“人生100年時代”に必要な体とは?

今後、世界全体で長寿化が進むにあたり、“人生100年時代”が当たり前になるだろうと言われている。71歳で“現役バリバリ”のソネさんは、新時代を生き抜くために何が必要だと考えているのだろうか。

「まずは便利な世の中になるにつれて、体を動かさなくなってきている現実を見ることが大切ですね。そしてしっかりと自分の体と向き合い、自分の体のトリセツ(取り扱い説明書)を作っておくことだと思います。長生きは良いことですが、動けない体だと楽しくないじゃないですか。私もまだまだチャレンジし続けたいので、どうしたら自分の体がご機嫌でいられるかを観察して、鍛え続けたいと思います!」

インタビューの最後にソネさんは、「今年は登りたい山があるので、最近は階段の上り降りで鍛えているんです」と楽しそうに語ってくれた。こうやって日々進化し続けているからこそ、71歳のトレーナーを慕う人は後をたたないのだろう。もしかすると現役を退く日など永遠に来ないのではと思わされるほど、彼女の笑顔は前向きなエネルギーに溢れていた。

話を聞いたのは……
ソネジュンコ
1952年生まれ。大阪を拠点にボディメイクスタジオ「スタジオソネ」を運営する他、大阪市保健指導委員会講師やテレビ出演など多方面で活躍中。@studio.sone

Photos: Kentaro Hisadomi(SPUTNIK) Interview & Text: Sayaka Kawabe Editor: Rieko Kosai